第2話 同棲開始

荷物をまとめるとすぐに彼女の家へと向かうことになっている。だから俺はせっせと少ない私物ながらも必要なものを鞄に詰め込んでいた。


それにしても彼女の家か……。緊張する…


「違うでしょの家でしょ」


キュン。


グッときますねこれは。はっきり言って。


隣にいる彼女が俺の腕に抱きつきながら微笑みかけてくる。彼女のやや大きい胸が当たり、思春期男子である俺の肩はぶるぶると筋肉が緊張状態になったのか震えた。


「そうだった」


誤魔化すように言い、荷物を持って外に出る、迎えに来た高級車に積み込み俺たちも乗る。


「初めまして、彩峰様、私は冬野家の運転手を勤める太田といいます」


「初めまして、これからよろしくお願いしますね」


「はい」


嬉しそうに微笑むと太田さんは車を走らせる。


すると冬野さんが、俺の太ももをつねった。


「いてぇ!」


「むー、私にまだ向けていないような笑顔を太田にして…私が蚊帳の外みたいじゃない…」


よくわからない焼きもちを妬いているのを見て面白可愛かった。



❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇


「ねぇ、彩峰く…明斗あきとくん」


俺の名前を突然呼んできた。


「な、なに」


冬野さんは少し不満そうに頬を膨らませた。


「むー、勇気を振り絞って名前呼びしたのに返してくれないの?」


「……さ、紗希…さん」


「さんはいらない」


「はい…紗希」


「はい、明斗くん♡」


そういって俺にもたれ掛かってきた。

重くはないが美人が密着しているだなんて心臓に悪すぎる。

だから、離れてくれと言おうとしたが…


「むふー」


彼女の幸せそうな顔を見ると言う気になれなかった。


❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇


到着。

目の前にあったのは昨日までは自分とは無縁だったタワーマンション。

まさに高層。このままあの雲まで届きそうな迫力だ。


俺がおぉ…と面食らっている様子を見て、紗希はニヤッと笑った。


「これが、紗希が住んでいる家…」


「違うよ?今回の同棲のためにここの分譲マンションの一室を買ったの」


「はぇ……」


俺がこの2ヶ月やってきたことが全て無意味に感じる衝撃を受けた。

こんないかにも物理的にも金銭的にも高いマンションをそんな軽く…軽く…。

俺はあのボロアパートの家賃ですら厳しかったのに……。


「ど、どうしたの?そんなに落ち込んだ顔をして」


急にシュンとなった俺に紗希は驚いた顔をした。


「いや…俺の人生無駄ばかりだったと…」


「そ、そんなことないよ!確かに親にも金銭的にも恵まれなかったかもしれない…でも、そんなこと忘れちゃうぐらい私と充実した生活をしよ?ね?」


「う…うん…」


優しい…心に沁みる優しさだ…。


「どうしても…辛くなったら慰めてあげるし…」


「……慰めるって?」


頭撫でてくれるとか?膝枕とかかな?

ちょっと憧れるな…あとでしてもらおうかな…。


「体で♡」


「ブフゥッッッッ」


想像の2倍…100倍、それ以上の答えが返ってきた。


「あ、でもまだ高1だから、避妊具はつけないとね…私は今すぐにでも赤ちゃん作りたいけど、世間を気にするのならやっぱり、」


「ストップ、ストップ!とりあえずこんな道端で言うような事じゃないね」


なんとか抑えて、新居へと向かった。


❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇


なんとまさかの上層階。

リビングの大きな窓からのロケーションは抜群だ。少しの間見惚れていた。


「ここの部屋空いてるから好きに配置しちゃってね」


「オッケー」


「部屋にベッドとかないけど、寝室があるから気にしないでね」  


「オ、オッケー」


「分かってると思うけど一緒のベッドで寝るからね」

  

「………オッケー」


反抗しても無駄だと悟った。


諦めて自室とやらに私物を置こうではないか。

高級感のある扉を開けると、勉強机とか本棚とかの最低限の家具が配置されていた。


部屋は広く、俺の私物を置いてもなお、空きスペースがとんでもない程にある。


「なんか寂しい部屋だな」


まぁ、今のところはこれでいいかと思い、部屋を出た。


すると

「いい匂いだなー」

思わず呟いてしまうほどのいい匂いがした。

匂いの元を辿ればそこに紗希が立っていた。


「ふふ、でしょ?」


そして、俺に座るように催促した。


「時間がなかったからあまり手の込んだものは作れなかったけど…」


といい、俺の、前にオムライスが置かれた。


「おお!めちゃくちゃ美味しそう!」


紗希が座るのを待ってから食べ始めた。

紗希は「別に先に食べてても良かったのに…」と照れていた。可愛かった。


オムライスは見た目の通り、絶品であった。半熟でふわとろな食感だった。

これで手の込んだ料理ではないと紗希は言っていたが、俺が食べてきたご飯の中で一番美味しかった。


「ご馳走さまでした」


「お粗末さまでした」


❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇


「ごめんね、お皿洗い手伝ってもらって」


「絶品料理を食べさせてもらったお礼だよ、それにに家事を押し付けるのはナンセンスだし」


「明斗くん…\\」

彼女の頰を赤くして照れた顔を見ると俺も少し恥ずかしくなった。


❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇


リビングのソファで2人並んでテレビを眺めていた。

俺はテレビの画面を見ていたものの、隣の存在に気を取られ、内容は全く頭に入ってきていなかった。 


そう、当たり前のように腕を組んでくる紗希の存在だ。


ドキドキしちゃうじゃないか…と思っていると


「明斗くんって、さ」

紗希が話しかけてきたのだ。


「なに?」


「バスケ、またしたいと思わないの?」


「したい…けど、金がなかったから入れなかった」


「でも今は違うでしょ?」


「そうだね」


金の心配はないが…


「色々と払ってもらうことになるけどいいの?」


「うん、婚約した以上あなたは冬野家の人間だしね、第一私があなたのプレーを観たいだけなんだけどね//」


「そ、そうか」


次の日、俺は入部届を提出した。

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