なぜか湧いたアンチ
お好み焼きをたらふく食べた土井は、真っ直ぐオレの部屋に向かった。
何でも配信があるとかで、部屋に行って準備している。
オレはというと、自分の配信をしていた。
「はい。どうも。かきたまチャンネルです。今回は……」
『つまんな』
「どうした? まだ始まってないぞ?」
配信を始めて、違和感があった。
視聴者数は20人になっている。
そりゃ、メチャクチャ嬉しくて、挨拶なんてしてしまったが、早速様子がおかしかった。
『風見レンは性犯罪者』
「バカじゃねえの? 待ってくれよ。何でそう思うんだよ」
『私に気がある振りして、登録者欲しかっただけなんでしょ』
「ん? んん?」
つい、前のめりになって、アカウント名を確認する。
どれも、いつものメンバーと異なっていた。
新顔ばかりだ。
『顔面だけあればいいよ』
「それ死んでるだろ」
『はーやーく。始めろや』
「おおおおおい! 荒れてるぞ! くそ……っ!」
あいつが配信を始めてたら、叫ぶことができない。
オレは肘に口を当て、「ん”ん”ん”ん”!」と声を張り上げた。
たぶん、オレの声は入らないと思うけど、念のためだ。
命を守るためなら、いくらでも大袈裟な真似をしてやる。
ていうか――。
「な、なあ、ひょっとして、……学校の連中か?」
『だったら何?』
ふざけんなよぉ。
土井の
「待って。正気じゃないよ。オレ、全然人気ないのに。何で、アンチだけ湧いてんの? ファンも湧いてくれよ!」
登録者数は、変わらない。
10人のままだ。
なのに、アンチだけが湧いている異常な配信。
『早くしろ』
「え、えー、では、……おえっ。吐きそ」
ゲーム画面を出して、オレは実況を開始した。
「木の皮を剥ぐゲームをします」
『え?』
『なんで?』
反転攻勢の瞬間だった。
実力で黙らせたんじゃない。
オレが木の皮を剥ぐゲームをやることで、相手が勝手に困惑しているだけだ。
ぺり……ぺり……ぺりぃ……っ。
ひたすら、木の皮を剥いで、やすりに掛ける。
コーティング作業をしたら、出荷ボタンをクリック。
これだけである。
『あの、……風見くん?』
「うおおおぃ! 本名言うなよ!」
『だって、これ、……おかしいよ』
『なんて呼べばいいの?』
「か、かきたま」
『……なんで?』
「そういうチャンネル名なんだよ! 別にいいだろ! 配信者名くらい好きにさせてくれても!」
ヤバい。
アンチって、本気でダルい。
しかも、プラスの数字を持っておらず、マイナスの数字しかないから、尚のこと精神的にくるものがあった。
『おい。たま』
「はい」
『なんか話せよ』
言われて、オレは話題を考えた。
確かに配信って何かしら喋ってるよな。
オレは今まで、登録者の誰かがしゃべってくれたら、話すというスタンスだった。
我ながら、クッソつまんない受け答えだ。
「今日は、良い天気ですね」
『夜から雨降るよ』
「え、そうなんだ。やべ。洗濯もの取り込まないと」
『どうでもいいけどさ。脱げよ』
「何を求めてんだよ。オレ、自分のチャンネルで脱いだこと一回もねえよ」
オレがアンチと格闘していると、また一人視聴者が増えた。
『あれ? 今日荒れてるね』
【めぇめぇ】さんだ。
【籠鳥】がオレを叩き過ぎると、いつも止めてくれる女神。
実は、この人のおかげでオレはいつも救われてたりする。
なぜか、【籠鳥(土井)】と仲がいいけど。
「あ、めぇめぇさん。チッス」
『今日はそういう流れですか?』
「ん? いやいや。参加しないでください」
『風見を精神的に追い込もうの会へようこそ』
「バカがよぉ! 物騒な会開いてんじゃねえよ!」
初めて、自分の配信でキレてしまった。
『へえ。そういう事言っていいんだ? ふぅん』
「んだよ」
『言っとくけど。明日から覚悟した方がいいよ』
『ウチらはアンタの事知ってるけど。アンタは知らないでしょ』
『だーれだ?』
オレは直近であった出来事を思い出す。
間違いなく、土井のビラ配りだ。
あれのせいで、オレの所にアンチが湧いた。
で、オレの名前を知っている事が何よりの証拠だが、学校の奴だろう。
ビラを配った所は、職員室と生徒会室。あとは、オレのクラスの女子の机。女子の場合は、全員だ。
「ん?」
そこで、オレはある事に気づいた。
ウチの女子の人数を頭の中で計算する。
「待てよ。確か、AクラスとBクラスは、男女が平均なんだよ。若干男子の方が多いかな、ってくらいで。でも、Cクラスって……」
昨今、女子の人数が増えたとかで、振り分けがおかしなことになっている。だいたい、16人か、17人はいたはずだ。
Cクラスは、30人。
その内、16、7人だから、まだ3人くらい足りない。
「え、これ、同じクラスの女子って事は……」
『バーカ』
「んだと?」
『生徒会メンバーもいますぅ』
「おお、自白したな⁉ 今、言ったぞお前! ここにいるメンバーの目星ついたぞ!」
めぇめぇさんがせっかく来てくれたのに。
オレはアンチと格闘をする時間を過ごしてしまうのだった。
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