魅力を感じない訳では無いけど

「よ、よし、ここまで来たら、取り敢えずは大丈夫かな」


 そう呟いて、俺は後ろを着いてきていたイリーゼの方を振り向いた。

 すると、全く息を切らすことなく、何かを期待したような目で俺を見てくるイリーゼがそこにはいた。


「……お兄様」


 なんでそんな目を……あれ? まさかとは思うけど、俺のせい、か? 

 さっき俺はイリーゼに告白まがい……いや、告白をした。

 そして、イリーゼからも好きだという気持ちを受け取った。

 そんな状況で、いきなり人気のないところに俺はイリーゼを連れ込んだ。……いやいやいや、まさかそんなわけない、よな。


「い、イリーゼ? あれ、だぞ? 一応言っておくが、何もしない、からな?」


 勘違いだったらめちゃくちゃ恥ずかしいんだけど、それでも、俺はそう言った。


「……しないの、ですか?」


「……するわけないだろ」


「そう、ですか……」


 場所……もそうだけど、俺はまだ頭が追いついてないんだよ。

 イリーゼがそういう意味で俺を好きだとかいうことにさ。


「取り敢えず、もう決闘は終わったんだし、帰ろうか」


「は、はい。分かりました。家を出る準備をするのですか?」


 家を出る準備……? いや、なんでそんなことをする必要があるんだ? 

 もしかして、さっき俺が負けたら当主になれない、みたいなことを言ったからか? ……確かに、それを言い訳にして家を出るのは悪くないかもな。

 父様なら、どうせ俺が家を出たところで上手くやるだろうとは思うからな。

 ……苦労はするだろうけど、それも自分で引き取ったくせにイリーゼを大切にしなかった罰だと思えば、俺の心も痛まないし。

 強いて言うのなら、俺もイリーゼをいじめていた癖に、何も罰がないことに少し心が痛むが。


「しないよ」


 そんなことを内心で考えたりもしたけど、流石にそれはまずいと思って、一言そう言った。

 

「どうしてですか? お兄様は、もう当主になりたいわけではないのでしょう?」


「……それは、そうなんだけど、今まで育ててもらった恩とか、色々あるだろ」


「私はありませんけど」


 ……うん。そうだな。イリーゼは無いな。


「わ、悪い」


 言ってはいけないことを言ってしまったと思った俺は、直ぐに謝罪をした。

 ちゃんとそこまで頭を回すべきだったな。


「? どうしてお兄様が謝るんですか? お兄様は関係ない……どころか、私の全てですよ?」


 心底不思議そうに、イリーゼはそう言ってきた。

 いや、そんな顔をしたいのは俺の方だぞ。

 なんで俺なんかがイリーゼの全てなんだよ。意味がわからなすぎる。


「そ、うか。……ま、まぁ、取り敢えず、帰るぞ」


「……はい、分かりました」


 まぁそれでも、イリーゼが言っていたことに魅力を感じないわけではないんだけどさ。

 

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