孤立と大人

あの電話から生活で変わったことがいくつかあった。


まず、あれほどウザく絡んできた麗子を初めとしたクラスのみんなが私と一切喋らなくなった。いじめもなくなったし、元々仲良く話す人もいなかったので、これは私にとって大幅にプラスだった。


次に私の人を見る目。


私が麗子を殴った時、宝山親子だけでなく同級生まで私の敵になった。


振り返ってみればこれまでの学校生活でいじめられている私の味方になってくれる人はいなかったのもあって、私は軽い人間不信になり、子供ながら達観した視点を持つようになった。


最後に、フワフワとした夢から一転、明確な夢が決まった。中学を卒業したらすぐに働いて、女手一つで私のことを育ててくれる、味方してくれる母のことを早く楽にしてあげたい。負担をかけたくない。という明確な夢を持った。




そんな小学校時代を送った私は地元の公立の中学校へ進んだ。周りもあまり変わらないような面子で、新鮮味のない人間関係だった。


ちなみに宝山麗子も何故か同じ公立中学に通っている。聞きかじった情報だと中学受験を面倒くさがったらしい。宝山のお山の大将精神は変わっておらず、小学校同じだった面子だけでなく、中学校から一緒になった人まで宝山の言いなりだった。まるで悪徳宗教みたいだった。


私はその宗教を宝山イズムと名付けることにした。結構いいネーミングセンスじゃない?


まぁ、そんなわけで宝山から嫌われている私は1人だった。でもそんなの気にならなかった。


放課後、資格のための本を学校で一番リラックス出来る屋上で読んでいたところ、


「あーんちゃん!」


「…。」


さて、この私の読者タイムを邪魔したのは大瀬 光。私とは他クラス、麗子と同じクラスだが、この学校で数少ない宝山イズムにハマっていないやつ。ただ、正直、変人。ちなみに下の名前は鞄に書いてあったのでわかった。


ただ、私みたいに宝山イズムから仲間外れにされているのではなく、宝山イズムの人とも普通に喋り、おそらく、宝山から接触禁止人物に指定されているであろう私にも関係なく話してくる。おそらく「みんな友達」みたいな頭お花畑な人なんだろう。


さらに細目で奥の両目は黒がうっすらと見えるレベル。目開けた時に裏切るタイプのキャラだ。うん。信用できない。


「無視しないでよ、あんちゃん!」


「…私はあんず。あんでは無い。」


「だーかーらー、あんずのあんをとってあんちゃん!かわいいあだ名だと思わない?」


「いや、まったく?」


ハァ。ウザったらしい。私は無駄な人間関係を築くつもりはさらさらないので早く散って欲しい。


しかし、そんな願いは届かず、その後もガヤガヤする大瀬。


「大瀬くん!屋上にいたの?」


辟易としていたところに現れたのはえーと、下山と花塚だっけ?とにかく同級生の女子が来た。言わずもがな宝山イズム信仰者。


「一緒に帰ろうよ!てかその子って…ゲッ、木下?なんでそんな子と喋ってんの?早く帰ろうよ。」


「…うん!わかった!またねあんちゃん!」


ナイスだ!佐藤御一行!その後の無礼は許す!とにかく、私からその大瀬を引き離してくれてありがとう!


「ねぇ!大瀬くんのご両親って、弁護士なんでしょ!?」


「え〜、どっから聞いてきたの?そんなこと…ま、そうなんだけどね。」


「キャー!かっこいい!私ね!最近『リー〇ルハイ』にハマっているの……」


だんだん遠ざかっていく佐藤御一行と大瀬。


…さて、私もそろそろ帰りますか。



私は誰もいない家に着いた。最近ママと会ってない。ママは私が寝た後に帰ってきて私が起きる頃には既に外出している。時に帰ってこない時もある。


そんなママの姿を見て、私は心が苦しくなる。それと同時に早く楽をさせてあげなきゃという使命感に駆られる。いつも通りご飯を作って、食べて、お風呂に入って、その後、資格を取るための勉強。そして寝る。この生活にも大分慣れた。


ルーティンが終わり、寝ようと私の部屋に戻りふっと棚の上に目をやる。そこには小さな熊の人形があった。レミちゃんだ。懐かしい幼稚園の思い出が蘇る。


そんなことを考えながら寝てしまったからだろうか、幼稚園の頃の夢を見た。腹話術ができるようになった辺りからの夢だった。



「コウくん!そろそろ教室に戻る時間だよ!」


「わかった!先生!またね!あんちゃん!」


先生に呼ばれてコウくんは行ってしまった。私は家に帰ってママにすぐ今日のことを話した。


「レミちゃん使ってお友達ができた!」


「へー。どんな子?」


「えーと、コウくん!ふくわじゅつって魔法で使えるの!」


「え?腹話術?幼稚園児が?」


ママは驚いていた。たぶん、魔法を使えるお友達が出来たからだろう。


「私もできるよ!ほら!『おつかれ!おかあさん!』。」


「すごいねぇ!レミちゃんがほんとに喋ってるみたいだ。」


「あとねあとね、目が片方赤いんだよ!かっこいいでしょ!」


「す、すごい癖が強い子ね…。どんな子と仲良くなっちゃったのよ。まったく。なんだっけ?コウくん?コウくんのお母さんとも仲良くしとこうかしら?」


「ほんと!?やったー!」


「ふふふ。」


久しぶりに楽しい夢だった。今頃コウくんどうしてるのかな。でも、楽しい時間は長くは続かない。けたたましい目覚ましの音で目を覚ます。少し名残惜しく思いながら、いつも通り朝ごはんを作って食べて支度をして出かける。


少し、あの夢が名残惜しくなったからレミちゃんを胸ポケットに入れて出かけた。


やっぱりママはいなかった。でも、スマホに


『あんずへ

久しぶりに明日休みが取れそうだよ!

ママより』


とメッセージがあった。リアルも捨てたものでは無い。



学校へ行くと、見慣れないトラックとその業者がすごく大きな荷物を運んでいた。何があったんだろうかと思ったらその答えは近くを通った男子たちの会話が教えてくれた。


「なあ。このトラックなんだ?」


「ん?あぁ、宝山さんが関係していて、俺も宝山さんも陸上部なんだけど、昨日の部活動中、棒高跳びやってる時に宝山さんが「もっとふかふかマットがいいですわ!」って言ってそのまま持ってこさせたんだぞ。」


「あぁ。宝山か。それなら納得だわ。」


「あの人、棒高跳び選んだ時「私が一番高く飛ぶべきですわ。」って言って棒高跳びの選手になっているんだわ。」


「はぁ。なんだそのビッグマウス。宝山だかなんだか知らんが…」


「おい!俺の父さん宝山さんの会社にいるんだぞ。父さんの仕事が無くなると困る。」


「おっと。それはすまない。」


…宝山の仕業か。昔の怨恨もあって、一気に興味が冷めた。


早く教室に行こっと。

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