第9話:風に舞う天使。

このまま一日中部屋にいたら、病んでしまいそうになる。

そういうのはあまりよくない。

環境を変えなきゃ・・・弟、杜守もりすはついに決心した。


弟は彩葉いろはを外に連れ出すことにした。

監視からはずれたら、研究所の誰かが追ってくるかもしれないと思ったが、

そんなこと心配してる次元じゃなかったらしい。

ときかく彩葉だけでも外に出さなきゃと思った。


当然彩葉をひとりで外に出すわけにはいかない。

彼女が日に当たるとあまりよくないから、フードつきのパーカーを着せた。

季節は冬に差し掛かろうとしていた。

真夏と違って日差しは穏やかだったのが幸いした。


弟は。ほんとに久しぶりに遊園地に行ったり、動物園に行ったりした。

まるで付き合ってるカップルのように彩葉と遊んだ。

昼食にハンバーガーを食べ、ガーデンテーブルでスイーツを食べた。


一番喜んだのは彩葉だった。

弟はこんなに笑った彩葉を見たのははじめてだったそうだ。

彼女は輝いていた。


風になびく白い髪、こぼれるような笑顔、子供のように無邪気な笑い声。

伏せめがちに自分、弟を見る瞳。


時には幼く、時には妖艶に・・・いろんな色を持った女。

それは彼女がアルピノだったせいもあった。

木漏れ日の中で、それはまるで風に舞う天使のようだった。


どこを取っても弟には完璧すぎる女性でしかなかった。

だから自分に心を開かない彩葉が弟にとっては切ない存在でしかなかった。


「あのね・・・私、杜守もりすさんのことなにも知らないでしょ」

「よかったら、あの・・・教えて?」


「俺のこと?」

「そうだな・・・名前は・・・」


「それは知ってる」


「じゃ〜現在大学ってところに通ってて彩葉のいた研究所に所属してて」

「現在、独身・・・彼女いない歴三年」

「で、家族は兄がひとり、姉がひとり・・・永遠さんは彩葉と一度会ってるから

知ってるよね」


「まあ、なにかに秀でてるわけでもなく普通にそこらへんにいるイケメン男子だよ」


「イケメンって・・・自分で言ってる」


「誰も言ってくれないからね・・・自分からアピールしてかないと・・・」


「そう・・・じゃ、お付き合いとかしてる女性はいないんだ」


「もし、そういう人がいたら、今ここに僕と彩葉はいないと思うよ」


「あ、そうか・・・だから杜守もりすさんが私の面倒見るよう選ばれたんだ」


「そういうことだね・・・さあ、そろそろ行こうか・・・」


弟たちはそれから半日たっぷり遊んでマンションに帰ろうと思っていた。

だが、昼過ぎからにわかに雲行きが怪しくなってとうとう雨が降り出した。


弟たちは雨の中、公園を早足で抜けて見つけた東屋で雨宿りをした。


「こんなに楽しかったのって、中学生以来です」


「そうか・・・記憶だね」

「君がバイオロイド「クローン」だってこと忘れてしまいそうだよ」


「私、そう言う呼ばれ方、あまり好きじゃないです」


「あ、ごめん、つい・・・」


「私、人間ですよね」


「そうだね・・・」


彼女が自分が特別な存在だって知ってしまってる・・・。

彩葉がバイオロイドだと意識しなければ、どこからどう見ても

それは普通の人間の女の子だ・・・でもやはり他の女の子とは違っていた。


「今日は楽しかったです」

「連れてきてくれてありがとうございました」


「あのさ・・・そろそろ、敬語やめないか? 」


「だって・・・杜守もりすさん私より4つも歳上ですよ」


「歳なんて関係ないよ」

「僕は彩葉と分け隔てなく友達になりたいんだ」


「友達・・・?」


「少しは僕に心開いてよ」


「開いてますよ・・・杜守もりすさんが気づいてないだけです」


「そうは見えないけど・・・」


「鈍い人ですね・・・もう私に近づかないでって言ってないでしょ?」


「たしかにそれはそうだけど・・・」

「まあ・・・それにしても一歩進むにはまずは言葉からね・・・」


「いいですけど・・・だいぶ慣れましたし・・・」


「いいけど・・・だいぶ慣れたし・・・ほら言って?」


「いいけど・・・だいぶ慣れたし・・・」


「それでいい」


つづく。


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