第3話
「大丈夫、心配すんな!今やカツラはもちろん発毛
や植毛の技術は見分けがつかん位に進化しとるか
ら。安心したまえ純よ!君の髪の将来は明るい」
まったく、反省も何も無いじゃないか。つーか話を変えよってからに…
「グダグダ言ってないで早く散らばってる空き缶を
片付けろ。床やテーブルのゴミも一つ残らず片付
けろよ。禁酒宣言を3日どころか1日も守れない奴
なんて今まで一度も見たことない…。」
純は空き缶を避けながら部屋に入ると小町に向かって
「おい、一応言っとくが俺はお前と仲良く一緒に住
んでるつもりはない。むしろ逆だ。さっさと自分
の住んでた場所に帰れ。それからその邪魔な羽根
を出すなっていつも言ってるだろう!!いつ、ど
こで、誰が見てるか分からないからな。今すぐし
まえ!」
急かす純に対して今後は小町が怒りながら、開き直った口調で
「ほんっとにもぉ〜、細かい事ばっかグチグチと…
アンタは口やかましい姑か!?すっげぇ器の小せ
ぇ〜男だな。良いじゃないのさ昨日は昨日、今日
は今日。あたしは過ぎた日の事なんか綺麗サッパ
リ忘れたね!あ〜忘れたとも!!飲みたいもん飲
んで何が悪い!?好きなもん我慢するなんてあた
しのモットーに反するわい。だから禁酒なんてし
ないもんねぇ〜。さぁ、今夜も好きなだけ飲むぞ
〜!!」
そう言うと小町はぐいっとビールをあおる。
何かモットーだ!?そんなもの最初からな無いくせに…。朝になればいつも二日酔いで「もう二度と酒は飲まんっ。禁酒する!」と騒ぐくせによくもまぁそんな事が言えたもんだ…。
心の中でツッコミながら純は呆れ果てた。確かに小町は散々飲んだ翌日に、ズキズキする頭を押さえつつ「もう酒はやめるぅー」だの「二日酔いの薬をくれー」だのブチブチ文句をたれる事を何度も繰り返していた。
「その言葉と次の朝の文句は耳にタコが出来る程聞
いた。頼むからいい加減学習しろよ。おい、早く
その羽根をしまわないと力ずくでもぎ取るぞ。い
つも言ってるだろうが。いつ、どこで、誰が見て
るか…」
「あーうるさいっ!同じ事何度も何度も何度も何度
もっ。純の説教ジジイ!!しまえば良いんでしょ
しまえばっ」
そうブツブツ言いながら小町は深呼吸すると背中に神経を集中させる。するといいつものように羽根はみるみる小さくなっていき、最後には羽根模様のタトゥーに変化した。羽根をしまい終えると小町は首をコキコキ鳴らしながら
「やっぱ羽根しまうのって疲れるわぁ〜。あーあ純
のせいでせっかく気持ち良かった気分も台無しに
なっちゃったわ。仕方ないから一丁風呂にでも入
んべ!」
小町はバスタオルを肩に引っ掛けると、鼻歌を歌いながら風呂場の方へと消えた。
「何度も言わせてるのは誰の所為だと思ってるん…
ってオイっ!!この空き缶や食い散らかした残骸
はどうするんだよ!?自分で片付けろって言った
だろっ!!」
純が怒鳴る中、風呂場から呑気な声で
「代わりに片付けといてぇ〜。小町ちゃんからの一
生のおねがぁ〜い。よろしくね〜!」
またか…。今夜も俺か片付けるのか…。お前の一生のお願いって何回あるんだ!?クッソ、絶対追い出してやる!!!!
そう何度も誓ってきた純であったが、片付けるしかないので結局いつもと同じ深い溜め息を吐きながらゴミ袋片手に散乱したビールの空き缶を拾い始めたのだった。目の前には悲惨な部屋。
一体何をどうしたら、たった数時間の内にここまで汚せるんだ!?これってある意味才能だろう。そして必ず俺が片付ける羽目になるんだ…。いつになったら以前のような平穏な日々に戻れるのかな…
そう思いながら次々にゴミ袋に空き缶を入れていると純の耳に一瞬にして片付けの気力を無くさせ、更には気分をドン底に突き落とす小町のバカでかい歌声が聞こえてきた。
「隠し切れない〜移り香がぁ〜いつしかあなたにぃ
〜染み付いたぁ〜…」
と石川さゆりの『天城越え』が響く。純は空き缶を拾う手を止め腕時計に目を向けるとすでに午前0時をとうに過ぎている。明日いや既に今日である朝に毎日、恒例となっているモノが待っていると思うと純の胃がシクシクと痛んだ…。
あぁ、また田尻さんとこの奥さんに嫌味を言われる…
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