第6話 練習試合②
「あ、もう始まってる!」
練習試合と聞いて居ても立っても居られず紗希は運転手の太田を引き連れ西河高校の体育館にやって来ていた。
そして、体育館の2階に行って見やすい位置を陣取る。
どうやら他にも観に来ている人がいるみたいで、所々に人が居た。
「彩峰様のプレー楽しみですね」
「スタメンみたいだし、ワクワクが止まらないよ!」
目を輝かせながら観戦する紗希であった。
❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇
ジャンプボールでまずボールを取ったのは相手だ。
相手ポイントガードには樋野先輩がマークしている。
相手は速いペースでパスを繋いでいき、一瞬のディフェンスの遅れをついてスリーを沈める。
やられた。
完全に先制された。
負けていられない、俺はボールを取ると先輩にパス出しする。
相手は余裕だと思っているのかディフェンスが緩い。
ところが、中々突破することができず、そのままずるずると点差が開いていく。
開始4分で15-2。
かなり不味い。
ボールがコート外に出てプレーが止まると同時に、先生がタイムアウトを取った。
「ちゃんとボールを自陣に運べ、話はそこからだぞ」
冷静に先生は俺達の反省点を述べていく。
決してああしろこうしろとは言わなかった。
どうするべきかは自分達で結論を出せと言っているようだった。
そうでなければ練習試合の意味がない
ーと。
俺達のオフェンスから再開する。
今度は俺がボールを運ぶ。
激しいディフェンスであるが、何とかフロントコートまで持っていった。
一回樋野先輩にパスを出し、戻すように要求する。
それを瞬時に察した先輩は俺にパスを出す。
そして、俺と俺のマークしているディフェンスの一対一の構図となった。
「あ、アイソレーション…」
観戦している紗希が呟いた。
「それはバスケットの用語ですか?」
「そうだよ、作戦の名前?みたいなやつ」
「バスケットは難しいものですね」
「ふふふ、そうだよね」
明斗の活躍を心から信じる2つの存在が体育館の隅にあった。
❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇
その応援が本人に届いたのか明斗は相手ディフェンスを抜いた。
キレのあるドライブで置き去りにし、ヘルプディフェンスもその勢いのまま躱し、得点する。
「「「おぉー!!」」」
我が校のベンチが盛り上がる。
そして、相手が少し焦り甘いパスを出したところを、俺がわがままを言ってスタメンにした裕翔がスティールをし、ファールを貰いながらのレイアップシュートを沈めた。and1だ。
「よぉぉぉぉぉぉし!!」
練習試合と思えない盛り上がりを見せる新山高校の部員たち。
裕翔はしっかりフリースローを決めた。
そのまま試合は進んでいく。
少し俺のワンマン気味になっているが仕方が無い。
ワンマンチームは勝てない。だが、それは正面から当たっても勝算があるときに限る。
だからこそ、今は俺でスコアを稼ぎ、流れを作るしかない。
ゲームメイクは俺に託された。
実際、俺にボールが集まっている。
どれだけパスを回そうが最終的に俺の手元に来る。
皆が俺に(一泡吹かせてやれ)と言った目で見ている。
俺はその期待に応えてやる!
相手の意表を突き、ステップバックし、スリーポイントシュート。
相手のチェックが甘かったためゴールへと一直線で入る。
ベンチは大盛りあがり、だが、その声その音が何処か遠くに感じる。
今俺に鮮明に見えるのはボールただ一つだ。
そして、俺を抜こうとドリブルで突破しようとしてくるが、
「(甘い!)」
スティールをする。
そして、そのまま一直線でゴールへと全力でドリブルをつきながら走り、そのまま、リングにボールを叩きつけた。
「え?」
一瞬体育館が静寂に包まれた。
驚愕と畏怖のせいだろうか。
「俺ってダンクできたんだ…」
一番皆が驚いたのは本人ができるとは思っていなかったことだろう。
「す、」
誰かが息を漏らした、
「「「「すげぇぇぇぇぇぇ!?」」」」
そして、第1Qが終了。
一時は点差が20点差ついていたが
30-25と追いついてきている。
「この調子…この調子だ…お前ら、このまま逆転するぞ」
先生が興奮混じりにチームを鼓舞する。
「「「おぉー!!」」」
❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇
「はぁ…はぁ…かっこいい…かっこいいよぉ」
明斗君が…明斗くんが、ダンクをして、活躍してる…それだけじゃなくて仲間のフォローとかもしてるし、マジイケメンだよぉ。控えめに言って最高。
明斗くんに女ができる前に出会えて、婚約できたの本当にラッキーだよ
「はぁ…はぁ…今すぐ会いたい…今すぐハグしたい、今すぐ抱いてほしい…」
「お、お嬢様…落ち着いてください…」
❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇
第2Qが始まる。
俺に警戒しているのか、ダブルチームで激しくマークしてくる。
しかし、そんなのには負けないと意地でボールを運ぶとディフェンスは俺がドライブしてくると警戒し周囲への意識が薄れた。
「(そこが甘いんだよっ!)」
裕翔がカッティングをする。
そこにパスを出し、楽々と得点する。
「何をしているんだっ!」と相手の監督から怒号が飛び、相手チームの選手の顔が一層引き締まったように感じた。
俺は少しほくそ笑むと、ワンマンプレーから周りを活かしたプレースタイルに変えて、相手の分析と対策をめちゃくちゃにした。
そのまま試合は進んでいく。相手のオフェンスはまだ生きているため得点を量産されるが、ディフェンスはもう壊滅的。有利なのはこっちだ。
相手はろくに対抗できないまま、試合は終わった。
結果は71-72と大接戦ではあったが我が校の勝利には変わりない。
「「「しゃああ!!」」」
ガッツポーズを全員がした。
完全に俺たちを舐めていた相手は信じられないといった顔で俺らを眺めていた。
相手の監督が俺に話しかけてきた。
「君は確か、中学時代に…」
「それはもう昔のことですよ…」
「そうだった、しかし完全にうちの負けだ」
「だが公式戦では負けん」と付け加え去っていった。
片付けを手伝い、帰る支度を済ませると目の前には紗希と太田さんがいた。
「明斗くぅぅぅぅぅん〜」
と言いながら俺に抱きついてきた。
周囲の部員たちは「羨ましい…」と呟きながら、微笑ましいものを見ているような暖かい目で二人を見守っていた。
❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇
車内。
「あのねあのね。凄かったよ?一人であの点差ひっくり返してさ、ダンクもしてて、カッコよかったよ」
何故か、幼い口調になり興奮気味に俺のプレーの感想を語る紗希が少しおもしろかった。
「むー、なんで笑うの?」
頬を膨らませて抗議する紗希。
「いや、可愛かったから」
しかし、瞬時に顔を赤くし茹でダコみたいになった。
「もーーー!明斗くんのバカー!」
と照れ隠しに叫びながら俺の胸に顔を埋めながらぽかぽかと叩いてくるが痛くない。
「ちょ、汗かいてるから臭いぞ?」
「明斗くんが臭いとか地球が蒸発しても有り得ない、いい匂いだよぉ、すぅ~はぁ〜すぅ~」
「おい…」
「ヤバい…濡れてきちゃった」
「何がですか!?」
これ以上は不味いぞ?やめとけよ?
そんな俺の心配をよそに抱きついたまま俺の顔をみてはにかむように笑いながら紗希は言った。
「明斗くんっ、だーいすきっ」
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