第13話
「ねぇ、マジで羽根出しちゃダメなわけ?これって
結構疲れんだよね」
「コホンッ、ダメだ!ここはドイツじゃなく日本だ
。向こうでは良かったかもしれんがここじゃそう
いう訳にはいかん。頭ん中にここは日本なんだと
今すぐ刻み込め。これからは絶対に俺の許しを得
てから出すように。それがこの部屋に居る条件の
一つだからな」
「え〜っ、何でよ!?部屋に居る時くらい良いじゃ
ないさ」
「ダメだ。それが守れないなら今すぐここから叩き
出す。もし羽根を出してるお前の姿を他の誰かに
見られでもしてみろ。見せ物小屋とかサーカスに
売られるかも知れないんだぞ?…ヘタすりゃどこ
ぞの研究施設に連れて行かれて研究材料にでも…
。とにかく用心にこした事はない。あっ、隣の田
尻さんとこの奥さんには1番気を付けるんだぞ!
あの人は人間スピーカーだからな」
うーんと1人で考え込む純に対して
「今時見せ物小屋とかサーカスに売られるなんて…
本気!?全くいつの時代の話してんのアンタ?
色々とおかしな事思いつくね…」
変に感心しながらも今でも考え込んでいる純の肩を力強く掴み、自信たっぷりに
「安心しなっ、そんときゃ『天知る、地知る、俺が
知る』って現れて『一つ、人の生き血を啜り、二
つ、不埒な悪行三昧、三つ、醜い浮世の鬼を退治
してくれよう』『成敗!!』とこの小町様が闘っ
て返り討ちにしてやるわ。その為にじいさんと何
度チャンバラをした事か!今こそその成果を見せ
る時…」
トンチンカンな事を言いながら、近くにあった雑誌を丸めて振り回している小町の言葉に今まで考え込んでいた純の目がキラーンと光る。
「『天知る…』は遠山の金さん、『一つ人の…』は
桃太郎侍、『成敗!!』は暴れん坊将軍だろ?俺
が知らないとでも思ったか小町よ?」
不敵な笑いを浮かべる純に、小町は悔しそうに
「むむ…斉藤純、お主なかなかやりおるな…」
横目で睨む小町の姿を見ながら、勝ち誇った態度でフッと鼻で笑い
「ふふん、こっちはドイツと違って再放送とはいえ
ガキの頃から家族みんなで観てるんでね。実は俺
も時代劇や任侠映画が大好きなんだ。お前が話す
度に突っ込もうとするのを我慢してたが…。任侠
映画で一番なのは『静かなるドン』だが『仁義な
き戦い』も捨てがたい。菅原文太さんに目を付け
たじいさんは流石だと思う。だか甘いっ、任侠映
画と言えば高倉健さんだ!!」
胸を張り、キッパリと言い切った。そして付け加える様に
「まぁ、『水戸黄門』に限っては初代が一番好きだ
けど。あの高笑いは初代が一番上手い!」
「あっ、それ分かるわぁ。やっぱ黄門様は初代が一
番良いよねぇ」
「そうそう、あの土臭さがなんとも…って違ーう!
!!」
しまった!何で小町と一緒になって時代劇とか任侠映画について熱く語り合ってるんだ俺!!小町のペースに流されてどうするんだ俺!!自分を見失うな俺!!
いつの間にかペースに乗せられてペラペラ喋ってしまった自分にしばし激しい自己嫌悪に陥ったが、はたっとある事に気が付いた。
「そういえば小町、お前どうやって日本に来れたん
だ?パスポートとか持って無さそうだし…。ちゃ
んとビザは取得したのか?永住権は…ある訳無い
か。じゃあ、お前は密入国者か!?どこかの貨物
船に紛れて来たんじゃ!?どこの船に乗って来た
!?けっ、警察に電話を…」
バッグから慌ててスマホを取り出して110番にかけようとする純の手を素早く手刀で叩き落とし、間髪入れずに顔にアッパーを喰らわせる。
「ちゃんと正規のルールで来たわい!ビザも取得し
とるわ、このドアホゥがっ!」
と小町が憤慨するも、なお顎を押さえながら
「じゃあ、俺の部屋に住む前はどこに居たんだ?ま
さか風俗なん…」
今度は容赦ない回し蹴りが純の腹部に見事に決まった。左腹を押さえダウンした純に
「豊かな発想力を持つのは良いけど、本当に碌な事
しか思い付かんなぁ純は。もっと他のところでそ
の発想力を活かす方が良いぞ。第一、あたしは自
分の身体を安売りするような真似はしないんだよ
!!」
仁王立ちで怒鳴った。
「ヴォルダーじいさんの知り合いの所に居たんだよ
。そこにちゃんとパスポートも置いてある。でも
そこがあんまりにも退屈で自分に合わないから、
黙って抜け出して来た。そんであちこち街の中を
ブラブラ歩いてたら酔っ払った純を見つけて現在
に至る。以上!!」
物凄く肝心なところが省略された話を言い終わり、欠伸しながら「寝るっ」と小町は横になると3分後には寝息を立てていた。
そうだった…こうやって小町は勝手にここに居座り始めたんだよなぁ…。できる事ならあの日に戻るか記憶を削除したい…
純は願ってみたものの、当然過ぎてしまった時は戻らない。苦々しい顔で手にした本を元の場所に戻し
て、本来必要としていた資料の『幼児期に見られる行動とその心理の概要』を取り出して再びパソコンと向き合った。
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