土井セイカ/玄道カナデ

ホラゲを配信する。……が

 考えた末、馬島のアドバイスを素直に聞くことにした。


「えー、じゃあ、始めます」


 視聴数4人。

 すげえよな。

 オレの配信を見てくれている。


 オレがやるゲームは、夜間警備をするというゲーム。

 今、配信者の中で、結構プレイされているので、これに決めたのだ。

 正直、本当はやりたくない。

 けれど、視聴者が喜んだり、増えてくれるなら、やってみる価値はあるだろう。


 現在の時刻は、21時。

 6畳半の部屋で、一人プレイするには勇気がいる。

 机に置いたパソコンと向き合い、ゲームの中では暗い廊下を歩いて進んでいく。


 何となく、部屋の窓が気になった。


「……怖いな」


 カーテンを引いていない窓。

 窓越しには、電柱の明かりが見えた。


 夏場は空気が淀んでいるから、白い明かりがぼやけているように錯覚する。それが何となくロウソクの明かりか何かを想わせ、連想して怪談という言葉が浮かんできた。


 しばらくゲームを進めていると、チャット蘭にメッセージが書き込まれた。


『死ね』

「正気かよ。お前」


 4人しかいない中で、誹謗中傷ひぼうちゅうしょうするってハート強すぎるだろ。

 どうかしてるぞ。


『このゲーム。もう古いよ』

「マジで?」

『今は2つくらい新作出てる』


 オレは頭を抱えた。

 ホラーゲームなんて普段はやらない。

 だから、新作のチェックとかするわけがない。


「いや、ほら。オレ、普段はホラゲーとかしないから」

『ひたすら木の皮を剥ぐゲームしてるでしょ』

「う、うん」

『……なんで?』


 ゲームの中を道なりに歩き、サクサク進めていく。

 主観型のゲームなので、恐怖は倍増。

 トイレの出入り口にあるドアの曇りガラス。

 そこに、青白い顔の女が映ったが、オレは真顔でプレイした。


『無視すんな』

「い、いいじゃないか。木の皮を剥ぐの、楽しいぞ?」

『だから、登録者数増えないんだよ?』


 オレはチャットを書き込んでる奴のアカウント名を確認した。


【あなたの後ろ】


 クソ。アカウント名まで怖い。

 もしも、【ポテト】っていう適当な名前だったら、確実に馬島の奴だけど。【あなたの後ろ】なんて名前のアカウント名をした奴は、今までいなかったはず。


 てことは――。


「お前、……アカウント名変えたろ。誰だ?」


 自慢じゃないが、オレの配信を見てくれている奴の名前くらいは憶えてる。だって、少ないからな。


 誰だろう、と探りを入れていると、またチャットが打ち込まれる。


『たまちゃんの事、応援してるけど。死んでほしい』

「お前の情緒どうなってんの?」


 他の人は、不快な思いをしてないだろうか。

 そう思い、オレはハラハラしてしまう。

 不快なコメントを残されると、やっぱり気分の悪いものを目にしたくないから、視聴者が離れてしまう事が多々ある。


 人によっては、思いっきりコメントを削除する人がいる。

 その気持ちは痛いほど分かった。

 生業にしてるなら、営業妨害だ。

 これをネタに使えるくらいなら、もっと伸びるくらいの器量はあるんだろうけど。オレにはない。


「えーと。あ、なんか人がいますねぇ。女の人、二人だぁ」


 ポコン。――チャットが書き込まれる。


『そいつら、パワハラしてるよ。事件の真相と関係あるんだよ』

「え、うん。あの、ネタバレするの止めてもらっていい?」


 キーボード操作で、カチカチと音を立ててプレイしながら思った。


 なんか、今日のチャット変だな。

 今まで、中傷なんてされたことないのに。

 しかも、中傷されて傷つくどころか、困惑の方が勝るという訳の分からない状態になっちまった。


 ポコン。


『言い過ぎですよ。めっ』

『うぃ』


 オレは眉間を摘まんだ。


「……ねえ、何で仲良いの? おかしくないか? オレとのディスカッションどうした? 配信者オレだぜ?」


 やっぱり、おかしかった。

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