第12話:別れ。
弟と彩葉との時間は残り一週間になった。
あと一週間で一年が来る。
長いようで短い一年だった。
たしかによく一年世間にバレずによく持ったもんだ・・・。
それでも俺と
彩葉はこれからどうなるんだろう?
研究所に連れ戻されるならまだしも、あのクライム・グローバル なんかに連れて
行かれたらどうなるか分かったもんじゃない。
連れていかれたらきっと、悪いことに利用されるに違いない。
彩葉を実験台にしてクローン人間を大量に生産して人間の代わりに
危険なことに利用されるとか? 未だに続く戦争・・・そのどこかの国の兵士として
利用されるとか?
飛躍しすぎてるかもしれない。
でも、それはあながち空想の世界ではないんだ。
とにかく彩葉はクライムにとってはドル箱た。
そんな美味しい話、ブラック企業が放っておくはずがない。
彩葉の存在が病気で苦しんでる誰かの命を救うならそれは革命的なことだ。
だが、世の中は得てして悪いことに利用されることのほうが多い。
監視下の中にあって弟と彩葉の会話は誰にも聞かれたくないものだった。
だから、重要な話をするときはトイレや風呂場で話したようだ。
「君のことが心配だ」
「私、これからどうなるの?」
「僕にも分からない・・・」
「もし君が研究所に帰っても、また会えると思うけど今までみたいに
話したりはできなくなると思う・・・」
「そんなの嫌だ」
「
「そんなことないよ」
「僕だって、君を失うと思うとおかしくなりそうだよ」
「ね、ふたりで逃げよう?」
「それは僕も考えたよ」
「でも、そんなことしても状況を悪くするだけだ」
「僕たちは見張られてるんだよ」
「あのホテルの件だって、知られてたし・・・」
「どこに逃げたってかならず捕まる」
「そんなことになったら僕たちは永久に会えなくなる」
「きっと彩葉を救う方法はある・・・焦ったら負けだ」
「考えるよ・・・」
「分かった、私、
「とにかく、今は博士にも逆らわないほうがいい」
そして、とうとうやってきた彩葉との別れの日。
最初マンションに送ってもらった時と同じ黒塗りの車がマンションの
前に止まった。
彩葉のお出迎えだった。
「嫌だ・・・嫌だよ・・・帰りたくない」
弟を信じて待ってると言った彩葉だったが、ここに来て駄々をこねた。
「イロハ我慢して、僕がなんとかするから」
「かならず迎えに行くから」
彩葉はSPらしき男に車に乗せられて泣きじゃくりながら研究所に戻っていった。
車が見えなくなっても弟はそこを動かなかった。
どのくらいの時間、そこにとどまっていただろう。
待っても彩葉は戻らない・・・弟はようやくマンションの部屋に戻った。
静まり返った部屋。
彼女のいなくなった部屋は、まるで空気が止まってるように感じた。
あんなに暖かかったのに・・・。
あんなに愛に満ち溢れてたのに・・・。
拭っても、拭っても涙は止めどなくこぼれ落ちた。
今は、何も考えられない・・・弟はただ悲しくて苦しいだけだった。
つづく。
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