第2話 僕のリンカー能力

 響くパトカーのサイレン。過ぎ行く街灯り。まるで僕を責め立てるかのようだ。腕には事実を無慈悲に告げる銀の鎖。そうさこれは手錠。僕を縛りつける運命の楔。

「懲役六年。奪われる青春。刑務所内イジメ。ボロボロの精神で釈放。家族からも社会からもゴミを見る目で見られ社会復帰失敗。家から勘当。ホームレス女……」

「おい」

「ヴァッ!?」

 誰の声!?


 気づけばパトカーの車内、後部座席。両手には手錠、横には『ヒカリ』──そう名付けた、意思を宿したお人形。声をかけたのは、運転席の婦警さんだ。


 この空間、逃れる術はない……とにかく僕が無実で無害である事を示さなきゃ……怖いなぁ〜! ちっちゃいけど怖そうな人だもんなぁ〜!

「あっ、えとあの、警察の人、僕は……」

再寧さいねいだ。再寧 華蓮さいねい かれん。職分は警部補」


 再寧、そう名乗った婦警さんが振り向く。ブラウンのショートボブが揺れた。顔はあどけなく、街明かりで細めた目がまるでウトウトした子どものようだった。それに喋り方の圧に反して声色も幼い。

 大人には違いないんだろうけど、パーツ全体が幼い。なんていうかチクハグだ。混乱する。


「あっ、ハイ。えと……再寧さん。その、えと……」

「それで、君の名前は?」

「あっ、ハイ、我妻 タマキです」

「タマキさんだな。なんだ」

 初対面で下の名前呼び!? 消されるのか僕は……!? 最期に名前だけ覚えといてやろうってコト!?

「あの……僕はこれからどうなって何をされて」

「君自身の心配ならいらない。君は全く、意味不明なぐらい無抵抗で無害な人物だと分かった事だしな」


 再寧さんの手が一瞬、その長さを超えて大きく伸びたように見えた。その手が手錠に触れると次の瞬間、手錠のロックが外れ、ヒザの上にポンッと乗っかる……!?


「こっ、これは!?」

 手品師だったのか……!

「驚いたか。なに、君はタダの一般人、被害者だと分かったんだ。家まで送ろう。住所や目印になる建物は?」

「あっ、桜見町のXXX-XXXXで、近くにコインランドリーが……」


 こんな即座に釈放される事あるの!? ソレって職権乱用じゃないの!?

 違う違う! なんでスルっと受け入れてんだ状況を! 今の僕が気にすべき事柄は如何に目の前の警察さんがいい人なのか、僕に害がないかを確認する事なんじゃないのか!?


「あっ、あの、あなたはいい人間?」

「人間に虐げられた小動物みたいなセリフだな。なに、私が一方的に言い渡して捕まえただけだ、寧ろああするしか無かった事を謝罪しよう。送るのはそのお詫びという訳ではないがな」


 よく分からないけどありがとう、ロリ警部補の再寧さん……!


「にしてもあんな事があったのに、もう気にしていないのか」

「あっ、僕ってケッコー不幸体質なので、あれぐらいなら普通かなって」

「いや強盗なんて普通じゃないぞ?」

「ああいうのならちょっと気絶するだけで済みます、フヘッ……」

「そ、そうか……」

 ぴしっと前に向き直る再寧さん。


(この子がマトモじゃなかった……)


 なんか再寧さん、驚いてる……? ちょっとイキっとこ。

 なんて思ってたのに、ふと、脳裏によぎってしまう。店長さんの死、広がる血溜まり──。


「あっ、でも店長さんが死んだときはちょっと怖かったです、ハイ」

「……嫌な事を思い出させたな」

「店長さんは僕のことしょっちゅう遊び道具にするし、ヒゲはダサいし、カワイイバイトの子には下心向けるし、その割にはイケメンってわけでもないし、臭いし」

「なんか、暴言飛んでないか?」

「……けど謝って欲しかったとか、そういうのじゃなかったですし。僕の前で死んでみせて欲しい訳でもなかった。……です。こんな気分になるなんて、考えもしなかった」

「命の重さを感じ取ったんだな。忘れるなよ。そして、慣れるな」


 再寧さんの言葉には重みがあった。沈んだ気分に陥ったけど、どこか救われた気持ちになり……。


 あっ、ヤバ。空気を悪くしてしまった……!


 僕にとってのピンチは何より、密室ないしそれに準ずる空間の沈黙!

 この世に陰キャ協会というものが存在するとしたら『陰キャが選ぶ辛いイベント』の5位圏内には入っているものそれは! 『校外学習のバス』!


 ああ思い出す……。小6の修学旅行、バスの席決めで隣りになったのが陽キャ女子だったあの苦痛の時間! 僕は窓際に追いやられ、真横で繰り広げられる陽キャの会話! 展開される陽キャフィールド、心の壁! 対抗策のない僕は一時間超の移動時間ずっと外の景色に目を泳がせた!

 終いには車酔い、それから待っているのは修学旅行特有の班行動……! 次なる地獄イベントの始まり……!


「オシマイの概念……!」

「スマナイな……。今の会話、忘れてもいい」

 ちょっとした会話だけでこんな空気にするなんて……。やっぱ僕ってダメダメコミュニケーションだ! なにか、なにかいい話題のタネは無いかな……!


 何とか話題を探してたら、脇に置かれた人形、『ヒカリ』が目に留まった。意思を持った謎の存在。今は緑の瞳を閉じ、赤子のように穏やかな寝息を立てて眠っている。その様子は、生きた人のように不思議な生命感に溢れていた。

 そして何より……。


 カっ、カワイイ〜!

「あっ、あの! この子カワイくないですか!?」

「ちょっと、よく見えない」

 ミステイク!

「あっ、あの! ……ええと」

 この子が何なのかとか聞いてこないからって言おうとしたけど、けどロリ警部補さんだってそんなの分かんないよなぁ……!

「時にタマキさん、重要な事だが」

「あっ、ハイ」

 人差し指立てて一拍置く人なんだ。


「君は『リンカー能力者』か?」

「リン……いや、え?」

「『リンカー』。聞きなれない単語だったか? 君のその人形に見えるもの。人形でありながら、生きた人間のような生々しさを感じ取れる、奇妙な事にな。先の強盗を打ち倒したのもそれが理由かと考えるのだが、どうだろう?」

 バレてる……!?

「いえっ! あの、この子は悪くないんですその、僕が指示を飛ばしたからで、あの!」

「それがリンカー能力だ。能力者が能力を操る、それが法則。何故庇うような言い方をする?」

「あの、全然口で命令出しました」

「ははぁ〜ん……? いや、リンカーは個性が出るものだからな。君の場合、リンカーが現出し、それが自我を持っているタイプなのだろう」

「はぁ」

「……多分」

 適当……!


「あのっ、そもそもリンカーって何なんでしょうか……?」


 再寧さんは待ってましたとばかりに続ける。


「簡単に言えばリンカーは、リンカー能力者の心そのもの。感情のエネルギーが力あるビジョンとして具現化したものだ。基準は分からんが、多くは能力者の願いが現出したものと私は考える」

「はぁ」

「その能力もクセの強いものばかりだ。超常現象に、超能力、心霊現象や妖怪、果ては世界のビックリ人間。しかし、そんな説明がつかないオカルトの正体こそが、リンカー能力!」

「はぁ」


 さっきまでの子どもを諭すみたいな口調だったのに、まさに子どもみたいに熱くハシャいで語り始めた……。けど僕を置いてけぼりにされちゃ困惑だよ……!


「ただ『リンカー』という名前だが、これが納得いかん。通りが良いから使うがな……。なんでも、最近流行りの『転生モノ』みたいな能力だから『Reincarnation』。自分の能力が『具現化』してるから『Incarnation』。それら二つと合わせ、能力と『繋がっている』から『Link』。全部を掛けて『リンカー能力』。『繋がる者』だとさ」

「えと……『Link』とあと二つじゃスペルが違いますね」

「ああ、その通りだ。なんだってそんな由来になるのかサッパリだ、そこだけが本当に気に食わん。私には嫌いなものがある。遠回しな説明と──」

「酢豚に入ってるパイナップル……ですか?」


 自分の口グセをあっさり取られたからだろうか、再寧さんはクリっとした目をさらに丸くする。


「よくご存知で」

「いやあの、僕を逮捕したときに言ってたのがなんか、気になってそれで、犯罪と酢豚のパイナップルに関係あるのかなって、妙に印象に残っただけでその」

「だったらなんだ。関係はない、あるとしたら私の嫌いなものだ」


 酢豚のパイナップルだって意味があるから入ってるのになぁ。ちょっと断定口調の強い人だし、理由とか知ってるのかなぁ……?


「……あの。酢豚のパイナップルは、その酵素でお肉を柔らかくしてるんですけど、缶のヤツは加工されてその酵素が薄れてるので生のヤツじゃないといけないし、お肉を加熱するときじゃないといけないから、火が……」


 ふと手に違和感を覚え、それを見た僕はギョッとした。腕にいつの間にやら、再び手錠がかけられていたからだ。さらに目の前の小さな警察が、深く深く呼吸をしていたのに気づいた。そりゃあもう、僕は梅干しぐらい萎みこんでしまう。


「──そうかそうかなるほどなよぉ〜く分かってるぞ、あぁ。消化が良くなるとかなんとかだったかぁ〜? 私には最も、もぉ〜っとも嫌いなものがある……。酢豚に入ってるパイナップルと、その理屈を後ろ盾に酢豚に入ってるパイナップルだ二度と! その話を、するなっ……!」


 僕の説明を遮ってまで。息を切らしてまで。声を荒らげて。このひと全否定した。キレすぎて酢豚のパイナップルが嫌いって二回言ってるし。こわっ。ヤバいひとだ。

 けど僕にもこだわりがある。食へのこだわりだ。負けじと知識で攻めようじゃないか……!


「あっ、あのっ! パイナップル入りの酢豚は、中国の菠蘿古老肉ボオルオグゥラオロウという料理が由来で、菠蘿ボオルオはパイナップルを意味するんです! それでえと、古老肉グゥラオロウは酢豚の意味で、高級感を与えるためにパイナップルを入れたという話がありまして!」

「……そっちは初耳だ」

「あっ、ですよね」

「詳しいな」

「あっ、ありがとうございま……」

「だが嫌いだ」

 バッドコミュニケーション!


 落ち着けタマキ、会話をする時は自分が一方的に話すんじゃなくって、相手から話を引き出しやすいように質問するんだって、どっかで聞いた事あるぞ……。コミュ症を治す努力なんて僕はしないけど!


「あっ、アナタもその、リンカー能力者? なんですか……?」

「……ああ、その通り。ま、君にはもう隠す必要もないだろう。コイツだ」


 再寧さんの傍らに何かが浮かび上がった。それは人の形をしており、再寧さんよりずっと背丈がある。


「はっ、生えてきた!?」


 しかし、その姿は人とは異なるものであった。頭部には映写機のような物体が目の代わりに取り付けられ、胸部は……確かビデオテープっていうヤツを入れる、カセットデッキだ、見たことあるぞ。それのようなディティールが施されている。そしてこの人型の全体が一目で再生機器の意匠が盛り込まれていると判る、そんなロボットめいた機械的なデザインだった。


「さっき手錠を外したのも、付けたのも私のリンカー能力。これが私のリンカー『トータルリコール』! 私はコイツをそう呼んでいる。能力は現場の物体の再生リプレイ。逆再生も可能だ」

「はぁ」

 じゃあ外してくれないかなぁ……。


「君の能力は?」

 すると再寧さん、僕に話を振ってきた。


「なんか、ビーム出してました」

「ビーム」

「ビームです」

「ビーム」

 それ以上説明のしようがないって〜!

「まあ、ビームといっても殺傷能力は無さそうだったな。君の性格にピッタリ」

「……えと、僕を捕まえて保護したのって、そういう理由ですか?」

「君が危険人物でないかとか、リンカー能力に殺傷能力があるかとか、そういう理由ならその通り。強盗を倒してヒーロー気取りになって、その悦のまま暴れられちゃ困るからな。手錠を掛けさせてもらった」

「……あの、保護するのに目立つのもどうかと」

「手錠を掛けたから逮捕とは限らない、意外に思うかもしれないがな。手錠を掛けられた姿は人目に見えないようタオルとかで隠すんだ、君にやったように。だから心配いらない」

「……えと、そうでしたっけ?」

「……他の連中に保護したと言っていたのを聞いていなかったのか?」

「自分の世界に閉じこもっていたので……」

「ああ……」


(こんな子間違って逮捕でもしたら数秒もたないぞ)

 またなんか再寧さんに怪訝な顔されてる……!


「ま! ともあれだ。リンカー能力者であれ、私からすれば一般人、守るべき市民に変わりはない。君は何も気にせず、元の日常に戻ればいいんだ」

「元よりそのつもりでして……」

「うん、それでいい。それと、リンカーはリンカー能力者にしか見えない、基本的にはな。君の人形はその例外のように思える。ご家族には動く人形なんて、バレない方が色々楽だと私は考えるぞ」

「そりゃ、まあ、ハイ」


 気づけば僕の家の前だった。手錠もいつの間にか消えている。やっぱり手品では? そう思いながら足早にパトカーを降りて家に逃げ込もうとすると、やはりと言うべきか再寧さんに止められてしまった。


「待て待て。もう20時を過ぎているんだぞ。こんな夜遅くになって、君のご家族は心配しないのか?」

「えっ、あの、そんな遅くもないですし……」

「私がちゃんと説明するから、君は堂々としてればいい」

 聞いてねぇ。


「帰す前に一つ。君の人形のリンカー、引っ込められないのか?」

「あっ、ハイ。そうみたいです」

「気をつけろ。リンカーのダメージは、リンカー能力者本体にもフィードバックが行く。リンカーは能力者の心そのものとはそういう事だ。ま、何事にも例外はあるがな」

「えっ、あっ、ハイ」

 つまり弱点丸出し状態じゃん。そんなんデメリットじゃん。

「それともう一つ」

 まだ帰してくれない!

「最近、おかしな宗教勧誘が増えてるから、そういうのは丁重に断るように。あとケンカ吹っかけてくるような変な二人組とかにも、ケンカ売られたりしたら逃げて110番だ」

「はぁ。警察も二人組で行動してる筈では……」

 変な警察が二人揃ったら変人コンビだし。

「それはお宅訪問とか捜査、パトロール中だな。ま、一人でお宅訪問に来た警察は、まず疑っていいのは確かだろうが」

「はぁ」


 そんな事より気になるのは、並び立つ再寧さんの小ささなんですけど……! ていうか改めて思うけど、圧倒的にちっちゃい! どっちが保護された立場に見えるよこれ!? てかどうやって車を運転するの、能力使ってるの!?

 これじゃかえって話がややこしくなるだけじゃ……。


 そう考えながら玄関ドアを開けたら迎えたのはお母さんだった。驚いた顔をしてる。視線の先は……あ。

「タマちゃん……!?」

「あっ、アハハ……」

「タマキさんのお母さんですね。私は……」

「どうしたのその子?! 何処のウチの子!?」


 再寧さんは目をとんがらせ、無言で警察手帳を開いた。

 ですよねー……。


 *


 ロリでも問題だけど、警察が来るなんてもっと一大事。一悶着あったけど家族は納得してくれた。ただし──。

「詫びパン。十倍」

「ひゃい……」

 妹のりんちゃんは納得してくれませんでした……。


 部屋へ戻り、ぬいぐるみの並んだベッドにヒカリをそっと置き、大の字になって転がる。そこでようやく安心できた。


 考えてみたら一度帰って制服も着替えてなかったけど、ほんの数時間で余りに色んな事が起こりすぎだって。


 無意識に自分の手を見つめていた。白い照明に当たり、赤く透かされる手。誰も手にかけていない手。自分の意志でリンカーを動かしたのではなく、自分の意志でヒカリを動かしたのだ。なんというか、そんな自分のことじゃないような感覚。


 一個気づいた事。とんでもない事に気づいたけども。

 一度手錠を掛けられたこの腕、さっき手錠を「能力で外した」と言ってた。また掛けたりなんてのもやってた。それってつまり、その気になればあの人の『再生リプレイ』能力で、いつでも手錠を掛け直せるという事。

 つまり僕は、見えない首輪に繋がれたようなものってコト……!?

「オシマイの、概念……」


 ギュ~。そんな絶望感を、せめてヒカリを抱きしめ紛らわそうとしたり。目覚めないからって好き勝手やりたい放題かも。


「けど……リンカー能力、か」

 ちょっとカッコいいかも~! 特殊能力だ……!


「僕のリンカー能力。『ヒカリ』。不思議で破天荒で置いてけぼりな気がしたけど、この子がいるから寂しさも半減……」

 けど起きてくれない!


 ていうか再寧さんはまるでリンカーを自分の意志でコントロールできるみたいに言ってたけど、僕のヒカリは全然そんな事ないよなぁ……? ずっと動かそうとしてるのに反応ないし……。

「ヒカリー? ヒカリー?」

 し~ん……。

「動け! 我がリンカー、ヒカリ!」

 し~ん……。

 聞こえますかヒカリ……今アナタの脳内に直接語りかけています……。頼むから起きてなんか話してください……!

 し~ん……。


 こんなんが僕のリンカー能力……!


 繋がりだったら感じられるのにどうして!? こんな調子で家族にヒカリが動いてるトコ見られたらどうしよう……。あ、リンカーはリンカー能力者にしか見えないんだっけ。けど基本はとかなんとか言ってたかな? まあつまり状況説明する間もないまま何も知らない赤ちゃんみたいなヒカリがウロウロして家族に見られたりするかも知れなくて……。


「一大事!!」

「うっさいぞタマキ!」

「輪ちゃんにも怒られるし……」

「タマちゃん、ご飯まだでしょー?」

「夕飯まだだったし……。世界の爪弾き者っ!」

「いいからはよ来い、呼ばれてんだろ」

 輪ちゃんに覗かれてた……!


 *


 ドタバタの一日──もとい夜の数時間も終わり、朝の光が街に差す。一転して穏やかな眠りにつけて、気持ちよく朝日を浴びて目を覚ました。


 寝ぼけ眼を擦り、半覚醒の頭で周囲をキョロキョロ。途端、ある事実に気づいて心臓ごと身体が飛び上がる。


 いない!? ヒカリいない!?

「どこー? ヒカリどこー?」


 置いといた筈の枕元からベッドの周辺にかけて下を逆さになって覗き込み。まるで迷子のネコを探すみたいだ……。


 見当たらない……。昨夜のは夢だったって事? そりゃまあ、ビーム出す人形とか、ヘンテコマシンが生えてくる警察なんて、おかしな現象だもんなぁ……。

「ハッ! 輪ちゃんに怒られたのも夢!?」

 そんな訳がない。そもそも四六時中、輪ちゃんに怒られてる。


 とりあえず部屋着に着替え、階段を降り、朝食の為リビングへと向かった。

 僕は整った生活習慣を意識してる。常に早寝早起きを心掛け、例え今日のような休日であろうと、土日祝日であろうと、遅くとも12時には就寝し、学校へ行く日と同じ7時には起床する。『早起きは三文の徳』、好きな言葉の一つだ。


 そういえば再寧さんの好きなものとかってなんだろ。嫌いな言葉なら何となく予想がつく。『パイナップル』と『チビ』だ、きっと。


 そんな事を考えていると、リビングから賑やかな声が聞こえてきた。朝からこうも活気に溢れているのは、我妻家にしては珍しい。他の家族は朝に弱いからだ。そっと扉を開けると……。


「最初は驚いたけど、なんだか馴染んじゃったね~」

「ホント。タマキの部屋からひょっこり出てきたときは、なんかのカラクリ人形かと」

「そういえば朝食食べる? ヒカリちゃん」

「お構いなく。このコーヒーという物だけで充分よ」

「…………フェエエエエエエエエッッッ!!?」


 ヒカリは僕の家族と仲良く談笑しながらコーヒーを嗜んでいた。


 僕のリンカーは一般人にも見える。しかもその所為で、速攻で家族全員にヒカリの存在がバレてしまった。

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