第22話

「あー、食った食った!もうお腹いっぱい」

と満足した顔をして小町がスマホで音楽を聴こうとした時、素早くヘッドフォンを取り上げ純は真剣な顔で小町に詰め寄った。

「さて夕飯も食べ終わったことだし、約束どおり洗

 いざらい全部話してもらおうか小町さん?」

「あーもう、せっかくあたしの好きな曲聴こうと思

 ったのにぃ」

小町が不満の声を出す。

「そういえばお前、いつも何の曲聴いてんだ?」

「SAVAGEGARDEN!良い歌ばっかりで今ハマって

 んの」

「へぇ、SAVAGEGARDENか。俺も好きなんだよな

 って話を逸らすなよ!」

「チッ、ダメだったか…。分かったよちゃんと説明

 する、約束だもんね。さてどこから話せばいいの

 やら…」

腕組みしながら考え込む小町に

「じゃあ、まずあの大男達についてから説明してみ

 ろ」

と話を促すと、小町は渋々説明し始めた。

「あいつらは、あたしのSPのうちの2人なんだよ」

「はぁ!?SP!?お前どんな身分なんだよ?」

「身分も何もあたしだって嫌なんだよ、SPが付くな

 んてさ。でもあたしの身元引受人が無理矢理付け

 るんだもん」

嫌そうに話す小町に、次の質問をする。

「SPの事はちょっと置いておくとしよう。で、ドイ

 ツ大使館って何だ?そんな所とお前に何の関係が

 あるんだよ?」

「ドイツ大使館はねぇ…あそこはじいさんが死んだ

 後に身を寄せてた所。監獄みたいで大っ嫌い!!

 いつも何かしようとすれば4、5人のメイドが金魚

 のフンみたいについて来るしあれこれ手出しして

 くんの!鬱陶しいったらありゃしない。あたしは

 何も出来ない子供じゃないっつーの!着替えも風

 呂に入るのも1人で出来るわっ。フォルトおじ様

 はあたしをいくつだと思ってんだ?いつまでも子

 供のままと思い込んでんじゃないか…?あ〜、二

 度と戻るかっ、あんな所!!」

忌々しそうに言う小町に純はずっと疑問に思っていた事を聞いた。

「あのさ、朝もだったけどさっきから言ってるフォ

 ルトおじ様って誰?」

「フォルトおじ様?おじ様がさっき言ったあたしの

 身元引受人。ドイツ大使館の大使してんの。あん

 まり知らないけど、大使って1番のお偉いさんな

 んだってね。まぁ、興味無いけど」

「なんだってねって、そんな他人事みたいに…。大

 使かぁ、そんな凄い人がお前の身元引受人とはな

 ぁ。何となくおおまかな事は分かった。不思議に

 思うんだが、その人とじいさんってどんな関係な

 んだ?」

「えっと、じいさんはフォルトおじ様の命の恩人な

 んだって」

「命の恩人って…」

「おじ様がそう言ってたよ」

「そうか…、しかし小町が『おじ様』って言うと気

 色悪いな」

「うっさいわ!小さい頃からそう呼んでるから、も

 う癖みたいになったんだからしょうがないでしょ

 うがっ。それにおじ様はじいさんの友達だからド

 イツに居た時からよく遊んでもらってたし。近所

 のおじさんにしか思えないんだもん。今更、偉い

 人って言われてもさぁ。でもフォルトおじ様のと

 こ子供がいないから夫婦揃って超過保護なんだ。

 仕事で海外行って帰って来ちゃ、ぬいぐるみやら

 人形やらたくさん買ってくるしおば様はおば様で

 フリフリの洋服着せたがる…。マジ勘弁してよっ

 て感じなんだよ。何でも娘がいたら着せ替えして

 楽しむのが夢だったんだと」

「フリフリでもレースでも着てやれば良いじゃない

 か。世話になったんだろう?良いじゃないか親孝

 行と思えば」

「…アンタ、あたしがゴスロリやピンクハウス着て

 る姿見たい!?」

「いや…あの…頼まれても見たくない…」

「でっしょ!あたしだって着たくないわっ。でもお

 ば様は女の子はみんなフリフリレースが好きなん

 だと本気で思ってる人なんだよ。だからソレ何処

 で売ってんだ!?って思う服ばかり着せようとす

 る訳」

「やっぱり着てやった方が…」

「じゃあ、純があたしの代わりに着たら!?しかも

 今メイド喫茶の制服に凝ってるからそれこそコス

 プレじゃん!断りたいけど、じいさんが死んだ時

 誰よりも早く駆けつけてくれた人達だから…。2

 人で散々泣いた後あたしを引き取るって誰にも譲

 らなかった。あたしにとっちゃ足長おじさんみた

 いな存在なんだよねぇ。しっかし、あたしを引き

 取るって言う2人の気迫は凄かったよ。みんな引

 いてたわ…」

妙な事に感心している小町を余所に純は

「でも、お前がここに住んでるって向こうにバレた

 んだろう?またあんな大男達が来るのは俺はもう

 勘弁して欲しい。それにちゃんと住んでた所があ

 るじゃないか!ドイツ大使館に帰れよっ」

「絶対イ・ヤ!あんな所に戻るなんて地獄に行くの

 と同じだわ。あたしはここが良いの。ここじゃな

 いとダメなのっ。SPの件なら大丈夫。ここに純と

 住んでる事はちゃんと説明してきたし、また無理

 矢理連れ戻すなら今度こそ縁をぶった切って姿を

 くらましてやるってとことん脅して来たからもう

 SPが来る事は無いと思う」

小町はVサインをしながら答えた。


それで良いのかフォルトさんとやら…。それにしてもヴォルダーじいさん、アンタどこまで顔が広いんだ!?ドイツ大使の命の恩人なんて一体何者なんだよ!?何がどうなれば命を救う様な事が起こるんだろう?本当に謎多き人物、ヴォルダー!!大使の命の恩人という民間人なんてそうそういないぞ…


「それじゃあ昼夜問わず何処かに出掛けてたのも大

 使館関係なのか?」

「それとこれとは別。あたしが大使館の為に何かす

 る訳ないじゃん!ちょっとした小遣い稼ぎしてん

 の。ライブでゲスト参加で歌ったりストリートラ

 イブに飛び入り参加したりね。それから気が向い

 たらモデルみたいな事もしてるなぁ。そんで…あ

 っ、知ってる?モデルって結構なお金くれるんだ

 よ。でも海外の雑談だから日本で売ってないや。

 今度その雑誌貰ってきて純に見せてあげる!最近

 モデルの仕事が増えてきて面倒臭くなってきたか

 ら辞めようと思っててさぁ」

「ライブで歌って気が向いたらモデルの仕事…。そ

 れぞれ考えれば凄い事だが、何の接点も無いな」


小町にモデルがやれるのか!?確かに見た目だけは良いが…。面倒臭くなったら辞めるような奴だぞ!?真剣に歌手やモデルを目指している人達にケンカを売ってるような適当な奴なんだぞ!?


純はそんな小町をモデルに採用しようと決めた人物の顔を見てみたいと本気で思った。

純の複雑な心境など気付かない小町は、

「あははっ、いーじゃん、いーじゃん何でも楽しけ

 りゃ!!」

と大声で笑いながらバンバンと純の背中を力いっぱい叩く。

「仕事や人生ってさぁ、楽しい事ばかりじゃないで

 しょ?もしかしたら辛い事の方が多いかもしんな

 いよね。でもさ自分の考え方次第で辛い事が楽し

 い事に変わると思うんだよ。ただ辛いとかキツイ

 って思ってばかりじゃ何しても楽しくないし逆に

 損してるみたいじゃん!そんなんだったら自分の

 持ってる力とか可能性を発揮出来ないまま終わっ

 ちゃう。それってすごくもったいないと思わない

 ?せっかく良いモン持ってるのに発揮しないなん

 て宝の持ち腐れだわ。だったら自分から楽しもう

 って考えなきゃ!誰かが何とかしてくれるなんて

 他力本願じゃイカンのだよ。自分の力や可能性は

 その人しか分からないし使えないんだから。1つ

 でも多く楽しみを見つけたら全てが変わる。周り

 の人達もやる気が出るし、自分の気持ちも楽しく

 思えるようになるんだからね!!」

と言った小町の言葉に純は初めて心から感心した。

「小町の口から人生論を聞く日が来るとは…。何も

 考えてなさそうでお前も色々考えてるんだなぁ」

「そうさ、あたしだって色んな事考えてんだって」

「大抵は碌でもない事ばっかりしか考えてないけど

 な…」

「うっさいわっ、ボケッ!!」

と小町は純の頭に頭突きした。

















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