第11話:そしてひとつになった。

弟と彩葉はホテルでの空白の1日から、すでに1ヶ月が過ぎていた。

ふたりがホテルにいた日、誰もいないマンションを監視していた人は

博士になんて報告したんだろう。


そして、いつも定期的に送られてくる食材の箱の中に一枚のメッセージが

入っていた。


「閉じこもっているのは、窮屈かもしれなんが、なるべく外出は 控えるように・・・それからホテルに未成年を連れ込むのは感心せんな・・・それと、

これは最初に言っておくべきだったが彩葉をあまり紫外線に当てないように 。

宮原」


と書いてあった。


杜守もりす・・・なにそれ?」


「博士からのメッセージ」


「なんて書いてあったの?」


「君をなるべく外に出すなって・・・君を紫外線に当てるなってさ・・・」


(でも、なんでラブホに入ったことまで知ってるんだ?)


「私は杜守もりすといられるなら、ずっとここにいてもいいよ・・・」


そう言って彩葉は嬉しそうに言ったあとで、急に悲しそうな顔をして・・・


「私たち、あと何ヶ月いっしょにいられるの?」


「あと残り三ヶ月・・・」


「三ヶ月したら杜守もりすとお別れなんだね」


ホテルでお互いの気持ちは分かった。

でも、なにもなかった・・・そのほうが弟たちにはよかったのかもしれない。

そしたらお互い傷つかなくて済む。


そんな思いを抱きつつ彩葉を見守りながらふたりに残された時間は

とうとう残り一ヶ月になった。


なるべくなら、弟は彼女を求めないように心がけたらしい。


それでも、この部屋には自分以外、彩葉しかいない。

思いが募れば募るほど、我慢にも限界がくる。

それは彩葉も同じ気持ちだったようだ。


彼女と結ばれることはタブーなのは分かっている。

でも、ここで自分に素直にならないと僕は一生後悔すると弟は思った。


恋人同士ならお互いの愛を確かめあうのが自然。

別れると分かっていてもだ・・・。


いや二度と会えないからこそ、残しておかなきゃいけないものもある。

それは自分と彩葉のふたりだけの素敵な思い出。


今更ふたりの気持ちは、誰に見られていようと関係なかった。

大切な彼女との営みは、トイレや風呂場で隠れてなんてできない。


ベッドのシーツに包まれたふたりはお互いを見つめ合っていた。

どちらからともなく顔を寄せ合って唇を重ねた。

最初はゆっくり・・・そして熱い抱擁と激しいキス。


「愛してる・・・杜守もりす


「僕もだよ」


「好きにして・・・私を愛して・・・」


監視されてることなんかもうどうでもよかった。

ふたりだけの静かな部屋・・・お互いの荒い息だけが部屋に響いた。

そして弟とイロハは別れることへの反動で、むさぼるように求め合った。

切なくて愛おしくて心が苦しい思いの中で結ばれたふたり。

喜びとはうらはらに心は悲しみに泣いていた。


彩葉・・・君をはじめて見た時ガラスケースに入った人形のように僕は

ただ君を見つめるだけで、それでよかった。


こんなふうに君に触れることができるなんて思いもしなかった。

これで、いいんだろうか。

君の処女を奪ってしまった僕は神から罰を受けるのだろうか・・・。

君のためなら、地獄に落ちたってかまいはしない。


君が死ぬほど愛おしい。


「私、幸せ・・・」


「君が幸せなら、僕も幸せだよ」


杜守もりすは最初っから私に優しかったね」

「私は、冷たい態度をとったし、わがままばかりだった・・・」


「君は僕のことを知らなかったからだよ」

「最初は誰だって警戒するでしょ、それが普通だよ」


「僕は最初に君を見たときから君に恋してた」

「本当は君のこと、好きになっちゃいけなかったんだけど・・・

我慢できなかった・・・」

「君は僕の手が届くような人じゃなかったからね」


「そんなことないよ・・・」


「いや僕と君では価値が違う」


「僕はただの学生・・・君は未来をになってる」

「僕はただの平凡な男だけど、君は世界を変えるたったひとりの人なんだよ」


「そんなの関係ない・・・」

「私は杜守もりすといっしょにいられたらそれでいい」


「自由になりたい・・・」


「彩葉・・・」


自由になりたい・・・それはイロハの切実な願いだった。

どうしようもないけど、せめて残り少ない日々を充実したものにしよう。

君の記憶に残るような、素敵な時間に・・・。


弟はそう思ったらしい。


それからのふたりは毎日にように求め合った。

もう監視カメラのことなど眼中になかった。


つづく。


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