塔の冒険 2
塔の中央は吹き抜けになっており、内周に沿ってらせん階段が続く。心細い、低い手すりから下を見ると、薄暗い塔の内部が見下ろせた。塔の入り口は開いていて、そこから一階に光が射しこんでいた。
かびくさい空気の中、メイナは杖の灯りを頼りにらせん階段を登っていった。
目がまわりそうだ。それに周囲の暗い光景は気味が悪かったが、そのほかはたいしたことがない感じがした。灯りの動きにあわせて、周囲の階段や柱や手すりの陰影も、ゆらゆらと動いた。
やがて屋上の光が近づいてきた。――光は、分厚い木製の扉から漏れてきていた。
扉にはかんぬきの横木がかけられ、それによって閉ざされていた。メイナは足をほぐしてから、杖を壁に立てかけて、横木を両手でつかんだ。
「おりゃー!」
と、横木を持ち上げると、扉の横に投げ捨てた。
「なんともなし!」
そう勝ち誇ったように言ってから、メイナは分厚い扉へ体重をかけて、押し開いていった。重たい音を立てて、扉は外へ開いてゆく。光が大きくなり、しまいに青空が見えた。
そのとき、妙な甲高い音がした。
キィィーーン……
メイナはおどろいて振り返ったが、音がしたこと以外、変わったことはなかった。
「え、ちょっと、なに? なんだよー。怖いんだけど……」
そうぼやきながらも、メイナは気を取り直して、扉を通り屋上へ出た。
そこには、青空が広がっていた。秋のいわし雲がまばらに浮かび、太陽は中天に輝いていた。鮮烈な空気を吸いこむと、喉や胸が心地よい冷たさに満たされた。
そのとき、硬質な音がした。
金属がぶつかるような耳障りな音が、いましがた出てきた塔の扉の向こうから、ひびいてきたような……。
メイナはおどろいて、暗幕のような暗闇の中へ戻っていった。塔の内部を見おろすと、らせん階段の下の方に闇が続いていた。
その闇の中から、金属質な音がひびいてくる。
「なによ! なんだよもう!」
音は近づいてきているようだった。
そこでメイナは、らせん階段の、屋上からひと周り下のあたりに、金属の輝きを見つけた。
人の形をした銀色の金属の塊――それは、一階に飾ってあった甲冑のようだった。
全身は鎧でおおわれ、顔や頭も兜によってすっぽりと隠されていた。また、手には直剣が握られていた。中に人が入っている可能性もあったが、なんらかの魔法によって動いていると見るのが自然そうだ。
兜の中の眼窩には、赤い光が宿っていた。
その騎士は規則正しく体を動かし、ガシャガシャと騒々しい音をたて、らせん階段を登ってきている。そのペースなら、一、二分で屋上に至るだろう。
メイナはうろたえながらも、ふたたび屋上の扉から外へ出た。たゆまず硬質な音が追ってくる。
塔の屋上は円形をしており、直径五メートル程度だ。へりにはでこぼこの
しかしいまや、怪物に追い詰められつつある、救いのない袋小路に違いない。
メイナはバックパックを降ろし、口を開けて、なにか使えそうな道具がないかを調べた。
薬草、干し葡萄、食器、櫛、下着。それからナイフもあったが、たいして役に立つとは思えない。まだ、杖でも振り回した方がマシだろう。
ふたたび、壁の隙間から下を見下ろす。遠い地面を見て、目がくらくらとした。一瞬、飛び降りることも考えたが、さすがに無理がある。
そうこうしているうちに、騎士の足音が扉の向こうに迫ってきた。メイナは杖を両手に構え、固唾を飲んでそちらをにらんだ。
ガシャン、と銀色の足甲が白日のもとにあらわれる。
そこには、兜に赤く禍々しい光を灯らせた、騎士の姿があった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます