第18話 変化
じんわりと額に汗が滲む。
照り付ける太陽の日差しは夏を感じさせるほどの熱を持っていて、少し運動しただけで体が熱気を帯びた。
体育祭が終わり、あっという間に梅雨を越え。
夏休みが見えてきた今日この頃。
「へいパス!」
「おう」
校庭で体育のサッカーをしながら、ぼんやりとここ一か月のことを思い出していた。
体育祭後、俺はクラスに馴染むことができていた。
騎馬戦で活躍してからクラスの男子たちに話しかけてもらえるようになり、そこから女子とも話せるようになった。
初めは人付き合いを拒絶していた俺だけど、環境が以前と全く違うからか新しい気分で人と関われている。
あれからトラウマや陽キャへのコンプレックスも特にないし、思えばあの頃夢見ていた友達のいる青春を過ごせているのかもしれない。
やはり体育祭という行事は偉大だなと思うのと同時に、時間の解決力は凄まじいなとも思っていた。
気づけばあれから半年以上が経っている。鮮明に思い出していた記憶も、いつの間にか風化している。
今の俺と過去の俺。
過去の俺はどんどんと記憶の底に消えていき、いずれ忘れていけるのだろう。
そう考えたら、俺はあの過去もこれから次第で乗り越えていけるような、そんな希望を見ることができていた。
……まぁ、長々しく考えてはいたけど。
結局のところ今俺が楽しめているのも全部、涼風さんのおかげなんだよな。
「おい時雨! そろそろ試合だってよ!」
「分かった、今行く」
そう返事して、ワイワイしているクラスメイト達の方へ向かった。
昼休み。
いつも通り屋上に続く階段の踊り場で、涼風さんと昼食をとる。
「どうですか? 美味しいですか?」
「うん、美味しいよ」
「そうですか! ふふっ、よかったです」
涼風さんへの感謝も、涼風さんからの感謝も今では素直に受け渡しできるようになった。
人ってこんなにも早く成長できるものなんだな。
「それにしても、最近は暑いですね。もうそろそろ夏ですか」
「涼風さんは夏は嫌いなのか?」
「そうですねぇ……暑いのは嫌ですけど、でも寒いのも嫌です。だから四季で見れば夏はまだマシかもしれません」
「寒いのが嫌なんだな」
「すごく嫌です!」
寒いのを想像しながら涼風さんが続ける。
「だって痛いじゃないですか! 冬に自転車とかに乗ったら、顔とか手とかヒリヒリしますし」
「確かにね」
そんなたわいもない話をしながら、今日も穏やかな昼休みを過ごした。
今日の五限はホームルーム。
いつも通り男子に絶大な人気を誇る白波先生が、ぱんと手のひらを叩いて話し始めた。
「今日のホームルームは……もう、何の話をするか分かってますね?」
「「「はぁ~い!!!!!!」」」
「そう、待ちに待った林間学校ですよ!」
「「「よっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!」」」
以前から知っていたことだが、改めて聞いてテンションの上がる生徒たち。
興奮冷めやらぬと言った感じで各々話す中、白波先生が続ける。
「今日は、その班決めと部屋決めをしたいと思います! 皆さん、準備はいいですかー?」
「「「はぁ~い!!!!」」」
「では新島さん、後はよろしくね」
「分かりました」
進行を任された委員長、新島さんが教壇に立つ。
「では、みんなには男女四人組のグループを作ってもらいます。色々方法を考えましたが、ここはみんなを信じて各自決めるという事で。決まったら黒板に書きに来てくださーい」
新島さんの合図で、一斉にばらけるクラス。
友達同士集まっては、誰を誘うだの楽しそうに会議していた。
――かく言う俺は。
「時雨、組もうぜ~」
「だな」
迷いなく男二人組を結成。
中学時代の俺だったら確実に余っていたし、こういうグループ決めは苦手だが今はそんなことはなかった。
他にも組んでくれそうな奴はいるし、今の俺は純粋に林間学校を楽しみに思えていた。
「で、女子はどうする? 冴島とか、宮崎とか色々組んでくれそうな奴はいるけど」
「そうだな~」
どんどんとグループができ始めている教室を見渡しながら考えていると、背後から「時雨君」と声をかけられた。
「まだグループ決まってないよね?」
「あ、新島さん」
「やっほ~」
無邪気に手を振ってくる新島さんと、その隣には高木さん。
そういえばこの二人仲良かったんだよな。
「うん、まだ決まってない」
「じゃあ私たちと組もうよ」
「お、お願いします……」
思わぬ打診に晴天と顔を合わせる。
「仕方ねぇ、組んであげますか」
「なんで晴天君が上からなのかなぁ? むしろ私たちは、ハブられそうな晴天くんと組んであげるんだけど?」
「ギクッ。お、俺ハブられそうじゃないし? なぁ、そう思うだろ時雨?」
「……いや、確かに女子から避けられるかもしれない。だってお前、普段から女子に嫌がられることしてるし」
例えば、露骨に胸見たりとか。
「なんだと⁉ む、無自覚だった……」
「ふっふっふっ、感謝してよね?」
「は、はい……」
こうして、すんなりとグループが決まり。
その後の部屋決めも、驚くほどに揉めることなく決まった。
「よろしくなぁ、要ぇ?」
「よろしく、竜見」
「うちの部屋は消灯時間を守る、でいいよな? 間違っても女子の部屋に行こうとする奴は出さないようにしないと」
「「ギクッ」」
川上の言葉に反応する、うちのクラスのバカ二人。
「時雨君、二人で頑張ろう」
「そうだな」
「「なんでだよ!」」
焦る二人に、しっかりとこの二人を監視することを誓う俺と川上だった。
――そして、運命の林間学校が始まる。
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