「私、ドクターペッパー好きなんだよね」

@gho-hitu

私、ドクターペッパー好きなんだよね」

暗くなり始めた学校からの帰り道、風が心地いい。

駅までの道は人でにぎわっていたが、それもどこか寂しく感じられた。

彼女の少しなびく黒髪を、俺はただ眺めていた。


「私、ドクターペッパー好きなんだよね」


聞き間違いか?

この世界にそんな人間いるはずないだろ


「あの味が癖になるの」


嘘をつくな、あれは湿布の味だ

どんなゲテモノ好きでも湿布は食わない

湿布は食い物じゃないから


「ドクターペッパーが好きすぎて、いつもケースで購入するんだ」


そんなはずはないだろ

あれはコストコでしか売ってないんだから

ていうか好きすぎるだろ


「正直、他の飲み物とは一線を画してるよね。」

「…ルートビア以外」


ルートビアとかほぼドクターペッパーだろ

あれは2Pカラーぐらいの差なんだから

マルスとルキナぐらいの性能差だから

あと湿布を飲み物のtierランクに加えるな

湿布は飲み物じゃないから


「ちょっと毒舌過ぎない?」




「ねぇ」


「今日でお別れだなんて、なんだか実感ないや」



気づけば駅は目の前だった。


彼女は今日で転校する。

駅の構内を歩きながら、彼女は話を続けた。

「もう会えないんだね」

「知らない学校に行くのはそんなに悪い気分じゃないんだ

ここより新しい校舎だから、いろいろキレイらしいし」


「でも」


「朝、学校に行っても、君の顔がみえないのはちょっと辛いかな」


その表所は見えなかった。


「だから、私の好きなもの、教えたんだ」

「もし離れ離れになっても、君がドクターペッパーを飲んでくれれば、私のことを思い出してくれるように」

「場所はちがっても、同じ時に、同じ味を飲んでるって思えるように」


ほとんど告白みたいなものだった。


「でも、ダメみたいだね」


いや、飲むよ

常飲するよ

そりゃもう、湯水の如く飲むよ

ケースで買うよ


「えっと…無理はしないでね?」


「でも嬉しい」


「本当にこれでお別れだね」


気づけば、2人は改札前の広場にいた。

そして俺はゆっくりと、言葉を紡いだ。


「最後になるから、俺も好きなものの話をしようと思うんだ」

「いいよ、何?」

「君だ」


「…」


「君が好きだ、付き合ってほしい」



「…いいよ」


朝、鏡をみる。

少し冴えない自分の顔が映って、その度に私は思い出す。

この私を好きでいてくれる人が、確かにこの世界にいることを。

歯を磨いて、朝ご飯をたべて、


ドクターペッパーを飲む。

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