第5話 人類を求めて
転移先を知的生物が存在する異世界にした。人間に限定しなかったのはエルフや獣人に会いたかったのもあるが、転移先を限定すればするほどポイント消費が高くなるからだ。戦闘スキルくらいないと自分の身も守れない。
今度の異世界ではすぐに人工物を見つけることができた。川で魚を捕る罠のようだ。近くに集落があるに違いない。生物感知スキルはもう使えないので、足跡をたどる。ようやく人に会える。ワクワクしながら歩いていき、集落で出会ったのは見たことも無い異形の怪物だった。逃げ惑うもの、何かを叫ぶもの、襲いかかってくるもの、様々だ。戦闘スキルはまだ取ってあるため苦戦することはなかった。人類より先に怪物に遭遇するとは運がない。不運を呪いながら、襲い来る怪物を殲滅した。誰も観てないところで活躍しても仕方ない。こういうのは王様やギルドに依頼されてからやらなくては。
しかし、これほどの怪物の集落がここにあるとなると、人類は近くにはいないだろう。人を求めて旅に出ることにした。空間飛翔スキルはもう使えないので歩きだ。旅に役立つスキルやアイテムも無いので、この集落で使えるものは頂くことにする。幸いにも食べられそうな野菜や魚、卵が見つかった。何とかなりそうだ。
人を求めての旅が始まった。何度もあの怪物に遭遇した。逃げる者は追わず、襲いかかるものは撃退した。食料が不足したら、奴らの集落から調達した。この辺りは奴らの集落が多く、食うに困らなかった。
しばらく旅を続けると、高い壁と塔のある、城塞都市を見つけた。あれはあの怪物共と戦う人類の前線基地なのだろう。期待を高めながら都市に向かって歩き続けた。
都市の入り口に着くと、石弾が飛んできた。警告もなく攻撃してくるとは、防護スキルが無かったら死んでいたところだ。敵ではないと説明せねば。
「敵意は無い。どうか話を聞いてくれ」日本語が通じないことくらい想定して意思疎通スキルを取ってあるので、伝わるはずだ。
「敵意は無い?我らの集落を襲っておいて何を言う」「怪物の言葉など聞くな!」「町に入れるな、全力で死守せよ!」
ああ、ここも怪物の棲み処だったか。仕方がない、力尽くで話を聞いて貰うとしよう。攻撃が止むまで奴らを倒し、生き残りを尋問した。
「本当に敵意は無いんだ、襲ってこなければ命は取らない。話を聞いてくれ」
「襲ってこなければだと?お前が我らの卵を食べたことは分かっているんだ!」
「食料を拝借したことは謝る。腹が減っていたんだ済まない」
「人食いの怪物め!」
「お前たちを殺したことはあっても、食べたりしてない」
「食べ跡を見つけた」
「それは俺じゃないよ」
意思疎通スキルが機能していないのか?どうにも話がかみ合わない。怪物に怪物と呼ばれるのは辛いものがあるが、これだけ姿形が違うのだから仕方のないことだ。しかし人食いというのはどういうことだ。もっと詳しく話を聞くことにした。
しばらく話してやっと分かった。「我らの卵」というのは「怪物が所有する卵」という意味ではなく「怪物が産んだ卵」という意味だったのだ。
おぞましいことをしてしまった、異形の怪物とはいえ言葉を解する生物を食べてしまったのだ。ん?言葉を解する生物?もしや……。
「俺のような姿のものを他に見たことはあるか?」
「無い。お前のような怪物はほかに見たことも聞いたこともない」
「お前たちのように言葉を話す種族は他に居るか?」
「居ない」
「ほかの土地にも居ないのか?」
「居ない。この大陸も、海の向こうの大陸にも我らだけだ」
人を求めて知的生物が存在する異世界に来たのに、その知的生物を殺し、食べてしまっていたのだ。
転移先の選択が高額だったため、時を戻すスキルは購入できていない。取り返しはつかない。もう終わりだ。
異世界には美少女どころか空気すらなかった @atfc
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