第17話 大活躍
大盛り上がりを見せて体育祭はつつがなく進行していく。
俺たちのクラスが属する白組は、赤組に三十ポイント差をつけられて現在二位。
これからの種目次第で逆転もありうる悪くない順位なのだが、俺たちのクラス周辺のテントはどんよりとした雰囲気に包まれていた。
「最悪だ……」
「何故我々が一位ではないのだ!」
「め、女神に勝利を……女神に勝利を……」
「他のクラスの奴らに活入れてくるわ!」
「俺も行く!」
「ゴラァァ三年やる気出せやぁぁぁぁ!!!!」
「な、なんだよお前ら⁉」
女神の従順たる使徒になったうちのクラスの男子は大暴走中。
熱量が桁違いで周りがドン引きしている。
『次の種目は、騎馬戦です。出場者は入場ゲートに集まってください』
「お、次俺たちの番じゃないか?」
「だな。行くか」
極力体育祭に参加したくなかったのだが、最低でも一人一種目は出なければならず、じゃんけんに負けてその一種目が騎馬戦になってしまった。
動きも俊敏ではないし、腕っぷしも弱い俺が……不適任すぎる。
憂鬱な気持ちで立ち上がると、クラスの男子たちがぎろりと揃って俺に視線を向けてきた。
「おい時雨! お前絶対にぶち負かしてこいよ!」
「ナイフでも何でもいい! とにかく相手を●せ!!」
「晴天! 相手の弁慶だ! それか金的を狙え!!」
「お、おう」
「う、うん」
ありえない命令を受け流しながら入場ゲートに向かう。
入場し、早速騎馬戦が始まった。
俺は体重の関係で一番上を担当。
役割が騎手とか、ますます荷が重い。
「時雨、どうする?」
「……一対一じゃ無理だ。漁夫の利を狙おう」
「そうしよう」
具体的な作戦内容は、誰かが戦っているところをこっそり奇襲して鉢巻を取るというもの。
早速漁夫れるところを探していると、一際殺気立った騎馬が目に入る。
「我が女神に……我が女神に勝利を捧げよッ!!!!!」
「うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
チーム白波ことうちのクラスの暴走男子たちが、ものすごい剣幕で他の組の騎馬を襲っていた。
流石の勢いに怯む他組。
それでも拮抗した状況に、俺はサクっと背後を回って鉢巻を回収していった。
「(あいつらが目立つおかげで、だいぶ動きやすいな)」
その調子で戦うことなくどんどんと漁夫っていき、最終的に……。
『一位、白組!』
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!」」」
野生の肉食動物のように咆哮する男子たち。
俺は大量の鉢巻を片手に、騎馬から降りた。
「やったな時雨! たぶん最多得点だぞ!」
「まさかこんなに作戦が上手くいくとはな」
自分でも驚いていると、吠えているクラスの男子たちがわらわらと俺の方に駆け出してきた。
「(な、なんだ⁉ 一体今から何が……)」
「うぉぉぉぉ時雨よくやったぁぁぁぁぁ!!!」
「最高だよお前はぁぁぁ!!!!!」
「……へ?」
騎馬戦に出場していなかったクラスの男子たちも集まってきて、もみくちゃに揉まれる。
いつの間にか持ち上げられ、胴上げされていた。
「「「わっしょ~い! わっしょ~い!!!」」」
「や、やめてくれ!」
「お前がMVPだぁぁぁぁぁ!!!!」
「さすがは涼風さんの彼氏だわぁ!!!!」
「お前ならできると思ってたぞ!!!!」
終わらない胴上げに目が回る俺。
『白組の男子! 早く退場してください!』
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」
暴徒化した男子たちに、当然その声は聞こえるわけもなく。
『話聞けやコラァッ!!!!!』
とうとうマイク越しにキレた放送部の声でようやく胴上げは終わり、退場した。
歓喜に満ちたクラスの男子たちとは対照的に、ヘロヘロになりながらテントに戻る俺。
「な、なんで助けてくれなかったんだ」
「いいじゃん、胴上げされる機会なんてそうそうないんだしさ? されとけされとけ!」
「く……」
でも晴天の言葉は一理ある。
クラス一丸となって何かを達成するというのは、俺には初めての経験だった。
しかもクラス一丸の中に俺は入っていて、しっかり貢献できた。
だから胴上げをされたわけだし、正直恥ずかしかったけど嫌ではなかった。
むしろ少し嬉しいというか、なんというか……でもやっぱり恥ずかしい。
「お、これはこれは英雄の凱旋だね?」
「からかわないでよ、新島さん」
「別にからかったりとかしてないよ? ほんとにすごいよ、見てて驚いちゃった」
「それは……どうも」
「うんうん、どうもどうも!」
ニコニコの新島さん。
やはりうちのクラスの男子は桁違いにしても、みんな体育祭で勝つことに喜びを見出しているみたいだ。
よく見ればクラスの女子たちも、騎馬戦で一位になって総合暫定一位になったことに嬉しそうで、活躍した男子たちを褒めたりもしている。
俺はこれに参加して、その喜びの輪の中にいるのか……無性に感慨深い。
感傷に浸っていると、後ろから肩をトンと叩かれた。
「お疲れ様です、時雨君」
振り返ると、そこには普段とは別の輝きを放った涼風さんが立っていた。
いつもは下ろしている髪の毛を一つに纏め、ポニーテールにしている。おまけにしっかりと鉢巻を巻いていて、普段とは違った可愛さがあった。
「あ、これ飲みます? レモンをつけたジュースなんですけど、疲労回復効果があって」
カップを俺に差し出してくる。
「ありがとう、もらうよ」
「ふふっ、どうぞ」
「……うん、美味い」
「それは良かったです! まだ欲しかったら言ってくださいね。まだまだありますから」
「おう」
確かにこれは疲労回復に聞きそうだ、なんて思っているとふと周りが静かなことに気が付く。
見渡してみると、周りの生徒の視線が俺と涼風さんに集まっていた。
「あ、あれ? なんでこんなに注目されてるんでしょう」
「わ、分からない」
あたふたしていると、次第にパチ、パチと拍手が沸き起こってくる。
「もう夫婦じゃん」
「見てて癒されるよねぇ」
「ど、どういうことですか⁉」
恥ずかしそうに照れながらも、俺を見て「えへへ、困っちゃいますね」とはにかむ涼風さん。
俺にそんな余裕はなく、「そうだな」と小さく頷いてジュースを飲み干した。
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