第3話:杜守の思いもよらない出来事。
出された。
弟のような研究生のはしくれが博士に呼び出されるなんて珍しいことだった。
悪いことばかり考えながら研究所へ行くと博士が待っていた。
「おう、皆藤くん・・・」
「そこに座ってくれたまえ」
気持ち良さそうな、ふかふかのソファに、言われるままに弟は座った。
博士は自分の机の椅子に座ったまま弟に言った。
「実は君に頼みがあってね、それで来てもらったんだか・・・」
「ちなみに君は今、付き合ってる女性はいるのかな?」
「いえ、いませんけど・・・」
(彼女どころか、ガールフレンドさえもう何年もいないよ・・・)
「そうか、それは好都合」
(彼女がいないのが好都合ってどういうことだよ・・・)
「彼女がいないことが、なにか問題でもあるんでしょうか?」
「いやいや、おらんことがベストだと言っているんだよ」
「これから話すことは、ここの一部の研究者と私と、それからこれから聞くで
あろう君だけだ・・・」
「単刀直入に言おう・・・」
「実は、君に
「えっ・・・・・」
それは耳を疑うような言葉だった。
「え?・・・ああ・・・それって?え?ぼ、僕にですか?・・・
「ちょっと待ってください」
「え?それはどういうことでしょう?・・・」
「
いたのでは偏った教育しかできん」
「あの子は世間というものを、ほぼ知らない」
「ま、もとの細胞提供者は学生だったからな・・・」
「記憶も、その子のその時のままの状態で止まっている」
「だから君と一緒に生活をすることで社会に適合できる女性にしたい」
「どうだろうか?・・・と言うよりこれは決定事項なんだが・・・」
(決定事項?・・・僕の意見も無視して?・・・そんな勝手な・・・)
「他の研究生や研究員の人たちは承知してるんですか?」
「一応、みなで検討した結果だ」
「君以外の研究生は、すでに女性がいたり他の研究員はみな既婚者だしその他は
みな歳を食いすぎてる・・・」
「
「それに、君は人畜無害そうだし・・・君の奥手な性格も考慮に入れた」
(奥手ってなんだよ、奥手って・・・僕のなにを知ってるって言うんだ)
「でも僕のマンションって、兄もいますし、姉もいます」
「いきなりマンションに
「心配いらん、それについては私の方ですでに手は打ってある」
「今日から君は新しい住居に
「君はそこで
「そんな責任重大なこと、僕に任せていいんですか?」
「大丈夫だ、24時間体制で監視させてもらうからな・・・」
「まじですか・・・・全部見られるんですか?」
「見られてまずいことでもあるのかね?」
「そんなこと、ありませんよ」
「では、決まりだな・・・」
「承諾してくれるな・・・海藤君」
そしてこれから杜守は一年間大学も研究所も休学することになった。
突然のことで戸惑いはあったが
とりあえず一年間、
一年間の生活費は研究所と博士がすべて、まかなってくれると言うことらしいので
食いっぱぐれはなさそうだった。
その夜、博士に大学の門の前に連れられてきた
着ていた。
カムフラージュのつもりだろうか?
でも、
「よろしくね、
不安がっているようにも見えた。
「心配いらないから・・・大丈夫だからね」
「皆藤君、
「最初は慣れない場所で戸惑うかもしれんが、君がうまくエスコートしてやって
くれ」
「どうしても
「その時はちゃんと対処する・・・」
「分かりました・・・頑張ってみます」
すでに門の前には黒塗りの車が用意されていてSPみたいな男かふたりに誘導されるまま弟は
杜守は博士の頼みを承知したが、これには何か裏があると思っていたらしい。
その理由は
背後にあったからだった。
つづく。
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