第5話 練習試合①

部活に入って早数日が経過した。

現在俺は体育館にてバスケに勤しんでいた。


「対面レイアップ行くぞー!」


「「「「はい!!」」」」


キャプテンの声かけに士気を高める部員たち。


梅雨でジメジメしがちな時期である6月なため汗がわんさか出てくる。


そう思いながらレイアップを打ち続けていたが、顧問の先生が登場したことにより、中断される。


「「「「こんちわ!!」」」」


スポーツ部独特の略した挨拶をし

キャプテンの「集合ー!」という掛け声で顧問の先生の前へ集合する。


「君たちに朗報だ、今週末練習試合だ」


「「おぉ!」」


「相手は西河高校、去年の県大会準優勝校だ」


「……」


一斉に黙り込んでしまった。

それもそのはず、ウチは強豪ではない。

毎年県大会は良くて二回戦、大体初戦敗退のレベルだ。

準優勝の学校の相手にもなるはずがない。


「そこって、今も強いんですか」


俺が先生に情報を求める。

強い相手ほど勝ちたくなるものだと思うのは当たり前のことではないだろうか。


「強いな、なんなら今この県で一番は西河かもしれない」


「oh」

「そんなの…」

「相手はただのコンディションの調整だと思っているやつじゃん…」


数週間後にはこれまでの集大成を見せる大会である県総体を控えている。

だから相手はウチと練習試合を組んだのだろう

先輩の言っていることは正しいが納得はしない。

少し腹が立つし諦めたくないから。


「だからこそ一泡吹かせましょうよ」


「…そうは言ってもよぉ彩峰」


「お前は新入りだから言えるかもだがなぁ」


「俺らは対等に戦えない、実力がないから」


「百歩譲って樋野が5人いたら通用するだろうが、樋野のワンマンになってしまう以上勝つことはできない」


確かにワンマンチームは格上相手には絶対に勝てない。

勝てるとしてもその一人がプロまたはそれ以上の実力の持ち主である必要がある。



すると、それまで静かにしていた樋野先輩が口を開いた。


「でも、今回はワンマンじゃないだろ?」


「あ、そっか彩峰がいる」

「そうだそうだ」


「明斗」

 

「ん?」


先輩たちが俺の実力を思い出しているときに後ろから名前を呼ばれ、振り返ると同じクラスで俺が入部してから話すようになった志麻裕翔しまゆうとがいた。


「どうした?裕翔」


「俺は力になれないけど、応援してるから活躍してくれ」


「勿論、やれることはやれる分だけやるさ」


「期待してる」


そう言って裕翔は練習を再開し始めた周りに混ざった。



❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇


土曜日。

やって来たのは西河高校体育館。

目的はもちろん練習試合。


「よろしくお願いします!」

と挨拶をし、お互いにアップをする。


一通りを終え、皆が残り時間をシューティングに使っている最中、コートの隅で俺と樋野先輩と顧問とで作戦会議をしていた。


「そういえば、明斗のポジションってどこ?」


「俺は…まぁアウトサイドならどこでもできますけどSF《スモールフォワード》が一番得意ですね……もしかして先輩と被っちゃいました?」


「いや、いつもスモールフォワードをしていたけど、実はSG《シューティングガード》の方が得意なんだよ」


「とりあえずは2人のポジションはいいとしてPG《ポイントガード》はどうする?相手に通用するガードはいないぞ」


なかなかに酷いなとは思ったが、勝つためには割り切らなくてはいけない部分でもある。


「じゃあ、ガード役は俺と樋野先輩で二人でボールを運びましょう」


「それって…?」


「そしてポイントガードは無しにしてシューティングガード2人にすれば良いと思います」


「…これは大きく出たな…」


本業の人をなくし、その他の人でリカバリーするのはリスキーとも言える。


「そして、そのもう一人のシューティングガードは裕翔にしましょう」


「なぜ?」


「彼のトランジションの速さとカッティング技術が優れていますし、それに一秒たりとも足を止めないような献身的なプレーはここぞというときに頼りになります」


「なるほど…そうしよう」


そうして、スタートメンバーは決まった。


❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇


「お願いします!」


向かい合い、挨拶を交わす。


そして、互いのチームのC《センター》が向かい合い、ジャンプボールの姿勢を取る。


さぁ、ティップオフだ。

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