マイハートハードピンチ
第21話 ふとんがふっとんだ
皆さんこんにちは!
でもそんな僕の日常を『超克の教団』っていうカルト教団が乱してきてさあ大変! 助けてくれるのは『ヒカリ』と、ロリ警部補の|再寧 華蓮さんだ! ボコボコにするぞ、『ドグラマグラ』!
「的なあらすじなら、日常系みたいでほのぼのしないかな〜……」
「またひとりごと言ってる」
日常系ほのぼの物語をするにはやっぱ用語がイカつ過ぎた……。
再寧さんやヒカリに威勢よく『教団』に立ち向かうと表明したのは、つい昨日一昨日の事だ。
正直、戦いなんてせずに平穏に暮らしたいという想いは捨てきれない。いや逆じゃないか? 平穏な日々を取り戻すために戦うんじゃないのか? でもそのためには望んでもいない戦いをしなくちゃならなくて……。
「などなど一人でグルグル思考する僕でございますが……」
ところでココは僕が通う
そのヒカリは初期形態の人形サイズではなく、先の戦いで発現した、僕と瓜二つな等身大サイズで寄り添っている。ヒカリの自由意思で形態を変えられるようだ。
「……それで? タマキ、仲間を集めるって言ってたけど、結局どう行動するのかしら?」
「あっ、うん。まずは情報収集であるからして……。手っ取り早いのはもかさんかな。ぷ……」
「……ぷ?」
「ぷ、らぁ~なぁ~……。に会ったのも、元はもかさんがきっかけだし」
「アナタまだ呼び捨てに慣れてないの?」
「昨日の今日だからという言い訳をさせてほしい……」
「もかみたいにさん付けでも良いんじゃない」
そのぷらなにも今日会いに行くって約束してるしなぁ。ああダメだ、しなければならないという使命感に駆られてプレッシャーになるぅ……! よく人類は約束なんて真似事ができる! そのプレッシャーに打ち勝って友達との待ち合わせに向かっているだなんて僕には到底信じられない! ツッコまれたようにもかさんも呼び捨てにできてないし、ああそういえばそんなもかさんに約束なんかせず馴れ馴れしく会いに行っていいものか情報を聞くとかいうよく分からない事のため──。
「やっ、タマキ!」
「ヴェヴァァ!? もかさんゥ!?」
「えっ、なに、なんなの」
ウワサをすればなんとやら。毛先が赤みがかったツインテールを揺らし、
「……ありゃ? そっちの子は、ウチの生徒じゃないわね? 誰?」
「ああいやこの子は僕の双子の妹のお父さんのお母さんの息子の娘でして不審者ではなくっ!!」
「いや誤魔化すにしても最初ので充分よね!?」
なんてコントやってる隣りで、ヒカリがムンとした顔になって横から入る。
「違うわ。私はタマキの双子の姉、我妻 ヒカリよ。よろしく」
「あ、お姉さんなんだ」
あっ、そっちがお姉ちゃんやるんだ……。
「まー、そういえばタマキの事なんも知らないしね。家族構成というか、自分のこと何も語ってくれないし」
「コミュ症なのよ、この子。分かってるでしょう?」
「ええ、ここ一週間だけでもよぉく!」
僕を置いてけぼりにして僕を中心とした話を展開しないでくれっ!
「あっ、その、もかさん最近変わった人を見かけませんでした?」
「へ?」
ヤバい、いきなり本題に入りすぎた。
「あっ、好きな人いるぅ〜?」
「話の舵切りすぎでしょ!?」
「まあ要するに、タマキの言いたい事はぷらなの時と同じよ。あの時はアナタが聞いてきたから、立場は逆ね」
「なんでぷらなの時を知ってるワケ?」
「双子だからよ」
「そっ……かぁ〜」
ちょっとムリヤリ納得してたな今。
けれどヒカリがあまりにキッパリ言うもんだから、もかさんは納得せざるを得ないのである。助かるような……。
「ま、最近トレンドの変な人っていったらアンタなんだけどさ」
「否定はできない……!」
「まあ聞きなさいな。初めて会ったときからずっとアンタは奇行に奇声にでちょっと面白がってたけど、」
「もしや僕のこと珍獣として見てる?」
「それも友達リサーチとかいうやつで考えが変わったわ。本質的に傷つきなくないってアタシ、アンタに言ったけどさ、それも今はどこかスッキリしてる感じするわ。ぷらなのお陰かしら? その感じだと上手くいったみたい?」
「あっ、ハ、ハイ」
「で? アタシとは友達やってくれるのかしら?」
一方的に話しすぎだってぇ〜……!
「あっ、えと、そのあの、ぷぅ〜……なぁ〜らぁ〜……の言葉を借りますと、」
「いや何そのスローモーションみたいな呼び方」
「こう、こうして話して、なんか笑いあって、コミュニケーション取ってる時点で友達……らしいです、ハイ」
歯切れ悪いな僕。
自分でツッコんでしまうほどの喋り方だったが、その一所懸命さはもかさんに伝わったようだ。呆れるような、しょうがないと言いたげなため息一つついて、僕を見直す。
「いい友達に巡り会えたじゃない! アタシも紹介した甲斐あるってもんだわ」
「あっ、えっ、フヘヘ……」
「なんでアンタが誇らしげなのよ。……ま、いいわ。何か気になるんなら、それこそ自分の身の回りを気にしてみるのはどうかしら?」
「僕の周り〜?」
再寧さん、ネルお姉さん、ルビィさんのクセつよ大人たちと、学校や家族の平凡さのギャップ……。
「そんじゃ、今後ともよろしくね、お友達!」
そしてもかさんはいつものキビキビさで去っていった。顔を見合わせる僕とヒカリ。
「聞いた!? 僕、ついにもかさんと友達だ!」
「おめでとう。まずは一歩ね」
「ゲームクリアだ!」
「なんの? それよりどうするの、情報通のもかから新情報が聞けなかったわ」
「あっ、それなら大丈夫。リンカー能力者なら思い当たる節があるからね」
それを聞いたヒカリは思わずキョトンという顔を浮かべてしまっていた。ムリもない、話が結論付いてるのは重々承知している。
「リンカー能力者? 仲間どころか、能力者なの?」
「あ、うん。そりゃあ仲間っていうだけでも嬉しい。もかさんはまさにそんな感じ、事情を知らないけど色んな人に会って話を聞いてるみたいだからね。けどリンカー能力者として一緒に戦ってくれる仲間なら尚更助かるよ。ただ……」
「ただ?」
「戦いに巻き込んでいいものか、その点は抵抗がある。その人は特に、ね」
まさか。ここまで聞いたヒカリはそう言いたげな顔で、僕の躊躇いを理解した。
「なので僕は今日は真っ直ぐ帰ります」
「それは違うでしょ」
ダメかぁ~……。
*
桜川病院。
彼女がいる407号室に、夕陽に移り変わろうとする陽の光が差す。それが目覚ましとなった。遅い昼寝から覚めたぷらなは、いつもより軽い調子の身体をううんと伸ばし、陽の光に目を細める。
「寝ちゃってた……。いま、何時かしら……?」
ふと、気づく。布団が無い。寝落ちする直前は腰まで掛けていた筈の掛け布団。よく見るとあった。なんとベッドの向こう側、壁に這うようにそれはあった。
「ふとんが、ふっとんだ」
なに言ってんだろ私。
ぷらなは心の中で自分にツッコんだ。
「あっ!」
さらに一つ気づく。寝落ちする直前まで自分が持っていた物も無い。ぷらなは慌てて吹っ飛んだ布団へすっ飛ぶ。ぐしゃぐしゃの布団を持って広げて、すると探し物がポロっと床へ落ちた。
「よかった! 変なトコに行っちゃったかと思ったわ!」
それは手帳であった。コンパクトな持ち歩きに便利な大きさ。ぷらなは安心しながら、目の端に捉えたシャーペンに手を伸ばす。
「……? あら?」
今、確かにペンがあった筈である。手を伸ばせばカンタンに届くその範囲にあった。そんな気がしたが、顔を向けて見ると全く見当違いの場所にあった。自分の位置から部屋の反対、ベッド横だ。
そんな遠い場所の物を捉えてたかな。その違和感を覚えながら、よいしょと体を向け直してペンに手を伸ばし、触れる。
コロコロ。
それが取れなかった。上手く掴めなかった? もう一度──
ヒュン!
「えっ!?」
ぷらなは思わず固まってしまった。何せペンが有り得ない飛び方をしたからだ。取ろうとしただけなのに、スッ飛んでいって壁へカツン。ただならぬ状況にペンを注視し、訳が分からなくなりながら素早く回収。怖くなって周りをキョロキョロし始め、布団を盾にしようと見ずに手をつけようとする。そこでまた一つ異変が発生していたのだ。
「えぇっ!? ふ、ふとんがまたふっとんでるわ!?」
さっきまですぐ近くに落ちていた筈の掛け布団が、部屋の出入口付近まで一気に移動していたのだ。
「な、何が……?」
壁に手をつけようと、窓ガラスに手が触れ──
ピシャッ!
突然、窓が開かれる!
「いやぁ!? さっきから何、なんなの!?」
やった事もないファイティングポーズを取ろうと、拳を弱々しく握って前に構える。そこでようやく、異変は自分にあった事に気づく。両手のひらに、ヘンテコな矢印マークがついていたのだ。
「まさか、コレ……」
恐る恐る、ベッド横の自分の荷物に手のひらをかざしてみると……
ヒュォ……!
「やぁぁぁ!? 危ないわ!」
焦って吹っ飛びそうになる荷物を、それも拳握りしめて抑えるのだった。
周りで異変が起きてるんじゃない、コレ私の手がおかしいんだわ! でも急になんで!?
「と、とりあえずお医者さんに相談ね……! だって病院だし!」
そ~っと手帳をポッケに入れ、てくてく近寄ってスライドドアのハンドルを両腕でがんばって挟んで開ける。人が行き交う見慣れた廊下だ。それでも自分の手の異常事態を見てしまったからには、変わったことはないかと勘ぐって、横断歩道を渡る時みたく左右をきょろきょろ見渡す。
「いや、ナースコールでいいんじゃ……?」
冷静になってみたらすぐそこに助けを呼べるものがある。普段使ってるものの筈なのに、パニックになると見落としてしまうのだとぷらなは身をもって知った。
落ち着いて、引き返して、ベッド横に備わってるコールボタンにそ〜っと指を触れて、押し込む。
『はぁ〜い、ぷらなちゃん! いかがされましたかぁ?』
「あっ、えぇ~っと……」
よく考えたら触ったもの全部吹っ飛ぶようになっちゃいましたってどんな病状。
やっぱり冷静さを失ってたと、ひとり思うのだった。
ブツンッ! ビリリィッ!
突然、ナースコールから伸びたコードが千切れた。当然、ぷらなは驚いた。また自分の異常な力が暴発しちゃったのかと辟易した。だが、違う異常事態であるとすぐ気づいた。
「……え? あっ、いやぁ!?」
右腕だった。ナースコールへ伸ばした自分の右腕に、一筋の切り傷が刻まれていた。病衣の袖はさらに酷く、まさに引き千切った布そのもののボロボロさに落とされていた。
「今度は……なに!? 誰!? 誰がこんな……!?」
これは私のこの力じゃない、別の何か! わ、私と同じような力なの……? 別の、誰か……!?
ぷらなは自分が決して強くない、か弱い存在であるとよく思い知っていた。だからこそ恐ろしかった。
誰かに襲われている。
ゾワリと胸の苦しみを感じながら、恐怖がこみ上げる。身を縮こませてベッドから身を引き、壁に右手をつけ……。
ギュンっ!
「ひゃあぁ!?」
また異常な力が発動した。しかしその『方向』が良かった。ぷらなの身が引っ張られ、ちょうど開けっ放しだった扉の方向、廊下へと放り出され、ころころ転がる。
「いたた……。た、助かったの……? そっか、たまたまこの力が出てきて……はっ!」
目が、合った。その人物が逃げるようにして反対側へ駆け出した。
ぷらなは呼び止めようと声を漏らした。しかし刹那、逃げる行為に違和感を覚えたのだ。
なんで走り出すの? この状況で、そんなの──!
階段を駆け降りようとするその人物。一か八か、ぷらなはペンを取り出し、その人物目掛けて『能力』を発動する──!
「ふっ──とんでぇ!」
飛ばしたのは、ペンだ。ペンが真っ直ぐに逃げた影を追い、角を曲がる直前でヒット! 「いてぇ!」とやや大げさにも思える悲鳴を挙げ、その場にうずくまった。
「待ちなさい! なんで逃げるの、私の右腕切ったのあなた!? どうしてこんなことしたの!」
服装は同じ病衣だった。同じ入院患者。その人物が顔を上げる。その顔立ちはかなり整っており、瞳はどこか悲しみを溢れさせていた。歳は二十代半ば頃と見られる大人の男性。コロっと落ちてしまいそうな美男子、率直に言ってイケメンの顔だ。
うっ、結構イケメン! もっと優しく言ってみるべきだったわ……!
そんな事を考えながらニヤニヤが溢れる面食い丸出しぷらな。目の前のイケメンが口を開き、その僅かな動作だけでもキュンキュンであった。
「……ごめんな、こんなつもりじゃなかったのに」
「えっ!? いやいやいやいや私も別に責めるつもりなんかなくってていうかむしろ心配したのよねあははは」
「俺っていつもこうなんだ……! みんな俺のこと好きだって言ってくれるけど、すぐに罵詈雑言浴びせてきてさぁ……! 思わず手出しちゃってさぁ……!」
聞いてないわ。
「『ドグラマグラ』は俺の『フライアウェイ』はやれば出来るって言ったけど、コイツがマトモに使えたことないしさぁ……! これって俺がダメなヤツだからだよな!? だって俺褒められてないしさ!
「
よく考えたら先に手出ししたのそっちじゃん! ちょっと危ない人かも。これ以上関わらない方がいいわ、きっと。
ぷらなはそう考え、身を引こうとした。
「死の」
「え? シノ?」
突然の死亡宣言。ぷらなが目を丸くしてるその間に、目の前の根暗なイケメンが、ふらぁ……、と廊下の窓に手をかけ──
「な……なんでぇぇぇぇぇぇぇ!?」
飛び降りたのだ。
だが、それよりも。異変はさらに予想外の方向で起きる。
「もっと……いま、これ、なんで?」
ぷらなは困惑した。飛び降りた筈の男が落ちてない。風を受けて浮かんでいるのだ。まさに屋内スカイダイビングのアトラクションさながらに。いや、この状況はかなり矛盾した表現になるが、屋外低飛行スカイダイビングだ。
さらにもう一つ、異変が起きる。それは、ぷらな自身の身に。
「──っ!? か、風!?」
ぷらなの頬に、生暖かいものがつぅ、と流れた。ピリっと軽い痛みもだ。ぷらなは瞬時に理解した。
──これは血だ。一筋の血が流れた。今の風によって、切られた!
「これは……! やっぱり、間違いなくあの人の攻撃だわ! 私と同じような力を、無自覚に使ってる!?」
そう、彼はリンカー能力者だ。そしてぷらなも──本人はその名称も、自分の能力さえも知らないままに発現した──リンカー能力者として覚醒したのだ!
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