冷めたコーヒー
涼
あなたと最後の喫茶店で
11月も半ばを過ぎて、風も冷たくなった午後の事。俺は、彼女との待ち合わせ場所の喫茶店へ向かっていた――……。
「……ケンちゃん、コーヒー冷めてるよ」
「あ……うん」
ごくん。
(
俺は、浮気者だった。それでも、
「私が一番なんだよね?じゃあ、許してあげる」
そう言って、俺を許してくれていた。朱羽子の口癖だった。
「私が一番なら、浮気してもいいよ」
それを、本気にするバカが、一体どこいるだろう?
ここに、いた。
でも、そんな俺に、泣き言も、怒る事も、朱羽子はしなかった。
甘えた。
そんな事を繰り返して、五年が過ぎた。朱羽子は疲れ切っていた。
「離さないでね」
ぽつりと、朱羽子が言った。最後の朱羽子の優しさだと思った。顔が見られなくて、窓に目をやると、泣きそうな笑顔がそこにあった。
朱羽子が幸せになれるなら、僕は喜んで、この手を離そう。
でも、今日が今日を終えるまで、君の優しさに触れていたい――……。
冷めたコーヒー 涼 @m-amiya
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