こっちを見てる
翌日。
教室で友人の
「おい底辺」
馬島は、トサカ頭の猿顔が特徴。
それにしても、相変わらず、鼻につく態度だった。
「いきなりだな」
「お前さ。配信なんてかったるいの止めて。素直に『アポカリプス』の配信見てりゃいいのに」
前の席に座る馬島は、いわゆる箱推しだ。
アポカリプスという名前のアイドル事務所があり、この事務所が箱。
つまり、事務所ごと推しているのである。
アポカリプスという名前は、玄道カナデの所属する事務所だが、オレは本当に興味がない。
「オレ、……へランド派なんで」
説明が多くて申し訳ないが、『アポカリプス』と『へランド』は、バーチャルタレントを扱った事務所だ。
アポカリプスが、アイドル。
へランドは、タレント。
アイドルも在籍しているから、へランドの場合は総合的と言っていい。
大好きなマリアさんが、そこにいるのでオレは断然へランドが好きだった。
「へランドなんて、スキャンダルばかりじゃねえか」
「でも、マリアさんいるし」
「おま、バーカ。ああいうのは、裏でヤバいんだって。ぜってぇ、彼氏いるから」
タレントからしたら、オレ達二人の会話は聞くに堪えないだろう。
どっちにも魅力があるのは、少し考えればわかる事。
でも、こういった「どっちが好き」みたいなやり取りは、なくならない。
「アイドルだって似たようなもんだろ?」
「いや。アイドルは違う」
「どうして?」
自信に満ち溢れた笑顔で、馬島が言った。
「カナデちゃんが約束したから」
「……はあ」
オレには、リップサービスを真に受けているようにしか見えない。
だけど、馬島は手を強く握り、力説する。
「今や、アポカリプスは海外進出も果たした。世界中と繋がってるんだよ。同接は安定で万越え。これから世界を変えていくっていうのによぉ。彼氏なんか作ってるわけねえべ」
「忙しそうだもんな」
「だろ? 構ってる暇はねえのよ。そんなカナデちゃんを応援するのが、オレ達でしょうが」
「いや、オレはマリアさんが……」
頑なに、オレはマリアさんを推していた。
「てか、お前。収益とかできてねえだろ」
「登録者いないもん……」
落ち込むことを言うなよ、と思う。
「しかも、マスク姿でほとんどお前って分かるじゃねえか」
「だって、凝った映像とかムズいんだよ」
「そういう所で努力しないから。登録者数伸びねえんじゃね?」
馬島はイラっとくる態度や言動が多いけど。
何だかんだ言って、オレのチャンネルを登録している。
見ているのも、会話から察する事ができる。
「んー、……どうすれば伸びるかなぁ」
「さあな。人気の配信者見て、勉強しなおせ」
腕を組んで考える。
心霊スポットで花火でもしようか。――なんて、炎上待ったなしの案が浮かんだ所で、視線を感じた。
視界の端に、こっちを向いている姿がある。
目だけを向けると、斜め向かいの席に座った女子が、さっと前を向いた。
ウェーブの掛かったセミロングの髪。
細い体格の女子で、名前は土井セイカだったか。
教室内で、動画の事を話すのはオレ達だけではない。
オレよか、まんまオタクな感じの奴の方が、よほどディープな話をしている。とはいえ、女子からすれば、こういう話は嫌なんだろうか。
また、腕を組んで唸っていると、視界の端でチラチラとこっちを窺う影が見える。
「め、メントスコーラとか……」
「古すぎるだろ……。おま、みんな離れるぞ?」
「面白いことってなんだよ。みんな、何が好きなんだよぉ」
「流行りのゲームやりゃいいじゃん。ホラゲとか受けいいぞ」
「オレ、ホラーは……」
「そういう所が……」
馬島にネチネチと言われ、オレは頭を抱えた。
心配してくれているのが伝わってくるから、余計に言葉が刺さってしまう。
まあ、趣味でやれたらいいんだけど。
「?」
目を横に向けると、やはり土井がこっちを見ていた。
真顔で見てくるから、「うるさかったかな」と気にしてしまう。
もやもやとした気分で、ホームルームを受ける事になった。
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