第4話 新しい日常

「ふぅ~疲れたなー」


久しぶりのバスケ。久しぶりの部活。

バイトをしていたおかげでそこまで体力は落ちてはいないが中3の最後の大会以来、激しく体を動かすことはなかったため疲労感はもちろんの事、その分楽しかった。


満足感でつり上がっていく口角をなんとか抑えながら体育館を出る。


「お、明斗くーん、こっちこっち~」


「ん?」


声の方向を見ると紗希がいた。


「まだ、学校にいたんだ、なんか部活入ってたっけ?」


「え?入ってないよ?ただ待ってただけ」

と言いながら自然と俺の手を取る。


初めて会ったときから感じていたが、

紗希の距離の詰め方が凄い。なんというか凄い。

スキンシップもあざといというか、とにかく凄い。

まだ婚約から日も経っていないというのに。


「おぉ…そう、暇だったでしょ」


「そうでもないよ?ただ、ひたすらに明斗君のことを考え想い続ける時間っていうのも捨てたものではないよ(まぁ、ほんとは明斗君を盗撮していたんだけどね、でも婚約者だからいいよね)」



「そ、そう…なんだ…」


すげーな、それで2時間ちょい耐えれるの。


「さ、帰りましょ、太田が待ってるよ」


「そうしよう」


2人で同時に歩き出す。

隣を歩く彼女が手を強く握ってくる。

絶対に離さないという意思すら感じる。

そして、定期的に頭を俺の肩に当て、楽しそうに笑う。悪戯のつもりなのか愛情表現なのか何なのか経験が浅すぎる俺には分からないが、楽しそうであるため止めはしないでおく。


そうこうしているうちに校門前まで辿り着く。

そこには見覚えのある高級車が停まっていた。


俺達はそこに一直線で向かい、乗り込む。

「よろしくお願いします」


「はい、おまかせください」

太田さんが満麺の笑みで返してくれた。


まだ、太田さんと深く関わったことはないが、この人は絶対にいい人柄であると言える。

異論は認めない。



車の中から学校を見ると、まだ学校に残っていた人たちや校門周辺にいる人たちの視線がこちらに向けられていることに気付いた。


やはり、学校に高級車は目立つ。

そこに同じ学校の生徒、しかも男女が乗り込んでいったのだから、自然と見てしまうのだろう。

少し前の俺はその立場だっただろうからなんとなく分かる。


俺の立ち位置は変わったんだなーとしみじみと考えながら学校から移り変わっていく景色を眺める。


「…あむ」

紗希が俺の耳を甘噛した。

なんとも形容しにくいが、全身から力が抜けるような感覚がした。突然そのような感覚になったため俺の脳も脊髄も驚き、思わず体が震えた。


「わっ!?な、なにどした?」


紗希は頬を膨らませながら

「むー私が隣にいるというのに景色にばかり見惚れちゃって」


「そ、それは久しぶりの部活で疲れてて…」


苦し紛れの言い訳を並べる。

いや、これは言い訳なのか?

とりあえずは彼女の機嫌を取らなくてはならない。


「言ってくれれば膝枕してあげるのに…」


「いや汗かいてるし」


「なんだそんなこと?気にするわけないじゃん」


「いや、臭いとかベタベタするし…」


「なに、してほしくないの?」


「いや!してほしいです!して…ほしいっけどっ…」


太田さんの前でするのは恥ずかしい。

いくら彼が運転しているとしてもこの会話は聞こえているため恥ずかしいし恥ずかしい。

それに恥ずかしい。 


「別に太田がいてもいいじゃん、身内だし信頼できる人だし」


「そうっ…だけど…」


そういうことじゃないんだよ。

そういうことじゃないんだよ(二回目)。 


……ん?

「ていうか…さらっと俺の心読むの止めてよ」


「明斗くんのこと想い続けたら自然と分かるようになってきたの」


「そうやって、誤魔化しても無駄だからなっ!」


「(別に嘘じゃないんだけどなー)」


「な、なんだよ」


「別にぃー」



ここまで俺達の掛け合いを無言で聞いていたであろう太田さんが上品に笑い出した。


「ちょっ、太田さん…」


「いや、すみません…ふふっ吹き出しちゃって…ふふっ」


笑いながら謝られてもなぁ

「まぁいいんですけど…」



「紗希お嬢様は彩峰様と婚約してから感情表現が豊かになったと思いまして」


「ちょっ…それ明斗君に内緒のやつぅ!!」


へぇ、なかなかにこっちも気恥ずかしくなるような暴露をしてくれたじゃないか。

でも、この事実と今の彼女のジタバタして太田さんを非難している反応がかわいいからこのまま静かに居よう。


しばらくすると彼女は静かになったが、彼女は拗ねてその後一緒に寝るまでその状態が続いた。










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