第24話
小町がドイツ大使館に行ってから3日目、純の元に大使館の立派な封筒に入った手紙が届いた。中を開けてみると1枚のチケットとメッセージカードが入っていた。
チケットはどうやらコンサートのものらしく場所と指定席番号が載っている。場所はコンサートに行った事が無い純でも名前だけは知っている有名なコンサートホールだった。
確か、よくオーケストラとかがコンサートしてる所じゃなかったっけ?何でそんな所のチケットなんか
…しかも指定席とはどういう事だ?
と首を捻った。次にメッセージカードを開いてみると汚い字で
『絶対来てね。 小町 PSちゃんと正装してこい』
と書かれている。
何故、小町とコンサートが関係あるんだ!?
純はますます理解が出来なかった。
そうこう悩んでいる内にコンサートの日が来てしまった。バイトは早めに上がらせてもらったがコンサートの開始時間に大幅に遅れてしまい、今から行っても後半しか聴けないだろう。しかし成人式の時に買った1着しかないスーツを着て純はタクシーに飛び乗り急いでコンサート会場に向かった。
ホールの受付でチケットを渡すと、タキシードを着た係の人らしき人物がパンフレットを渡し純を指定席まで案内してくれた。案内された指定席はステージ全体を見渡せる1番最高の席だった。席に座った純は周りをキョロキョロ見渡しながら
意外と小さいんだな・・・
と、トンチンカンな事を思った。そして正面を向いた途端
「こっ、小町!?」
思わず大声を出して立ち上がってしまった。周りの観客に睨まれ、しまったと口を手で押さえ頭を下げながら席に座ったが純は度肝を抜かれた。
何故なら小町がステージ中央に立って歌っていたからだ。小町は真っ白なロングドレスを着ており、頭には綺麗なレースが施されたベールを被っている。
ベール以外はアクセサリーなどを一切身に付けておらず、それがかえって小町を神秘的に魅せていた。
バックにはオーケストラを率いて堂々たる姿で歌う小町は、日頃見ているぐうたら小町とは全く違い見た事が無い別人の様だ。
小町はどうやらドイツ語で歌っているらしく何の歌なのかさっぱり分からない。貰ったパンフレットを開いて何の歌なのか探してみるとそれはどうやら鎮魂歌(レクイエム)らしかった。ありがたいことに和訳が載っており、歌詞の下に小さく《故ヴォルダー氏に捧ぐ》と書かれていた。
〔主よ、永遠の安らぎを彼らに与え絶えざる光で彼
らを照らして下さい
神への賛美の歌をシオンで歌いあなたへの誓いを
エルサレムで果たします
祈りを聞き入れて下さい 罪に苦しむ人は皆あな
たの元に帰ります
主よ、永遠の安らぎを彼らに与えた絶えざる光で
彼らを照らして下さい〕
そういえば、昔小さい頃聖歌隊に入ってたって言ってたなぁ。今でも覚えてるんだ…
純は鎮魂歌を歌う小町を見直しながらステージを見る。
〈Dora eis requim (彼らに平安を与え給え)
Dora eis requiem sempiternam
(彼らに永遠の平安を与え給え)〉
小町が歌い終わると、静かにオーケストラの音も鳴り終えた。するとすぐに大きな拍手が送られ、つられて純も拍手をしたが神聖な雰囲気に自分がものすごく場違いな様な気がして居心地が悪かった。ステージの上の小町はドレスを摘み、軽く頭を下げている。
俺ってこの場にすごく浮いてるよなぁ…完全な場違いだ。帰ろう…
そう思った純が席を立とうとした矢先、またホールが暗くなりいつの間にかオーケストラはいなくなっていて、今度はステージに小町とグランドピアノだけがスポットライトに当たっている。ピアノの伴奏者に目で合図をすると小町はマイクを握りしめた。ピアノ演奏が始まり小町が歌い始めると純はあれっ
!?と思った。
この歌、ピアノのみに編曲されてるけど小町の1番好きなSAVAGEGARDENの『I KNEW I LOVED YOU』だ…
〈Meybe it's intuion(ただの直感みたいなものかもしれないけど)
But some things you just don't question
(質問しなくてもわかることが世の中にはある)〉
小町は良く通る声で本当に誰かを愛しそうに歌う。まるで愛しい人が自分の目の前にいるかの様な愛しさを込めた甘い声で…。バラードなので余計にその感情が心の中に直接伝わってくる。
〈I think I've found it my best friend
(たぶんぼくは生涯で優良な友だちをようやく見
つけたんだ)
I knew that it might sound more thana little
crezy But I believe
(少しどころじゃなく頭のおかしな話に聞こえるか
もしれないけど)
I knew I loved you before I met you
(出会う前からぼくはきみを愛してた)
I think I dreamd you into life
(ぼくの夢が現実になって現れたのがきみなんだ)
I knew I loved you before I met you
(出会う前からぼくはきみを愛してた)
I have been waiting all my life
(生まれた時からずっと待っていたんだ)〉
いつだったか小町がこの歌が1番好きな理由をこう話した。
「生まれた時からずっと待ってたなんてすごく素敵
じゃない?世界に何十億人といる人の中で生まれ
てからその運命の人とも言える人をずっと愛し想
いながら待っていて、その人と巡り会えたなんて
奇跡としか言いようがないわ。やっぱ運命の赤い
糸は本当にあるんだ!」
想いを馳せながら言っていた。
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