単身赴任
『このたび京都に転勤となりました。』
貴俊さんのメール。しょっちゅう関西には出張に行っているし、メインのデスクが京都に移るだけでしょ、と思った。
『京都通うんですか?新幹線通勤ですね。富士山見られますね。』
のん気な私のツッコミに対する返事は
『単身赴任となります。3年間の予定です。さすがになかなかあやちゃんと会えなくなるのではと思います。寂しいです。』
…単身赴任。
その時の私の心境は非常に興味深いものだった。心理学的研究の題材にして欲しいくらいだ。私は心から《彼が家族から離れることが心配になった》のだ。
数日後、洋食屋さんで彼の好物のハンバーグを食べた。ハンバーグを食べている間は、単身赴任の話にはならなかった。美味しい、と言ったり楽しい話ばかりして、私はずっと笑っていた。
そのあとコーヒーを飲みながら、
『京都だよ。いくらなんでも遠い』
と、また寂しそうに言った。私が実家に帰ると言ったときの。子供みたいでかわいい、と思った。
『物理的距離って関係あります?そもそもいつでも会えますっていうわけじゃなかったんだから関係ないでしょ』
『まあ、そうだけど…』
『変わるのは物理的距離だけです。私自身は何もこのままずっと変わらないので。東京にも来るでしょ。私京都、行きますよ』
『来るとは思う』
『私は、変わらないので』(きっぱり)
『…大丈夫、かな。じゃあ、続けるか!』
『はい!』
それから3年間、貴俊さんは京都に単身赴任をしていた。月に数回東京に戻ってきたし、行けるときは私の旅行に合わせ『ツアー』を組んでくれたりした。宝塚も何度か観に行った。
インフルエンザにかかってしまい、1人で寝込んでいるということもあったらしい。心配ではあったが、私よりも心配しているであろう人は他にいる。その辺りはなぜか冷静だった。
東京に戻ることになった、という話は直接聞いた。とっさに私は無言のまま笑顔になった。
嬉しそうだ、と彼は私の頬をつついて笑っていたが、この時の私の心境もまたまた興味深いものであった。
我ながら不思議である。
良かった。奥さんの元に戻れる。もう1人で病気になっていないか、心配しなくていいんだ。ホッとした(笑顔)。
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