塔の冒険 3

 太陽の光をあびて、磨き抜かれた銀色の甲冑が輝いた。――それに剣。右手の剣は、これも滑らかに光り、周囲の石材や空や甲冑を映していた。


 兜の赤い光が、ぐるりとメイナを捉えたように見えた。すると騎士は向きを変え、いくらか歩速を上げて、またガチャガチャと歩んできた。


 メイナは後ずさり、鋸壁に背をぶつけた。冷たい感触が背中に伝わってきて、それによって凍りついてしまうかのようだった。


 迫りくる騎士は、強いて言えば昆虫のようだった。人間や獣のような、怒りなどの感情は読み取れない。カマキリが蝶を捕えるような、冷徹な動きだった。


 騎士は剣を振り上げ、それを振り下ろした。


 ひゅう、と風を切る音。メイナが両手に握った杖に衝撃が走る。杖が落ちた。手にはとしたしびれが残った。


「あ、あ。た、たすけて…………」


 メイナはまともに声が出せなかった。最後に、リティの顔が浮かんできた。せめて謝りたかったが、それも叶わないのだろう。



 ふたたび、目の前で剣が振り上げられた。と、太陽の光が剣に反射した。そこで、騎士は一瞬動きを止めた。にとっても、剣の輝きがまぶしかったのだろう。騎士は剣の角度を変えて、こんどこそ、剣を振り下ろしてきた。


「いやーッ!」


 そう叫び声をあげて、メイナは目をきつく閉じた。



 ――そのとき、金属音がした。


 メイナがおそるおそる目を開けると、騎士の背後に、剣を手にしたリティが立っていた。


 リティは歯を食いしばり、重そうに剣を振りかぶると、騎士の背中に斬りつけた。


 鈍い金属音がひびくものの、しかし相手はびくともせず、リティへと振り返った。


「リティー!」


 そうメイナは大声を上げた。


 リティはよろめきながら、剣を両手で難儀そうに持ち上げて、一瞬だけメイナを見た。


「バカ。もう……。どうするのよ、これ」





 しばらく前のことだ。


 リティは塔の近くの岩に寄りかかり、開かれた扉を見ていた。


 メイナが向こう見ずにらせん階段を登っていってしまってから、いったんは外に出た。


『……あたしってさ、便利だから、利用されてるの?』


 その言葉が、心の中でわだかまっていた。


 リティは「そんなことないよ」とつぶやく。


 メイナの魔法には助けられるし、ありがたいと思っている。けれど、それは『利用する』とはちがうはずだ。


 そんなことを考えているとき、急に塔の内部から、甲高い音が聞こえてきた。


 キィィィーン…………


 不快な、脳に突き刺さるような音だった。


 すると、塔の扉の向こうで物音がした。それは、金属がぶつかるような音だった。


 リティは息をひそめて扉へと近づいた。入り口からの光でかろうじて塔の一階は見渡せた。


 するとそこに、階段を登っていく騎士の背中が見えた。それに、手には直剣を握っていた。


 リティは腰をかがめて奥に進んで、壁にかかった剣をとった。それから、間隔をあけて鎧を追っていった。


 屋上の扉が開いているおかげで光が洩れてきており、特に塔の上のほうが明るかった。目も慣れてきたこともあり、リティはらせん階段を登っていった。


(あの甲冑の中に、だれかがいるの? それとも魔法かなにかで動いているの? 塔の屋上が開いたことと、連動しているの? ……わからない)


 そんなことを考えながらではあった。階段の途中で攻撃を仕掛けることも考えたが、反撃を受けたときにあまりに危険だとも思い、屋上までついていくことにした。

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