親に捨てられたら、なぜか美人お嬢様に拾われ同棲することになった

キサラギ

第1話 捨てられる拾われる

俺は高校1年であるものの、青春とは程遠い生活をしていた。

学校が終われば即帰宅。そこからはバイト三昧。

土日祝日だろうが関係なく、働いてばかりの生活だ。

学費に食費、家賃に光熱費。

何かもを自分に何とかしなければならないのだ。


そう思っていると思い出したくもない記憶が蘇ってくる。


❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇


元々、両親の仲はそれほどいいものではなかった。

そして、世間一般的には毒親にあたるのだと思う。

小さい頃から虐待に近いことをされた。

殴る蹴るは当たり前暴言だって日常茶飯事。

唾だって吐きかけられるし真冬に氷水だってかけられる。

これが俺の幼少期の日常。

辛いというより痛かった。


俺が小学校高学年になってくれば、暴力されるということは少なくなったが、それでも両親はギャンブルか何かで負けた腹いせに俺を使ってストレス発散するのが主な行動だった。


そんな2人に嫌気がさしていたものの、腐っても親。我慢するほかなかった。



そして、俺が中学3年生のとき、両親は、離婚した。その数年前から愛想が尽きていた状態であったが、周囲の人たちに悪く思われないように俺が義務教育を終える直前まで待っていたらしい。


それから俺は母方に引き取られたが、それは形式上であり、実際卒業式の日に母は駆け落ちしどこかに消えた。


俺は高校に入学することが決まっていたし、したいことがある。

そのために高校は通いたい。


4月になると俺はバイトを始めた。

それから2ヶ月経って今だ。



正直言って辛い。

疲れは取れないし、部活だってしたい。

けれど…これしか方法がなかった。


俺は悔しさからくる怒りの感情を押し殺すかのように唇を噛み、バイト先へと向かった。


❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇


バイトが終わり、辺りは真っ暗闇になり唯一電灯の周りだけが明るく照らされ、そこには小さい虫たちが群がっている。


もう夏だな…と思いつつ、自宅のアパートへと歩く。



段々と自宅が見えてきていた。

すると同時に異変を感じた。


(俺の部屋の前に誰かいる!?)


影が俺の家の前にいるのだ。


近づくたびに警戒色を強めながら足音を立てないよう忍び足で近付く。

すると


「あ」


影が喋った。


「もー。遅いよー彩峰あやみね君」


そう言って俺の名前を呼んだのは俺と同じ高校である新山にいやま高校の1年生、冬野紗希ふゆのさきだった。

彼女は大企業の社長の娘でお嬢様だ。

そんな人がなんでこんなボロアパートにいるのだろうか。


「なぜ、ここに」


「え?あぁ…なぜいるのか、それは、」

「あなたを拾いにきたのですっ」


「は?」


❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇ ❇


胸を張りながら発せられたこの言葉の意味を理解することはできなかった。


何言ってんだ、こいつ。


と思ってしまった。


俺は捨て猫扱いですか?

全く…


「私は犬派だから、捨て犬のほうがポイント高いかも」


「あぁ、そうかーそれは残念…って、おいナチュラルに俺の心を読まないでください」


これは、完全に洗練されたエスパー。

最早本業といえる。


「とーにーかーく、詳しい話をしてあげるからよーく聞いてね」


「はぁ…」


こんなところで話すようなことじゃなさそうだし家に上げた。


「で?詳しく聞かせて」


「結論から言うと、あなたの生活を援助させてほしいの、勿論条件付きで」


「援助って?具体的に」 


「今必要なお金、学費とかはうちが負担する」


それだけを聞けば願ってもないことだが…。


「で?条件は?」


「私と同棲すること…//」


は…はい?


「え?」


「だから、その…つまり…婚約…ってこと」


んん?んんんんん?


「ごめん、脳みそが追いついていない」


「大丈夫、待つから答え…聞かせてね」


えーと、整理をしよう。

婚約が同居で同居が同棲で結婚で学費が同棲…。


ん?あれ?よくわかんなくなっちゃった☆


(まだ、慌てるような時間じゃない。)

とりあえず仙道くんのモノマネをして気を落ち着かせる。


仙道くんのモノマネをしていた俺の挙動を見て、冬野さんは首を傾け、なにそれと言わんばかりの表情をしながら

「答えは決まった?」

と、俺が結論を出したものだと受け取ったようだ。

スラムダンク読もうよ…。


「冬野さん、いくつか質問してもいい?ちゃんとした答えを出したい」


「いいよ」


「どうして条件が婚約なの?」


「それは…惚れたからだよ//」


「いや…高校生活始まって2ヶ月だし、違うクラスだし、惚れる要素なくない?」


「私は中学生の頃からあなたが好きだよ」


「え?でも違う中学校のはずじゃ…」


「彩峰くん、あなたは中学時代、バスケットボール部に所属していたよね?」


「うん、そうだけど…」


「その時、あなたのプレーを観て惚れたの…かっこよすぎて」



「お、おう…」


面と向かって言われたら照れるな…。


「それで試合後あなたを遠目から覗き見していたら…」


の、覗き見……


「とても優しくていい人柄であることが間違いないと思ってさらに好きが加速したわ」


好きが加速…初めて聞いたその言葉。



「だから、私はあなたの隣に寄り添いたい。お父さんも言ってたの、運命の人は必ず早いうちに自分のものにしろと」


「お、おう…」


なかなかにすごいことを言うお父さんだな…。



「聞きたいことは他にある?」


「特にないかな」  


「じゃあ…」


こういうときなんと返せば良いのか分からないがどうにかして言葉を紡いだ。

「とりあえず…なんというべきかな…これからよろしくお願いします…?かな」


「ってことは!?」


半分ガッツポーズをしながら興奮気味に言う冬野さん。


「OKってこと…かな。まぁでも俺は君のことをほとんど知らない、だから少しずつ距離を近づけていけたらな、って思う」


「そうだね、私の隅から隅まで知ってよね」


「もちろん」

ちょっと言い方に悪意あるけど…指摘はしないでおこう。


これが俺達2人の、変わった…変わりすぎている馴れ初めだ。

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