第4話 幼き幼初期の日々④

私自身あまり過去の事なんて物は振り返ったところで虚しい気持ちになるし何か変わるわけでも無いので、振り返らない人間だ。当然後悔や未練と言うものは無いが唯一心残りと言えばそれだけだろう。


そんな私の名前の由来を教えてくれた父とは長らくも会っていない。


と言うよりは会えないと言うのが正しい。


携帯の連絡先も変わってしまっていてもう連絡すら取れない。

あの頭のいかれた女との子供で、こんなひねくれた考えの娘なんて厄介ほかならないだろうし新しく人生を再出発する為にあの女もろとも関係を切ったほうが都合がよかったのだろう。

私だってそうする。


そんな父とはたくさんの思い出がありどれも楽しかった思い出ばかりだ。その中でも特に印象に残った思い出がある。

私が幼稚園に入るころ当時の父は少ない小遣いを捻出してとある小さな天体望遠鏡を買った。


小さいと言ってもこれがなかなかの高性能なもので、カセグレン反射式の親戚にあたるリッチーグレチアン式反射望遠鏡だ。


リッチーグレチアン反射式とは原理自体はレンズ式より単純で、違いとしてはレンズの代わりに二つの鏡を使うだけだ。


構造は私が好きなドーナツ型の主鏡(因みにドーナツはオールドファッションとポンデリングが私の大好物だ。思い出すだけでよだれが出るぐらい好きでちゃんと最後の晩餐として5個づつ合わせて10個食べて満腹だ)と反対に私が嫌いな生き物の英語表記であるスパイダーと言う(この体験の一年後手の甲にジョロウグモが落ちてきて「ギャー」と叫びひっくり返って失神した。今でも鮮明に覚えているだけあって見るだけで鳥肌が立つ。なおスパイダーマンの方は映画の旧3部作は全部DVDを持っているほど好きだ。最もリメイク版は2作目の最後でヒロインが死んだりと好きになれないが・・)

器具で固定した副鏡を使い光を屈折させることで小さいながらも非常に遠くまで映す技術だ。


一見単純だが実際にはとてつもないものでNASAが運用する宇宙から美しい星を撮るハッブル宇宙望遠鏡や、そんなハッブル宇宙望遠鏡をひっくり返して開口部に、小さな穴がいくつも開いたマスクをしたり(これは俗に開口マスキング干渉法の為である)大気の層により生じる歪み(ぼけ、専門用語ではシーングと呼ばれる)を補正する為に可変形鏡を通し大気の影響を受けにくい0.01秒ほどの撮影時間で複数回撮影した画像を複数組み合わせ鮮明な写真を作り出すイメージ・スタッキング法でデジタル補正を行う事で正確な数字は軍事機密だがだいたい高度150キロから軍事施設と言った建物の階段の段数や特定人物の大まかな体系まで鮮明にそして繊細に覗き見るNROが運用する偵察衛星、KH11ケナンやクリスタルにもこのリッチーグレチアン反射式望遠鏡の技術が使われているのだ。


そんなたいそうな技術を用いて作られた天体望遠鏡を夕方車に載せ、父と二人深夜車で山の麓まで行き


「美晴みてごらん、これが宇宙だよ」


と初めて天体望遠鏡を覗かせて貰ったときは思わず幼稚園児ながら感動し、その光景は暗闇の中ちりばめられた金銀、財宝がきらめきあい


―――世の中にはこんな綺麗なものがあるのかー――


と一瞬にして天体望遠鏡の虜になってしまったほどだ。


その影響で私は月に一度の父との天体観測が毎日の楽しみで後に進級する小学生の時はこの天体望遠を用いて6年間の夏休みの自由研究をかいた。


ハッブルからケナン、クリスタルを知ったのはこの時で新聞にこそ載りはしなかったが

「おめでとう、将来は素晴らしい学者になってね」

と当時私が住んでいた区の区長から表彰と共に言われたのは我ながら当時も今も私の自慢である

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急行列車の目の前で~ある死にゆく女性の数奇な回顧録~ 戸高一郎 @itiroo-todaka

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