曲:キミのコレ 歌:玄道カナデ

 ライブ・2Dというソフトで、ぬるぬる動くアニメーション。

 バージョンアップしたようで、顔の表情や細かい仕草などが反映するようになっている。


 オレは、初めて自分からカナデの配信を見た。

 リビングのソファで寛ぎ、パソコンの画面に映るカナデをじっと眺め、つい口ずさむのだ。


「君の後ろに♪ 立っているアタシを見つけて♪ ……こえぇんだよ歌詞が」


 口では何だかんだ言いながら、オレはカナデの歌を楽しんでいた。

 夢中になって、時間を忘れた。


 以下が、聞いている音楽の歌詞だ。


『lost you head♪ lost you head♪

 未成年のくせに 全力で飲酒しちゃうもん♪

 あれ? あいつ、なに?

 こっちに来るんだけど?


 あはっ☆

 取り返してみなよ。鬼さんこちら。

 君の欲しいものはここにあるよ。

 アタシの足にキスをして 取り返してみな?


 lost you head♪ lost you head♪


 ここに椅子があるよ 座りにくいけどいい感じ

 あれ? こいつ、泣いてんじゃん?

 受けるんだけど(笑)


 あはっ☆

 このまま踏み潰しちゃおう♪

 後悔なんてしないよ。

 好きでしてるんだもん。


 一生キミのそばにいるから。

 離れたら――。


 lost you head♪ lost you head♪


 君の後ろに♪ 立っている♪ アタシを見つけて♪


 lost you head♪ lost you head♪

 lost you head♪ lost you head♪


 もうアタシのものだから。(決定)』


 歌い終わったカナデは、「はぁ~」と満足げにため息をこぼす。

 聞いていたオレは口ずさんでしまったけど。

 よく聞いてみると、本当に狂ってる曲。


「何でメロディーが良いんだよ。歌詞がボロクソじゃねえか。おい、勘弁してくれよ! 耳に残るってこれ!」


 最期のテロップで、制作した人の名前が載る。


『作詞 玄道カナデ 作曲 早乙女ゴウ』


 しかも、途中で赤ちゃんの泣き声が音楽に混じっていた。

 曲はポップだけど、ちょいロックが入ってる感じ。

 ノリがいい曲だ。


 だから、耳に残ってる。


「あぁ、くっそ。マジでものすごい歌唱力なのに。やべぇ曲じゃん! あぁ、ダメだ。耳に残ってる。脳内リピートしてる! うわうわうわうわ! やだ!」


 誰もいないリビングで耳を塞ぎ、オレはのたうち回る。

 頭からこの曲を消したかった。

 怖かった。

 ていうか、音楽にホラーっていうジャンルがある事を今知った。


『どうだった? ふはは。メッチャいい曲でしょぉ?』

「最悪だよ。お前、何考えてんだよ」


 コメント欄は、こんな感じ。


『……こわ』

『最高!』

『カッコいい!』

『いや、……夢に出るだろ、これ』


 それを見たオレは叫びを押し殺した。


「ああ! よかった! 常識人がいる! まともな人がいる!」


 なぜか、呼吸が荒くなり、心臓を押さえながら動画を視聴する。


『この曲はねぇ。……まあ、みんなの事考えながら作ったんだよ』

「嘘吐けや!」

『いやぁ、照れるなー。黒民こくみんのみんなは、喜んでくれたよね?』


 黒民っていうのは、リスナーの呼称だ。

 それぞれ配信者によって、配信の視聴者をどう呼ぶかは異なるらしい。


『ふふ、ははは。これ、コンサートで流れます』

「地獄じゃねえか!」

『ねー。超楽しみー』


 心底楽しそうに、カナデは笑っていた。

 オレは今日眠れそうにない。

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