第25話

小町の歌を聴きながら純は


本当に運命の人と出会えるって奇跡に近い、いや奇跡だよなぁ…


と心から思った。

純がそう思っている間に小町は歌い終わり、ゆっくりとマイクから手を離す。するとまた大きな拍手が起き、今度は純も純粋な気持ちで大きな拍手を送った。大きな拍手が鳴り響く中、スポットライトが小町だけを照らす。小町は明らかに純の座っている席を見つめながら

「Zuletzi・・・(最後に・・・)」

とドイツ語で話し出した。

「Ich singe diesen song wegen sie

(私は、あなたの為にこの歌を歌います)」

そう言うと小町はマイクを床に置くとハミングし始める。そのハミングを聴いた瞬間、純はハッとした。


この歌、Hansonの『I Will Come To You』だ…

そして思い出した。以前この歌を聴いていた時小町が尋ねてきたのだ。


「純、この歌よく聴いてるよね。そんなに好きなの

 ?」

「あぁ、この歌聴くと心が癒されるっていうか元気

 になれるんだ。ヘコんでもこの歌のおかげで次の

 日も頑張ろう!って気になるし、それに歌詞も良

 いしね。なんていうか…大袈裟かもしれないけど

 俺の元気になれる魔法の薬みたいなもんなんだよ

 。この歌には何度も助けられてるしさ」

「そっか、じゃあいつかあたしが純の為に歌うよ、

 絶対。もちろんちゃんとした場所でね」

「小町がか!?ちゃんとした場所ってどこだ?もし

 かしてコンサート会場とかで?…期待しないで待

 ってるよ」

「おうっ、任せとけ。期待して待ってて。約束ね

 !!」


そうか…あの時の約束、小町の奴憶えてて今その約束を守ろうとしてるんだ


〈When you have no light to guide you

 (足元を照らす光も)

 And no one to walk to walk beside you

 (一緒に歩いてくれる人もいない時)

 I will come to you (きっと僕が助けにいく)

 Oh I will come to you (僕がついててあげる)

 When the night is dark and stormy

(夜が暗すぎて、嵐が来そうでも)

 You won't have to reach out for me

 (大丈夫、そんなに手をのばさなくても)

 I will come to you (僕の方から来てあげる)

 Oh I will come to you (助けに来てあげる)〉


アカペラで歌う小町の声が、今まで歌っていた声より遥かに良くとおり更に透き通った声でホール全体を優しく包む。力強くもあり慈悲深くもあって歌詞の1つ1つが純の心に静かに染み込んでいく。小町の声が染み込み度、純は心の中が温かくなるのを感じた。ホールにいる全ての観客達も小町の歌声に聴き惚れている。


〈Have no fear when your tears are fallin

(自然に涙が出てきても怖がらないで)

 I will hear your spirit callin

 (僕には君の魂の叫びが聞こえてるから)

 And I swear I'll be there come what may

 (どんなことがあってもかならず行くよ、誓って

  もいい)〉


歌う小町の背中から静かにゆっくりと純白の羽根が広がり、小町が両手を上げるのと同時に羽根も大きく広がっていく。その光景に


天使だ、いや女神・・・女神が今ここに降臨した…


と純は思った。確かにステージの中央は女神が舞い降りた様な雰囲気に包まれ、観客達みんなが息をのみ見守っている。

マリアの姿をした女神がそこに存在し、地球に存在するすべてのものを慈しむかの様に歌っている…。


〈We all need somebody we can turn to

 (誰だって頼れる人を探してる)

 Someone who'll always understand

 (わかってくれる人を求めてる)

 So if you feel that your soul is dyin

 (だから君も、元気がなくなって)

 And you need the strength to keep tryin

 (どこからかパワーが必要となったら)

 I"ll reach out and take your hand

 (僕がその手を取ってかならず力づけてあげ

  る)〉


小町が歌い終えると同時に羽根は小町の身体を優しく抱きしめるかのように全身を包み込んだ。

ステージに幕が下ろされた後、しばらくホールはシーンと静まりかえっていたが一気に観客全員がスタンディングオーベーションをし今までで1番盛大な拍手と歓喜の声がいつまでも続いた。1人座ったまま、まるで夢を見ている様な感覚でいる純の耳にどこぞのセレブな婦人が

「あの歌を捧げて貰えた方は本当に幸せ者ねぇ。羨

 ましいわ」

「本当にねぇ」

と話す会話が聞こえてきた。


本当だな、お釣りがくるくらいだ・・・


純はしみじみ実感した。


余韻が残るままアパートに帰ると部屋に入るなりベッドに腰掛け、そのまま何も考えられず放心したまま宙を見つめ続ける。

何十分経過しただろうか、夢心地の気分を聞き覚えのある陽気な声がぶち壊してくれた。












 

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