第六話 傷
「そうなんだ」
空返事しかできない。
「絶対、彼女も俺のことが好きだと思う」
幼馴染は続けて言う。
「最近良く目が会うし、俺がいると嬉しそうに笑ってる気がする。だからさ、君の携帯で彼女に好きな人いるのかとか、ヒント貰ってよ」
言葉が口から出てこない。
彼は放心状態の僕から携帯を取り、彼女宛にメールを始めた。
「ねぇ、返して」
「いいじゃん。彼女のこと好きなの?ムキになるってことは」
僕は、黙った。
彼はニヤケながらメールの返信に反応した。
「好きな人いるって。」
「お、やっぱり同じクラスの人が好きなんだって。」
「身長は彼女より高い人だってよ」
彼は喜んでいた。彼と僕はクラスも同じで背丈も一緒くらいだ。
まだ、彼女が僕のことを好きなのであれば特徴は一致する。
「やっぱり彼女、俺のこと好きだよね。ありがと、帰ろ」
公園から帰る時にはすっかり暗くなっていた。遊びなれた場所のはずなのに、とても不気味な空間に感じた。
翌日から、彼と彼女がクラスで話している姿をよく見かけた。面白くない気がして保健室に逃げた。
『今日も保健室に行ってたね。体調大丈夫?』
彼女から心配のメールが来てた。僕はそれが嬉しかったがそっけない返事しかできなかった。
彼女の誕生日の前日、僕は彼女にプレゼントを買った。喜ぶ顔を見たくて選ぶのに丸一日かかった。
彼女の誕生会、僕は塾を休めず、誕生日会の参加は途中参加、途中退出することにした。途中参加なのになぜか幼馴染から「一緒に行こう」と言われ、彼と彼女の誕生日会に向かった。
誕生日プレゼントを渡したら喜んでくれるかな。なんてドキドキしながらインターホンを押した。彼女の友達が出た。そのまま家に入ると、彼女達は庭で遊んでいた。彼女と目があった。
隣にいる彼は嬉しそうに言った。
「やっぱり彼女、俺のこと好きだわ。俺が来てめっちゃテンションがあがってるもん」
確かに彼女は僕達が来てはしゃいでいるように見えた。彼のいう通りなのだろうか。彼の顔を見る。彼はカッコよく、運動もできる上に勉強もできる。
僕は、眩しい幼馴染から目をそらす。逸らした先には鏡があった。鏡にはかっこいい彼の顔と今にも泣きそうな情けない僕の顔があった。
僕は、塾があると言い帰った。
その後、塾での勉強は全く身が入らなかった。帰りは、すごく荷物が重く感じた。
――あぁそうか、プレゼント渡せなかったのか。
この日は寝付きが悪かった。何度も魘され、寝不足のまま学校に行った。二度寝もできなかったので早く教室についた。
「おはよー。ぎりぎりじゃないの珍しいね」
昨日、誕生会に参加していた友達が話しかけてきた。
「本気を出せばこんなもんよ」
「そういえば、昨日の夜なんで来なかったの?」
「なんのこと?」
友人曰く、誕生日会は夕飯前に一度終わり、夜に再び集まり星を見に行ったらしい。友達は僕が夜には塾が終わることを知っていたので誘おうとしたが、「俺が誘っておくよ」と幼馴染が言ったそうだ。
友人は楽しそうに話した。星を見るのに男女一組ずつに別れ、自然にいい雰囲気になったそうだ。そこからカップルもできたらしい。友人は「俺はそういうものに縁がないからあぶれた組でリア充どもを揶揄ってたわ」と笑っていた。
放課後、僕は幼馴染になんで誘わなかったかを聞いた。
「忘れてた」
それだけの返答だった。彼は続けて言った。
「昨日の夜さ彼女といい感じだったんよ。だから、最後の頼みがあるんだけどさ、告白したいから彼女を公園に呼び出してくれない?」
「自分で呼べばいいじゃん」
「本当にお願い。一生に一度のお願いだから。」
もう呆れてどうでもよくなった僕は、その言葉に頷いた。
頷いてしまった。
「呼び出すのは土曜の夕方にお願い!あと誰が呼んでるか伏せて欲しい」
言われた通りメールした。
『土曜の夕方暇?17:00に公園に来て欲しい』
『どうしたの突然?暇だよー」
可愛らしい絵文字がついていた。
そして、当日なぜか僕も幼馴染について行くことになった。
公園に近づくと既に彼女が待っていた。
彼は僕に見える所で待っといてと言ってきた。僕は首を傾げながらも、言う通りにした。
彼女と目があった。彼女は僕の顔を見て悲しそうな顔をした。
彼は自転車を止め、彼女の方に向かって行った。
二人が話し始めている。僕の心はどう思っているのか、もはやわからなかった。ただ、僕は彼女に告白を断って欲しかった。そう思ってた時――
「よっしゃー!」
公園に響く声で彼が叫んだ。僕は、悟った。彼女は告白を受け入れたのだと。
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