第3話:杜守の思いもよらない出来事。

彩葉いろはが生まれて約一ヶ月あまり・・・ある日、杜守もりす、弟は宮原博士から呼び

出された。


弟のような研究生のはしくれが博士に呼び出されるなんて珍しいことだった。

悪いことばかり考えながら研究所へ行くと博士が待っていた。


「おう、皆藤くん・・・」

「そこに座ってくれたまえ」


気持ち良さそうな、ふかふかのソファに、言われるままに弟は座った。

博士は自分の机の椅子に座ったまま弟に言った。


「実は君に頼みがあってね、それで来てもらったんだか・・・」

「ちなみに君は今、付き合ってる女性はいるのかな?」


「いえ、いませんけど・・・」

(彼女どころか、ガールフレンドさえもう何年もいないよ・・・)


「そうか、それは好都合」


(彼女がいないのが好都合ってどういうことだよ・・・)


「彼女がいないことが、なにか問題でもあるんでしょうか?」


「いやいや、おらんことがベストだと言っているんだよ」


「これから話すことは、ここの一部の研究者と私と、それからこれから聞くで

あろう君だけだ・・・」

「単刀直入に言おう・・・」


「実は、君に彩葉いろはを君の個人的生活エリアで預かってほしいのだ」


「えっ・・・・・」


それは耳を疑うような言葉だった。


「え?・・・ああ・・・それって?え?ぼ、僕にですか?・・・彩葉いろはを?」

「ちょっと待ってください」

「え?それはどういうことでしょう?・・・」


彩葉いろははここで教育を受けさせてもいいんだが、この施設の環境の中に

いたのでは偏った教育しかできん」


「あの子は世間というものを、ほぼ知らない」

「ま、もとの細胞提供者は学生だったからな・・・」

「記憶も、その子のその時のままの状態で止まっている」


「だから君と一緒に生活をすることで社会に適合できる女性にしたい」


「どうだろうか?・・・と言うよりこれは決定事項なんだが・・・」


(決定事項?・・・僕の意見も無視して?・・・そんな勝手な・・・)


「他の研究生や研究員の人たちは承知してるんですか?」


「一応、みなで検討した結果だ」

「君以外の研究生は、すでに女性がいたり他の研究員はみな既婚者だしその他は

みな歳を食いすぎてる・・・」


彩葉いろはと釣り合う年齢といえば、君が一番適任というわけだな」

「それに、君は人畜無害そうだし・・・君の奥手な性格も考慮に入れた」


(奥手ってなんだよ、奥手って・・・僕のなにを知ってるって言うんだ)


「でも僕のマンションって、兄もいますし、姉もいます」

「いきなりマンションに彩葉いろはを連れて帰ったら、おおごとになります」


「心配いらん、それについては私の方ですでに手は打ってある」

「今日から君は新しい住居に彩葉いろはと移ることになるんだよ」

「君はそこで彩葉いろはと暮らして欲しい」


「そんな責任重大なこと、僕に任せていいんですか?」


「大丈夫だ、24時間体制で監視させてもらうからな・・・」


「まじですか・・・・全部見られるんですか?」


「見られてまずいことでもあるのかね?」


「そんなこと、ありませんよ」


「では、決まりだな・・・」

「承諾してくれるな・・・海藤君」


そしてこれから杜守は一年間大学も研究所も休学することになった。


突然のことで戸惑いはあったが彩葉いろはと暮らせると言うことに弟の心は踊った。


とりあえず一年間、彩葉いろはの面倒を見る。

一年間の生活費は研究所と博士がすべて、まかなってくれると言うことらしいので

食いっぱぐれはなさそうだった。


その夜、博士に大学の門の前に連れられてきた彩葉いろはは、高校の制服を

着ていた。

カムフラージュのつもりだろうか?

でも、彩葉いろははどこから見ても普通の女子高生だった。


「よろしくね、彩葉いろは・・・」


彩葉いろはは笑いもせず、愛想を振りまくでもなくたた弟をちらっと見ただけだった。

彩葉いろはが外に出るのは今夜が、はじめてのことで研究所から外にでることに

不安がっているようにも見えた。


「心配いらないから・・・大丈夫だからね」


「皆藤君、彩葉いろはには、君と暮らすことは話してある」

「最初は慣れない場所で戸惑うかもしれんが、君がうまくエスコートしてやって

くれ」


「どうしても彩葉いろはとうまくいかない時は言ってくれ」

「その時はちゃんと対処する・・・」


「分かりました・・・頑張ってみます」


すでに門の前には黒塗りの車が用意されていてSPみたいな男かふたりに誘導されるまま弟は彩葉いろはとふたり車に乗った。


杜守は博士の頼みを承知したが、これには何か裏があると思っていたらしい。


その理由は彩葉いろはが生まれる過程にあのクライム・グローバル社の存在が

背後にあったからだった。


つづく。

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