ツアー

 かくして私は実家から片道3時間近くかけて都心の職場に通うことになった。

 息子は私が通っていた幼稚園が受け入れてくれた。音楽教育に力を入れていて、間もなく卒園だったのだがコンサートにも参加させてくれた。サポートしてくれた両親や今は亡き祖母、先生方には感謝してもしきれない。


 そんな毎日だったので、当然のことながら貴俊さんとは会えなかったが、毎日のメール(彼はメルマガと言っていた)は続いていた。

 1ヶ月くらい経ったとき、会いたいと言われた。片道3時間通勤が辛くなってきたので、どこかビジネスホテルでも取って泊まろうと思った。出張みたい。憧れる。


 するとまさかの貴俊さんも泊まると言う。え?大丈夫なの?確かに営業で国内外に頻繁に泊まりがけの出張があったので、不自然ではないかもしれないけれど。

 でも私は下手に聞いたり説明を求めたりはしなかった。貴俊さんがいいならいいし、だめならだめなのだ。少なくとも、だめじゃないらしい。そのために裏工作もしてくれたのだろう。私のことなど思い出す必要もない会っていない時間に、私のことに時間を割いてくれたことが単純に嬉しかった。

 ありがたく、ご一緒させていただくことにした。


 その後、旅行好きの私は自由に国内旅行に行っていたが、貴俊さんの出張先に私も合わせて行ったりした。それを私たちは『ツアー』と言っていた。年に2回くらい。

 彼の会社の本社がある関西地方が多かったので、おかげで私は京都や大阪をひとり歩きできるくらい詳しくなった。世界を広げてくれた彼に本当に感謝している。


 ただ一つ、このことを誰にも言えない、言ってはいけないということだけがずっと心に引っかかっていた。






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