第16話:ただいま。

「おお、彩葉いろは無事だったか」


「博士、ただいま」


「君たちも、ご苦労だったね・・・ありがとう」

「みんな無事でなにより」


「とりあえず壊れたデータをやつらに送っておいてやったわ」

「向こうが気づくまでの間、少しは時間稼ぎにはなる」

皆藤かいとう君と彩葉はしばらくはここにいるといい」


「やつらがまた、いつ彩葉を誘拐しに来るかも知れん」

「ここは極秘の研究をしてるからグローバル社よりセキュリティーが硬い、


研究所内にいれば、やつらもおいそれとはイロハを取り戻しには来れんだろう」

「宿泊設備もあるし食堂もあるから外に出なくて済む」


「博士、いろいろご厄介おかけしてすいません」

「でも彩葉を救い出せたのがなによりです」


「そうだな・・・しかし今回のことも含めすべて、わしの責任だな」

「研究に没頭するあまりグローバルなんかに頼った・・・」

皆藤かいとう君にも迷惑をかけた、すまなかった」


「いいえ・・・でも」

「でも僕だってタブーを犯してしまいました」


「それは、まあ、今さらしかたなかろう・・・」

「彩葉が未成年なのは大目に見よう」

「わしは君の性格なら彩葉には手は出さんと思っていたんだが・・・」


「すいません・・・」


「謝らんでいいよ・・・君を責めてたりはしない、むしろ感謝してるよ」

「よく今日まで彩葉の面倒を見てくれた」

「それに君は研究所にいた時から人一倍彩葉には熱心だったからな」

「私はずっと君を見ていたよ・・・」


「君と彩葉が結ばれたのは自然の成り行きだろう」

「愛情を身につけた彩葉にはそれは理想的な出来事だったのかもしれない」


「わしは今では彩葉の相手が君でよかったと思ってる」

「彩葉に一番難しい愛情という感情を目覚めさせてくれたわけだからな・・・」

「彩葉の教育係りとしては合格点をやってもいいと思ってる」


「それに、やつらから彩葉を救い出してくれたしな」


「ありがとうございます」


「礼を言うのは、わしのほうだよ・・・ありがとう」

「ところでと・・・こちらの方々のことだが・・・」


「申し遅れました杜守もりすの兄です、よろしくです」

「こっちは俺のダチで、ムーンナイトって言います」


「おおこれは、これは・・・こう言う形で、かの有名なグッドナイト

さんとお目にかかれるとは・・・」


「ムーンナイトです、博士が寝てる時にしか私、動きませんからね」


「今回の件、兄貴とムーンナイトさんに協力してもらいました」

「実は兄貴は刑事でして・・・ムーンナイトさんは・・・」


「泥棒です」


すかさず兄がそう言った。


「違います、モデルです」


「分かりますよ、お綺麗な方だ、モデルさんで間違いないでしょうな」


「今回は、お二人にはご足労おかけしました、お礼を言わせてもらいます」

「ありがとうございました」

「あとで謝礼はさせていただきます」


「そんなものは俺にはいらないですよ、弟のためです」

「でもムーンナイトには払ってやってください」

「無理言って連れてきましたから」


「私も遠慮しときます」


「いやいや、タダ働きというのは良くない」

「それに謝礼を受け取っていただかなくては、わしの気が済まん」


「そこまで言うなら、遠慮なく」


博士は満足そうにうなづいた。


「じゃ、俺たちは帰るからな」

杜守もりす彩葉ちゃんにフられるなよ、こんな可愛い彼女、

二度と見つからねえぞ」


「分かってる・・・」

「いろいろありがとう」

「ムーンナイト・・・永遠ねえさんもありがとう」


「また今度、君の彼女を交えてダブルデートしようね」

「じゃあね」

「彩葉ちゃん、杜守もりすをよろしくね」


「はいっ」


「バイビー」


弟目線で言うなら今夜の俺は兄はめちゃかっこよく映ったはず

そしてムーンナイトも・・・。


それから一週間と経たないうちにクライム・グローバル社は5000億円と言う

資金横流しの疑いで検察の調査が入ったうえ、案の定社長の高崎に脱税の疑いが

浮上して税務署が家宅捜査に入った。


バイオロイドどころではなくなっていた。

こうして彩葉はクライム・ブローバル社からは解放された・・・。


もう誰からも干渉されない世界で唯一のバイオロイドになった。

そして彩葉のデータはデジタル上では破棄されすべては博士の頭の中に

だけ残った。


つづく。


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