第16話 熱い体育祭
「これより、体育祭を開催します」
開式の言葉が終わった後、懐かしい準備体操に入る。
軽快な音楽が流れる。すると、わがクラスの生徒(男子大半)はやる気マックスファイヤーで準備体操していた。
「1・2・3・4-」
「「「ごぉぉぉぉ!!!!! うぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」
ねぇバカなの? 数を数えることを忘れてそのままジャングルにでも帰るつもりなの?
準備体操を仕切っている体育委員もとい、他のクラスの人たちは全員ガチ引きしている。俺はミスディレクションを発動。同じ奴らだと思われないようにしよう。
なぜ、こんなにもクラスの男子が比較的やる気がある女子よりも数億倍やる気があるのかというと……。
本部席より日陰で俺たちのことを見守る白波先生に勝利を上げたいんだとさ。ちなみに、わがクラスの掛け声は――
「わが女神に、勝利を捧げよぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
だ。な? 頭いいけどセンスのひとかけらもないだろ?
しかし、それで白波先生は心底嬉しそうにしているのでこいつらの士気は高まるばかりだ。
ちなみに晴天はというと……先ほどから周りをきょろきょろと見ながらなんとなーく準備体操中。
「なぁ時雨。準備体操ってさ、なんかエロいよな」
「は?」
「だってジャンプのときとかさ、もうボーナスタイムじゃんボーナスタイム。うっひょーいろいろとやる気出ちゃったわこれ」
「お前一度死んだほうがいいぞ」
「最近時雨口わりーよぉー」
何だろうか。最近では晴天に対して強く当たってもいい……いや、強く当たったほうがいいと思い始めている。たぶん正解だと思う。こいつドMだし。
そんなこんなで準備体操は終わり、生徒が控える場所へ移動する。
クラスごとに二つ、大きなレーンに沿ってテントが用意されていて、そこで観戦をしたり応援をしたり、待機をしたりするらしい。まだ本格的な夏は到来していないとはいえ、紫外線は敵だと校長が言っていた
生徒達が控えるところでは、レーン及び競技が行われる場所に近い方にリア充。そして奥の草むらに近い側に陰キャという、明確な立場の格差が見え見えだった。うん怖い。
やはり現実の学校社会ではこういうことがあるのだ。恐ろしき青春の民。
「おっ最初は佐久たちが出るっぽいぞ。確か競技はー……障害物競争みたいだな」
「おぉーそれはまじ期待だわぁ。佐久ならぶっちぎりだわぁ」
そんな会話をリア充集団がしている間に準備は整ったようで、障害物競争が今始まろうとしていた。
ちなみにこの学校の体育祭は学年関係なしに同じ組同士がチームを組み、競技に参加する。
俺たちのクラスは白組。ちなみに涼風さんは赤組のようだ。あと、緑と青がある。
「よーい、ドンっ!」
その掛け声とともにスターターピストルの音が鳴り響く。
体育祭の第一種目がスタートした。
「おぉー始まったな。さてさて、これで女子の体操着姿を合法的に凝視できるわけだ」
「お前の体育祭はずいぶん一般的な解釈とずれてるな」
「がははは!!!」
ちなみに俺たちはテントの中間らへんで観戦。
なんともまぁ俺たちが微妙な位置づけになっていることを暗示しているようで、体育祭の控えテントでの立ち位置は実に恐ろしいなと改めて思う。皆さんこれがカーストというやつです。
競技はその後、円滑に行われていった。
赤組が一位で、白組が二位。
そして勝負は最終レーンへ。
「ごめん佐久! 後は頼んだ!!」
「おう!! 任せろ!!」
ここで真打登場。
さわやかイケメンの川上が赤組を追う。
最終レーンだけは障害物はなく、単純なスピード対決ということになる。しかし――
「まずいな。あれは三年の檀上先輩だ。陸上部のエースで確か県上位だった」
「なにぃ⁉ それはやばいわぁ。佐久ピンチだわぁ」
「でも、あいつなら大丈夫だ」
その言葉通り、差は少しずつ縮まっていく。
陸上部県上位だというのに、全く引けを取っていない。むしろ追い上げている。
どこまで川上は完璧なんだ。
「「「いっけぇぇぇぇぇぇぇ!!!!!」」」
リア充集団もといクラス全員と付属して川上ファンの緑と青組の生徒たちがエールを送る。
おい緑と青組仲間見捨てんな。
そしてそんな声援を受けて、ゴール手前で赤組にならび、最後は神に愛されて少し前に出てフィニッシュ。
ほんと、あいつの方が主人公らしい。
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」」」
大歓声が上がる。
一種目目にして、体育祭は最高調の盛り上がりを見せていた。
「このままいくぞ白組ぃぃぃぃぃ!!!」
「「「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」」」
「「「わが女神に勝利を捧げよぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!!!」
……でもやっぱり、その掛け声はやめてほしいな。
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