不味いに決まってる
「好き、だよ。俺も、イリーゼが好きだよ」
そうして、俺は言ってしまった。絶対に口にしてはいけないと思っていた気持ちを。
すると、俺の言葉を聞いたイリーゼは一気に笑顔になって、俺に抱きついてきた。
「……は?」
そんな様子を見ていたフェリシアンから何か情けない声が聞こえてきた気がするけど、それを無視しながら、俺の方からもイリーゼを抱きしめた。
本当にいいのか? と迷いを少し残しながらも。
「……イリーゼ、本当にいい、のか?」
そんな迷いがあるからこそ、幸せそうに俺の腕の中にいるイリーゼに向かって俺はそう聞いた。
「何がですか? お兄様」
「……俺なんかでいいのかってことだよ」
「? 何を言っているんですか? お兄様だからいいんですよ! 私にはお兄様しかいません! お兄様以外となんて、有り得ません!」
俺に抱きついてくる力を強くしながら、イリーゼはそう言ってきた。
「ま、待つんだイリーゼ、そいつはイリーゼをいじめていた相手なんだぞ?!」
そしてそんなイリーゼに続けるようにして、今度は未だに回復魔法をかけてもらっているフェリシアンがそう言ってきた。
俺も全くの同意見だよ、フェリシアン。
イリーゼは俺でいい……というか、俺しかありえないみたいなことを言ってくれてるけど、フェリシアンが言っている通り、俺はイリーゼをいじめていた相手なんだよ。
「え?」
それが俺の声だったのか、フェリシアンの声だったのかは分からない。
ただ、お互いに動揺していることは間違いないと思う。
だって、イリーゼの魔力が膨れ上がったかと思うと、フェリシアンの体が顔を除いて凍らされたんだから。
「あ、あの、イリーゼは、フェリシアン様の火傷を冷やすためにやったんだと思い、ますよ?」
内心で動揺しつつも、俺は直ぐにイリーゼのしてしまったことをフォローするようにそう言った。
俺は決闘の最中だったからともかく、今イリーゼがフェリシアンにそんなことをするのはどう考えても不味いだろう。
「ほ、ほら、イリーゼからも何か言うんだ」
「何をですか?」
「し、謝罪……じゃなくても、俺が言ったことに合わせてくれ。な? イリーゼなら分かるだろ?」
「……あれが悪いんですよ。それに、もうお兄様は当主にはなれないんでしょう? でしたら、尚更問題ありません」
……俺、一人っ子だし、結局当主を継ぐことになりそうだけど、仮に当主になれないんだとしたら、尚更問題があるだろう。俺の立場がフェリシアンより更に下になるってことだぞ? 不味いに決まってる。
「そんなことより、早く行きましょう、お兄様」
「申し訳ありません、フェリシアン様」
そう思いつつも、イリーゼに謝る気がないことを理解した俺は、そう言ってイリーゼと一緒にその場を離れた。
このままここにいるより、絶対離れた方がいいと思ったからだ。
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