第5話:理想と現実のギャップ。

弟と彩葉いろはが新しいマンションに連れてこられたのは真夜中過ぎだった。

彩葉も弟も緊張感もあったりで疲れてたせいかその日はそのまま爆睡して

しまっていた。


彩葉と始まった弟の生活。

ところが人と接触したことがない彩葉は弟を敬遠した。

次の朝からその問題がはじまった。


「あの・・・皆藤さん?・・・私、あなたとここで一緒に暮らす

んですか?」


「そうだけど・・・博士に頼まれたからね」


「私の意志を無視して?」


「・・・しかたないだろ・・・こう言うことになったんだから」


「そうなんですけど・・・」

「なんで、他人同士で暮らすんですか?」


「なこと言ったって最初は誰だって他人同士でしょ?」

「付き合って、少しづつ仲良くなってくんじゃないの?」


「そうじゃなくて、なんで研究所以外で過ごすのか理由が分かりません」


「それは、君のことを誰にも知られないよう秘密にしておきたいからだろ」


「なんで秘密にしなきゃいけないんですか?」


「それはね、君が特別な存在だからだよ」

「なんで?って質問はなし・・・話出したら朝食食べられなくなるからね」


「分かりました・・・」


「さあ、顔洗っておいで・・・」


「あの・・・こんなこと初めてだし・・・だから私、全面的にあなたの

こと信用してるわけじゃないですからね」


「いいよ別に信用してくれたくったって」

「僕は一緒に暮らすんなら仲良くした方がいいって思ってるだけなんだけどね」


(なんだこの子は・・・理想と現実のギャップ酷くないか?・・・)

(勝手に甘い夢を描いた僕が悪いんだけど・・・)

(こんなことなら研究ブースで彩葉を見てるほうがよかったよ)


「僕といるのが嫌なら研究所の戻ってくれててもいいよ・・・」

「うまくいかないようなら言えって博士に言われてるし」

「僕はいっこうにかまわないから」


「そんなこと言ってないです・・・」

「あんな機械がいっぱいで狭いところに閉じ込められるのはイヤです」

「息苦しいもん」


「じゃ、ここにいるしかないね・・・イヤでも」

「僕が気に入らなくても」


「分かりました・・・でも1メートル以内に近寄らないでください」


「なんだって?」

「何言ってんの?・・・近寄るなって僕を汚いものみたいに・・・」

「いいよ近寄らないよ・・・1メートルじゃ近すぎるんじゃないか?」


「もういい・・・朝メシ作るから・・・」


「私、朝食はトーストとホットミルクでお願いします」

「それからパンにはバターとブルーベリージャムを・・・」


「ブルーベリー?、そんな洒落たものはないよ・・・バターだけで我慢しろ」


(自分で作れってんだ・・・)


冷蔵庫には今日のふたりぶんの食材が、ある程度は用意されていた。


「ところで君は、僕が寝てる間、寝てたんだろ?」


「寝てましたよ、私は人間と変わりませんから」

「違うのは体の中にナノマシンがいて体が常にベストな状態になるよう

チエックしてくれてるってことでしょうか」


「それ知ってる、これでも君の研究に関わってたんだからね」

「でもそのナノマシンの技術だけでも欲しがるヤツがいるな」


「そうなんですか・・・難しいことはよく分かりません」


「普通にしゃべってよ・・・敬語はいらないから」


「けいご?」


「ほら、です、とか、しません、とか、そう言うの?、いらない」

「タメグチでいいから・・」


「タメグチ?・・・タメグチってなんですか?」


「ああ、その・・・普通に親しくしゃべってってこと」


「知り合いでも友達でもないのに?・・・親しげに話すのは無理です」


「はいはい・・・もういいよ、そのままで」

「勝手にどうぞ・・・僕はもう余計なことは言わないから・・・」


(あ〜先が思いやられそう・・・)


な感じで、ちょっとわがまま傾向にある彩葉のせいで弟の前途は多難だった。


つづく。


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