第23話

それから2日後、また朝からチャイムが鳴った。玄関のドアを開けると

「すみません、郵便局ですがフェダーさんに電報を

 お届けに参りましたがフェダーさんはご在宅でし

 ょうか?」

「いえ、今外に出てますけど…」

「それじゃ、代わりにサインを書いて頂いてもよろ

 しいですか?」

「はい、良いですよ。どこに書けば?」

「こちらの方に…はい、確かに。では失礼します」

「ご苦労様です」

配達員はサインを確認すると純にぬいぐるみ電報を手渡し頭を下げ、帰って行った。

数分後、コンビニにお菓子と夜に飲む酒の肴を買いに行っていた小町が帰って来た。

「おい、お前に電報が届いてるぞ」

「電報!?何でまた電報なんか…」

「知らん、ほらっ」

と小町にぬいぐるみ電報を渡すと

「おぉ、カタログでしか見た事がないぬいぐるみ電

 報だぁ!生で拝める日が来るとは思わなんだ。だ

 ・れ・か・なぁ〜?」

嬉々と純から受け取ると急いでコタツに入り胡座をかいて座り、ポンッと勢いよく筒から中身を取り出してみる。しかし突然

「何じゃこりゃ〜!!!」

大声で叫んだ。急に大声がして驚いた純は朝食の準備をしていた手が思わず止まりビクッとなった。おそるおそる後ろを振り返ると

「あんのぉ狸オヤジめぇぇぇ〜!!」

小町が悪態を吐きながら電報をぐしゃぐしゃに丸めてゴミ箱めがけて力いっぱい投げ付けていた。純は

やれやれとゴミ箱から程遠い所に落ちた電報を見て

「おいおい、せっかくの電報をぐちゃぐちゃにする

 なよ。電報って結構高いんだぞ」

とぐちゃぐちゃに丸まって転がっている電報を拾い上げた。

「こんなんに高い金出すくらいなら赤い羽根募金に

 でも寄付する方がよっぽど世の中の為になるわい

 !何十年前の…しかも使い古された様な古典的な

 電報なんぞ送ってきおってからにっ!!」

純が丸まった電報を丁寧に広げてみると電報にはこんな文章が・・・。

『フォルトオジサン、キトク、スグ、カエレ』


なるほど、これまた本当に何時の時代の文章なんだ

!?今時誰も使わないような文章で、ある意味勇気のいる電報だよな。いや、かえって斬新かもしれない…


純は電報を読んで少しだけ感心した。しかし怒り狂っている小町に

「もしかしたら本当に風邪とかで病気かもしれない

 ぞ?」

と言ってみたが、小町は相手にせず

「明らかに自分で打っとるやなかいか!それに2日

 前に会った時、ピンピンしとったわ。殺しても死

 なんくらい元気だった!!」

「でも、もしかしたらって事もあるし…風邪を甘く

 見ちゃいけないんだぞ。悪化したら肺炎にだって

 なるんだからな」

「おじ様は生まれてこのかた大きな病気をした事が

 無いのが自慢なの!そもそもキトクの知らせがぬ

 いぐるみ電報ってトコロが怪しいじゃん!ぬいぐ

 るみ電報ってお祝い電報だからね。純は何でも信

 じ過ぎ」

「だかな、ぬいぐるみ電報でもこんな電報を寄越す

 くらいなんだから。病気じゃなくても余程の用事

 が小町にあるかもしれないじゃないか」

「純はおじ様の事を何も知らないからそんな事言え

 んの。あのオヤジは目的の為なら手段を選ばんか

 らな」

「一応、行くだけ行ってみたらどうだ?何も無けれ

 ばまた帰って来れば良い話なんだからさぁ」

「嫌だねっ。こんなあからさまな罠におめおめと引

 っ掛かってたまるかってんだ!」

「だから最初から罠だって決めつけるなよ。行って

 みたら分かる事じゃないか」

「嫌ったらイ・ヤ!絶対何かあるに違いないんだっ

 て!!」

頑なに大使館に行くのを嫌がる小町を延々と説得し続ける純に、しまいには根負けした小町はものすごく不機嫌な顔をしながらも渋々行くと言った。

「純がそこまで言うなら…でもすぐ帰って来るから

 ね!不本意だが仕方がない、いっちょ大使館に殴

 り込みに行くか…」

とフォルト氏の待つドイツ大使館に行く覚悟を決めたらしい。純はふと腕時計を見ると9時を少し過ぎていた。

「ヤベッ、9時半に待ち合わせなのに!小町、俺今

 日友達と映画観る約束してるから先に出掛けるぞ

 。戸締まりしっかりしとけよ」

そう言って純は慌ただしく部屋を出た。


なんとか約束の時間に間に合い、友達と映画を観る事が出来た。純は友達と休日に遊ぶのが久しぶりだったので、色んなショップを覗いたり書店で資料となりそうな本を買ったりと時間を忘れて楽しんだ。

しかし頭の片隅では小町の事を気に掛けてはいた。

最後にファミレスで食事をしてから帰宅するとまだ小町は帰っていなかった。その代わりスマホに小町からメッセージが残されていた。

『純ー、あのねぇあたし2、3日う〜んもしかしたら

1週間くらい帰れないから。寂しいと思うけど1人でご飯食べてね。じゃあねぇ』

やけに陽気な声で楽しそうなメッセージ。しばらく

帰れないという内容に


帰れないって事はやっぱりフォルトさんは病気だったのかな?


純はフォルト氏の身を心配したが、やたらと陽気だった小町の声が妙に気になる。


俺に心配かけないようにわざと明るい声で言ったとか?いや、それは無い。絶対に有り得ない。小町に

そんな気遣いをする知恵は無いはずだ。でもまぁとりあえず連絡があったという事はフォルトさんも小町も一応大丈夫と考えて良いんだろう。


純は心配しつつも、少し安心した。














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