第五話 縮まる距離

『君は誰?』

 お土産の存在を思い出し、机に向かった。袋の中にはクッキーとキーホルダーが入っていた。


 またメールが返って来た。


『わかんないの?昔はあんなに話したのに』

 メールは彼女からと確信した。


『なんでアドレス知ってるの?』


『友達から教えてもらった!ごめんね。勝手に聞いて。それよりお土産食べてくれた?』

 落ち込んでいた気持ちが嘘のように消え、気がつけばクッキーに手が伸びていた。


 久しぶりに味があるものを食べた。


『すごく美味しいよ。キーホルダーもありがとね』


『それなら良かった。体調は大丈夫?』

 その日は、夜遅くまで彼女とメールをした。気づけばクッキーはなくなり、学校に行きたくないという気持ちもなくなった。


 僕は単純なのだろか。彼女とのメールで元気になり、キーホルダーを筆箱につけた。


 登校したら彼女がこっちに向かって手を振って来た。僕も振り返した。口パクでお礼を言ったら彼女は笑顔を浮かべ席に座った。


 彼女の繋がりがあるだけで嬉しかった。

授業中、隣の席から手紙を渡された。その手紙に書かれた文字は間違いなく彼女の字だった。


『キーホルダー筆箱につけてくれたんだ』

『そうだよ。気に入った。褒めてつかわす』

『なにそれ笑、上から目線だなー。ってか授業全くわかんないんだけど笑』

『ほんとそれな。全然わかんない』

 こんなやり取りを何往復もした。


 けれど、まだ彼女と直接話せてない。メールと手紙のやり取りしかしていないのだ。二年ぶりに直接話すのは気まずく、未だ謝れずにいた。


 そのような状態で半年近くが過ぎ、彼女の誕生日が近づいてきた。そんな時に彼女の友達から「誕生日会を開くから私の家に来なよ」と誘われた。


 その日は塾があったが、「合間を縫ってでも行くよ」と返事をした。


「それ、俺も行っていい?」

 僕と同じマンションに住む、幼馴染も会話に参加してきた。


 この日の帰り道、幼馴染に話があると言われた。

 僕達はマンションの近くの公園に向かった。ブランコに座り、幼馴染は恥ずかしそうな顔をしながらも真剣な声で僕に話をした。


「俺、彼女のことが好きなんだ。だから、協力して欲しい」

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