第28話 素人は大人しくしてくれないか!?

 タマキが再寧と遭遇する少し前──


「動きナシ。昼に出たっきりで部屋から一歩も出ていないさ。いい加減、飽きてきた」

『一言余計だ。こっちは連絡役と見られる女性を見つけた。くれぐれも一人で突っ込むんじゃあないぞ!』

「わかってるさ」


 探偵、深里みさとは再寧との連絡を切る。


 彼女は張り込み中だ。特能課課長の車を借り、その中でマンションの一室を張っている。

 張っているとはいえ凝視しているワケではない。特に深里には『糸』の能力『コッペリア』がある。その『糸』が一室に向けて「張って」、探知の役割を担っているのだ。

 文字通り針に糸を通すような、精密な動きを可能とし、糸で敏感に動きを把握できるその能力は、なるほど確かに張り込みにうってつけなのだろう。


 内ポケットからパイプタバコを取り出す。彼女は喫煙者だが、すぐにむせるほどタバコの臭いに弱い。しかし深呼吸の代わりに喫煙し、一息落ち着く為に、極薄く詰めて吸うのだ。

 喫煙者は皆、カッコつけるか付き合いで吸ってる。彼女はそう考えてるし、特段気にしていない。


 一つ気にすべき事は、この車は非喫煙者の課長の車であるという点だ。


 臭いが付いたらヤバい。真面目な華蓮先輩は例の如くボコボコにしてくるだろうが、少女への拘りが強い課長の座席をヤニ臭くしたとあらば、うんボコボコでは済まない。確実に。


 深里は、借り物の車だからという理由には着地しなかったが、ともかくこれはいけないと車から降りる。


「ムっ」

 リアクションが演技くさい深里は、目の前にいたその人物と目が合い声を出してしまった。

 30代半ばほど、痩せぎす。目つきの悪いその男性が、心底不愉快そうに舌打ちし、深里へ話しかける。


「お前……お前だよなぁ、さっきから……。その車、ずっと停まってんだよなぁ」

「はて。そんなに経っていたかな、こんな所に来て。いや失敬」

「なぁオイ、誤魔化してんじゃねぇぞクソが。さっきからずっと、見てやがったのコッチ見てんだぞオイ」

「『深淵を覗く時……深淵もまたこちらを覗いているのだ』。ニーチェの有名な名言だが、さて知っているかな?」

「バカにしてんだろ? オイ、その態度ウザいんだよ。なぁ、聞いてんのか?」


 コイツは──困ったな。張り込み対象が自ら出てくるとは。それに、私の『コッペリア』が玄関へ仕掛けた糸が反応せず目の前に来ようとは。『糸』が見えていた。そしてそれを避ける手段、つまり──。


「聞いてねぇよなぁぁっ!!!」

「うるさいなぁ~、すぐ怒鳴ればいいと思っている阿呆アホウが。コミュニケーションの基礎は小学生のウチに済ませたまえよ」

「バカにしてんだろ? ソレ、そうだろオイ!!」


 考えている間、深里は既に攻撃の準備を済ませていた。懐に忍ばせていたナイフに触れ『糸』を繋ぐ。動作はそれだけ。

 目の前の男が頭に血が昇って完全に盲目になったそのスキに──右人差し指を、クイっ、と、ほんの少し動かしナイフを飛ばす!


「マジに話の通じんヤツはダメだな」

 ナイフは男の右肩を刺した。刃渡り5センチ。隠し持ってる時点で軽犯罪に違反し処罰されるそれは、結果的に護身の役に立った。


 ──かに見えた。


「うぐぅ……!?」

 男の右肩に刺さっていた筈のナイフは、鮮血をまとい深里の頬を掠めた。避けられたのは反射だった。逆に飛ばされたのだ!


「コイツっ!」

 何故投げたハズのナイフが、逆に自分に向けられたのか?

 そんな疑問を持つ間もなく、深里は残る4本の指を引き糸を操る。繋がっている先は自身だ、自身の肩と胴体、右太ももと、さり気なく仕込んでいたのは自分の体だ。

 踏み込む動作などなく。深里は男に向かって真っ直ぐ、鋭い飛び蹴りを放つ──!


 ──ドスドスッ!!


 深里の胴体に、無数のクギが突き刺さる。飛び蹴りの大勢は大きく崩れ、コンクリートの地面へ不時着し、無防備を晒す……!


 ぴんっ、ギュンっ!!


「うおぉぉぉっ!!」


 糸が張り、深里の体は真横へ平行移動し回避する!

 鉄筋だ。レンガから剥き出しになったものから引き出したのだろうか。それが3本交差し、深里がいた場所を打ち付けた!


 すんでのところだった。あのまま呑気に寝そべっていたのなら、自分はまず間違いなく助からなかっただろう。

 深里はそう思わざるを得なかった。コートの下で背筋を凍らす。


 目の前の男は憎々しげな様子を隠さない。

「チッ、クソがァ!」

「コイツ……!」

 マジにヤバい。何故これほど気が立っているのか? その理由は?


 考えるまでもなく、深里はその結論をつけた。それ自体、今回こうして張り込みをしている理由なのだから。


 次に深里が取った行動は、逆利用だ。避けた鉄筋に触れ、指をクイッと動かす。素早いその動き、それにより鉄筋に『糸』が張る。

 5本の細いその線は、一見頼りないものでありながら、しかし鉄筋をまるで枝のように容易く持ち上げ投げつける!


 だが、その鉄筋で男を攻撃する事は叶わなかった。

 投げつけた筈の鉄筋が、打ち捨てられた残る2本に、不自然に引き寄せられたのだ。投げた筈が、戻された。


 ゴゥンッ!! と一際大きい音が、昼の住宅街に響く。

 深里は一瞬面食らった。


 だが考えているヒマはない。仕込んでいた次の策に即座に移っていた。

「マトモにやってられるか!」

 鉄筋に触れたのは左手だ。5本の糸は5本の指によるもの。右手、そして両足の糸を張り、深里は自身の体を逆バンジーのように大きく飛ばす!


「逃げんじゃねェェェェ!!」

 男が怒鳴った。その周囲にネジやトンカチに、鉄パイプが浮かび上がる。追撃だ。

「ナメる……なァっ!!」

 対して深里は用意周到だ。左手で自分の体を撫で回し、両指の『糸』を張る。すると体がきりもみ回転し、空中で身を翻して追撃をかわす──!


 ビスビスッ!


「うっ!」

 確かにかわしたはずだった。しかし事実として、飛来物は深里に襲いかかっていた。


 まただ。ナイフが戻って、鉄筋がくっついて、ネジやら色々が避けても当たって。

 間違いない、『磁力』だ。だが、なぜ自分の方にまで飛んでくる?


 深里が引っかかっていたのはその点だ。考えている間、下方に再寧とタマキの姿を確認し、地面に不時着した。


 深里は叫ぶ。

「逃げろ華蓮先輩っ!! リンカー能力が来るぅっ!!」


 *


「『ニンヒト』!」


 飛来してきた物に対し、僕は判断に迷わなかった。ヒカリに指ささせたのは鉄パイプだ。

 ヒカリの指先に宿る光は、一筋の光線として放たれ鉄パイプを弾く!


「『トータルリコール』、再生リプレイ


 対して再寧さんは冷静にリンカー能力を発動する。 倒れる深里さんのコートに触れ、半透明のコートがふわりと空へ舞い上がった。

 いや、正確にはなぞっているんだ。能力で作りだされたコートが、深里さんが落ちてきた道筋を、まさにビデオの『早戻し』のように!

 空中へ戻るコートが、残るネジやトンカチを覆ってガードする!


 攻撃を止めた、そのスキに再寧さんは、その小さい体からイメージつかないパワーで深里さんをヒョイと引っ張り上げ、僕らはレンガ壁の陰に身を隠す。


「ノビてる場合じゃないぞ、こっち来い深里!」

「ヤツめ……。この紫苑 深里しおん みさとの美人顔にキズをつけるとはナンセンスな……」

「口だけは回るな、ヤツを連れてきやがって! 物陰で休んでろ!」

「気をつけたまえ! ヤツはリンカー能力者だった、ビンゴさ!」

「何度も言わなくったって分かってる! ちょっと黙っていろ!」

なんだ! 我妻さんも聞きたまえ、ヤツは例の機械を持っているかもしれないんだ!」

「……え?」

 教団の信者? そう言ったのか、この人は?


 僕は目を見開いて深里さんを見る。隣の再寧さんは呆れて顔を伏せていた。


 そんな反応をされるものだから、じゃあ、再寧さん達は教団を追って……?


 ピスっ!


「なっ……!?」

「タマキ!?」


 僕の腕に、本当に浅くだが、釘が1本飛び刺さっていた。

 一瞬焦る。それはそうだ。だがキズの浅さから冷静になり、あっさり抜いて観察する。


 さっきの撃ち漏らし? いや、そんなノンキな反応で片付けていいものじゃない。コートで覆われてその勢いを打ち消されたはず。


 足元に転がる他の飛来物に目をやる。トンカチは動いていない。角ばってるからか。ならばと釘や鉄パイプを見ると、わずかにコロコロ動いていた。坂でも強風でもないのにだ。じゃあ──


「この不自然な動き、磁力か? 再寧さん」

「わかってる。……ここで待ってろ、すぐ終わらせてくる」

「待ちたまえよ華蓮先輩」


 呼び止めたのは深里さんだ。ボロボロの状態でも余裕そうな態度を見せ、僕の方も見て話しかけてきた。


「一人で突っ込むつもりだろう、見え透いているよ。だがもう、我妻さんはやる気満々みたいだ」

「お前な……!」

 鼻につく言い方をする……!


 僕だって心の中でボヤくぐらいにはムッときた。けどこの状況、何より再寧さんが一人で突っ走ろうというのなら、言い方なんて気にしてられない。


「深里さんの言いたい事は何となく分かります。要するに、再寧さんにムチャして欲しくないから、僕らに一緒に行ってくれって頼みたいんでしょう? そう言えばいいのに!」

「大人は素直になれないものなのさ。特に、気の置けない仲になればね」

「馴れ馴れしいだけのヤツが勝手に突っ込んどいて何を言うか」

「辛辣な事言ってる再寧さんも、人のこと言えませんよね?」


 流れに乗って再寧さんへ追及をする。その再寧さんは徐ろに、こっちに顔を向けた。その目が合う。


「なんだと?」

「深里さんが言うように、再寧さん一人でこのリンカー能力者と戦うつもりだったんでしょう? 民間人の僕を巻き込みたくはないとか言って」

「分かってるのなら大人しく待っていてくれ」

「言ってましたよね再寧さん! 『頼れる事があれば声をかけていいか』って! 僕は頼られてるって思えた、こんな思いは初めてだってそう感じた!」

「あのとき言ったことでこんな面倒な話し合いせにゃならんのか? それは非戦闘で知識を借りる程度だ、アテにしてない!」

「けど僕は貴女を頼りにしてきてる! それは貴女が良い人で、僕らを守ってくれる人だからだ! そんな貴女の助けになりたいんです!」

「なら素人は大人しくしてくれないか!? 私は君らの戦闘における立ち回りなど知らん!」


 カラランっ!!


 その音に即座に僕らは反応し振り向いた。さっきの鉄パイプだ、動き始めてる!

「ふんっ!」

 それをヒカリが踏みつけ動きを抑えた。足の力加減を見るに、鉄パイプに力が加わってるようだ。


「あまり悠長に話してる時間は無さそうね」

「そうだね、まずは敵の能力の分析だ。磁力はどこから発せられてる? 対峙してたであろう深里さんじゃなく僕らも狙えたけどパワーがまるで無い。動きも不安定だった、ならば距離も関係してるか?」

「何をブツブツ言ってる? 理屈じゃない、今は攻撃されてるこの状況が大事だろう!」

「それはそうですが、理論が分かれば敵の動き方も分かるかもしれません! 特にこの攻撃は磁力、ならば磁力線の作用が分かれば読みやすいハズです! 正極から負極に流れる作用が!」

「説明されなくても分かる、小学生の頃にみんなやったろ! 叩き上げのノンキャリア舐めるな!」

「悪いわね再寧さん。これがタマキの戦い方なの」


 再寧さんは観念したようにため息をついた。そのしかめっ面に、さっきまで偉そうに反抗してた僕はちょっと竦んじゃう。


「……そんなに頼られたいのなら、知恵と援護射撃を借りよう。君の知恵とヒカリさんの光線だ」

「安心して、再寧さん。私、再寧さんのリンカーよりパワーアップしたから」

「本体以上のクソ度胸だな、君の相棒は!」

「あっ、ハハハっ……」

「だったら……能力者のから紐解くのはどうだ?」


 再びのため息交じりに再寧さんはそう言った。何より僕は、その口ぶりに引っかかったのだ。


「性根? 確かにリンカーは人の心や願いだと常言われてますけど……。このリンカー能力者に心当たりが……いや、それもしかして、そんな流れですよね?!」

「……さっきの話には、続きがある。追いながら話すぞ」


 『トータルリコール』の『早戻し』を発動し、能力で作られたネジが逆方向へと行く。深里さんを置いて、僕ら3人はそれを目印に追った。

 それが答えだと言わんばかりに、再寧さんが話を始める──


「今追っているのが、さっき話した誘拐未遂の殺人犯、長良山だ。とっくに予想ついてるとは思うがな」

「……はい」

「世の中に絶望していたヤツは、最期に好きな事してやろうとして誘拐しようとした。だからその後も執拗に……ニルを追いかけて車で撥ねたんだろう」


 酷いヤツだ。ただひたすらそうとしか言えなくなる。


「逮捕後の長柄山はそれは面倒なものだったという。なんたって懲役10年だからな、獄中の様子は私にもある程度は聞いている。ただ──」

「ただ?」

「聞いていた話だと、ヤツは実刑判決後、何度も獄中自殺を図ったそうだ。監視員が止めては最終的に理由を取ってつけて拘束していたが……7年目を過ぎたある時、借りてきたネコのように大人しくなったという。突然だった。理由も検討つかないが、当時の監視員曰く、諦めがついたんじゃないか、という他なかったのだと」


 そうこう話しているウチにアパートへと着き、再寧さんを先鋒に階段を駆け上がる。僕とヒカリはその後ろで並んで歩を進めた。


「さて、こんなトコだが……どう思う?」

「聞いてるイメージだと、無鉄砲なヤツのように思えます。後先なにも考えない……衝動的で、何失ったって怖くない、典型的な『無敵の人』みたいな……」

「なんだそりゃ。いま苦しんでいる状況で無敵もあるものか。いや、今はいい。それで、能力をどう見る?」

「その話で車で出てこれたのも、『磁力』が関係しているのなら説明がつきます。……何か、長柄山の『こだわり』みたいなのってあったんですか?」


 再寧さんは一度、首を傾げる。

「『こだわり』? ……なるほどな。変わらなかったのは『パーソナルスペース』だ。ヤツは自分の陣地を作りたがった。牢屋の中でも、食堂でも。人と話す時も必ず一定の距離を置かなければ、見るからにイライラし始める」

「……まあ、その。僕も分からなくはない事ですけど、姿を見せずに攻撃するような事はないですし、もっと強い願いがあるのかも……」

「距離、だな。基本に忠実に、慎重にだ」


 部屋の前で半透明の釘が止まる。この部屋なのか。不気味な話のようでいて、けれど僕と……いや、多くの人と同じように、世の中に恐れを抱いてる男がいるのは──。


 僕は再寧さんの顔を見やる。頼りにしてるけど、過ごした時間はほんの少しだけ。友達ではなく、僕にとってなんて言い表したらいいか、まだ分からない人──。

 その再寧さんに、訊ねる。


「それと、あと、一つだけ」

「なんだ。まだ、何か?」

「あっ、再寧さんは、その……復讐、のために、いま、どんな事を考えて、ここにいるのかなって……」

 変な言い方に、なってしまった……。ただ再寧さんの表情が気になっただけなのに……。


 再寧さんは一度、ドアを見上げてから言葉を紡ぐ。

「……警察の仕事に、個人的な感傷なんていらない。ましてやあの事件自体、私ではなく、ニルのお姉さん──丹羽 ネルさんが重く背負った。ご遺族の方が弔うものを、どうして私ごときが復讐する権利があるものか」

「……すみません」

「や、謝ることじゃない。タダの私の勝手な考え方だ、気にすることは無い」


 再寧さんは──少し顔をしかめていた。当然だ、僕が変な事聞くから。

 それでも、すぐに切り替える。


「いいか。私の『トータルリコール』は『逆再生』を用いれば追えなくはない。さっきみたくな。だがそれには『推理』と『巻き戻し』するまでの時間を必要とする。敵を『追跡』できても、『特定』には至れない。どこで息を潜めているか、用心しろよ」


 再寧さんは鍵を取り出す。錠と合わないはずのそれで何をするかと思えば、それをドアノブに近づけた。『磁力』を確認してるんだ。鍵は動かない。

 僕ら3人は顔を合わせて頷く。


「もう一度、念を押す。私が求めてるのは『援護射撃』だ。決して前線に立つなよ」

「……分かってます。再寧さんが、誰も傷つくとこを見たくないって事」


 再寧さんがドアノブに手を添える。カチャリと解錠の音がした。

 今度こそ息を潜め、一歩下がってヒカリに指鉄砲を構えさせる。


 再寧さんが、ドアを一気に開ける!


 ……いない。電気の点いてない玄関、思ってたより暗い。


 警棒を構え、一歩、進む。


 右に扉あり。それに目を向け、警戒し──


 ──ドスっ。


「くぁっ……!?」

「さ……再寧さんっ!?」

「『トータルリコール』、巻き戻し!」

 刺さったのはフォーク! 背中だ! 『早戻し』でフォークの動きが戻っていく、玄関の天井、ここからは死角だ!


「タマキっ!」

「ニンヒトっ!!」

 ヒカリの呼び声で頭を切り替えた僕はすぐに詠唱した。それと共にヒカリは踏み込み、上に向けて指を構えて狙いを定め、3本の『ニンヒト』の光線が放たれる!


 呻きと共に人が落下する。男性だ。倒れるその人物にヒカリがスキを見せず蹴りをかますのを見て、僕はすぐに横移動した。案の定、その人物が僕がいたすぐ後ろの格子に叩きつけられた。


「ソイツが長柄山だっ!!」

「でしょうね!」

「っラァ!!」

 敵──長柄山は僕から距離を取って飛び退く。それは玄関の死角、つまりヒカリ達の死角でもある位置に移動したということでもある。

 そんなそいつが何かを投げた。大振りだったから反射的にガードする事ができた。


 しかしそれからが問題だ! 腕に刺さっている、フォーク! そして包丁、それも刃を当てられて──!

「シャアァッ!」

「うあっ! がっ……!」

 引かれる! そこまでのパワーじゃない、切断はされない。骨をエグる程度、充分だ!

 ワザとだ、ステーキなんかを切る時の動作! 僕の腕にそれをやりやがった!

「タマキっ!!」


 すぐさま玄関から出たヒカリの叫びと共に放たれる『ニンヒト』。詠唱が無くとも放てる微弱な光線だ。

 対して長柄山はついに自らのリンカーを出現させ、それを弾いた!

 頭にU字マグネットを斜めに付け、腕にI字マグネットが装着されたロボのような人型リンカー。


 コレが、コイツのリンカー!


「ヒカリさん伏せろォ!!」


 再寧さんが飛び出す。パンパン鳴る銃声には一瞬、腹の底を掴まれたような驚きを感じた。迅速で容赦ない銃撃を、再寧さんが行ったのだ。


 だが──もっと驚く現象が起きていた。


「なっ……!?」

「なんだアレ……!? 銃弾を弾いてすらいない! 目視できる速さに、まるでスウゥ……と減速する車のように勢いを失ってる! それがピタリと空中で静止した……!?」


 思わず声を荒げた僕と、身構える再寧さん、ヒカリ。

 対して長柄山は、首でも痛いのか、頭を斜めにし、心底不愉快そうな顔を向ける。


「人様に向けて銃とか……ナマイキなガキだなぁぁ? でも効かねぇ。オレの『インナーシティ』に金属は無意味だって、まさか分かんねぇか?」


 静止する銃弾を一つ、摘んだ。意味がわからないことに、それをレロレロと舐め始めた。気持ち悪い。それを──


 ──ピンっ!


「うぐっ……!?」

「再寧さんっ! ニンヒトっ!」


 消しゴム飛ばしの要領で指で弾かれた銃弾が、正確な角度で再寧さんの腿を穿った! すぐさま反撃の『ニンヒト』を放つも、それらは腕で簡単に弾かれる!


「警察がさぁぁぁ来ると思ってたんだよぉぉぉぉぉ! けどフタを開けてみりゃ? いや? ドアを開けられたら? くふっ、いるんだなぁぁぁぁぁぁ合法ロリってマジでさぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 コイツ──!

「ニンヒト!」

 ダメだ、真正面じゃ弾かれる! 黙らせるだけだ!


「たまんねぇよなぁぁぁぁぁ! やっぱちっちゃいガキが苦しんでるのがいぃぃぃんだよなぁぁぁぁぁ!」


 さっきからコイツ、生理的に気持ち悪い事ばかり……!

 再寧さんの友達──ネルお姉さんの妹さんを殺したのも、いやそもそも、誘拐しようとしたのもじゃあ……コイツの『癖』なのか……!?


「コイツは──想像以上のヤバい奴だった!」

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