3人で住みたい

 夫と別居するために実家に帰ってから3ヶ月ちょっとで、また東京で夫と同居することになった。あの騒ぎは何だったんだ。

 仲直りしたわけではない。息子が、父親と離れたことで精神的にダメージを受けてしまったのだ。想定外だった。

 夫は別居した後も息子に手紙や誕生日プレゼントを贈ってきたりした。最初の頃は幼稚園のお友達もできて楽しく過ごしていたのだが、どうしてパパは来ないの?と言い始めた。お仕事だよ、と言ったがダメだった。

『パパに会いたい』

『3人で住みたい』

 と泣かれた。


 夫が私の実家に来るという選択肢もあったが、それは私が許さなかった。家賃がかからなくなったら、もう働かなくていい、と思うだろう。私の実家が食い潰されるなんて我慢がならない。

 かと言って、私が夫の実家に行く選択肢はまず有り得なかった。義父母と私は、もはや絶縁状態に近いくらい関係が悪化していた。


 とりあえず、息子が小学校に上がるタイミングでまた3人で東京に住もう。もしダメなら籍は抜いて、息子が理解できるようになるまで家族として一緒に住もう。息子が社会人になったら解散しよう。


 夫と私はそんな約束をした。あくまでも口約束で誓約書もなかった。どちらともなく言い出したこの条件は、私たちにとっては唯一の方法だったと思う。息子のための。


 夫は地元に帰ったあと親戚のつてで仕事を見つけていた。都内にも事務所があったので、私と息子が先に引っ越しして、後から事情を話して異動させてもらい同居した。

 父親のそばに戻った息子の顔には笑顔が戻った。小学校も区の取り計らいで入学式2週間前なのに受け入れていただいた。学童保育に行き始めたこともあり、お友達もできた。

 思えば、本当に息子のことでは周りの方々にお世話になったものだ。


 私にとっても、東京に戻って来られたことは良かった。職場も近くなったし、夜遅く帰ることもない。

 そして、貴俊さんとの距離も近くなる、と思った。


 1年半後、結局ケンカが絶えず夫と私は離婚した。約束通り、しばらくは息子に気づかれないよう同居することにした。

 その直前になんとなく『伊勢神宮に行ってみたい』とため息交じりに貴俊さんに言ったのだが、どうやらその様子でああ、離婚するんだなと思ったそうだ。

 出会ってから5年経っていた。私のことをいちばん理解してくれている人だと思った。




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