どうしよう
イリーゼが言っていた家を出るということが頭から離れないまま、家が見えてきてしまった。
……どうせ父様はもう俺が大勢の前で決闘に負けたことは知っているはずだ。
イリーゼとはここで別れておくか。母様も待ってるかもだし、イリーゼは会いたくないだろうからな。
「イリーゼは部屋に戻っておけ。俺はちょっと今日の決闘について話さないといけないことがあるからさ」
「……分かりました。私はいつでもこんな家、出られますからね、お兄様」
「……ありがとな、イリーゼ」
流石に家を出る気は無い……と思うけど、イリーゼが俺を気遣って言ってくれた言葉には違いないだろうから、俺は礼を言って、そのまま家の中に入った。
すると、俺を待ち構えていたかのようにメイドがそこには居た。
「ユーリ様、奥様と旦那様がお待ちです。こちらへどうぞ」
「……あぁ」
予想してたことではあるけど、一体どこから情報を仕入れたんだろうな。
俺が決闘に負けたのなんて、ついさっきの事だぞ。
……まぁ、俺が決めつけているだけで、案外決闘の結果がどうだったのかを聞こうとしてきてるだけの可能性は一応あるけどさ。
「ユーリ様をお連れ致しました」
そんなことを内心で思いつつも、俺は黙ってそのメイドの後を着いて行った。
そして、一つの部屋の前に着いたメイドは、扉をノックしながらそう言っていた。
「ユーリだけ入りなさい」
「はい、失礼します」
メイドが俺に頭を下げて部屋の前から離れたことを確認してから、俺はそう言って部屋の中に入った。
「ユーリ、今回の件、お前は一体どうするつもりだ?」
すると、父様がそう聞いてきた。
いつもの俺に対する柔らかい声色じゃない。少しこわばったような声色だ。
怒っている、というより、どうしたらいいのか、という感情がそこからは伝わってきた。
「あなた、少し待ってくれるかしら?」
「え? あ、あぁ、構わない」
俺が何か言葉を言わないと、と思い、何かを言おうとしたところで、母様が父様にそう言って、俺の目を見てきた。
「ユーリ、そのミサンガは一体どういうこと? 私はちゃんと付ける場所を変えるように言ったわよね? それなのに何故、ミサンガが左足首に付いたままなの?」
そういえば、そんなこと、言われてたな。
決闘の件はもちろんとして、他にも色々あったから、すっかり忘れてた。
「一度は母様に言われた通り、付ける場所を変えたのですが、やはりここが一番しっくりくると思い、元に戻しました。何か母様の気に触ったのなら、申し訳ありません」
そう思いつつも、このまま何も言わないとなにかやましい事があるのだと思われてしまうから、俺は咄嗟に頭の中に思い浮かんだ言い訳を言葉にした。
「……はぁ。この間、私が説明しなかったのも悪いわね。……ユーリ、ミサンガを左足首に付けるっていうのはね、簡単に言うと、恋人や将来を約束した相手がいるって意味なのよ」
恋人や将来を約束した相手……?
「これは誰かとお揃いで付けている時に限る話だから、ユーリの場合は問題ないのだけど、勝手な想像をする輩はどこにでもいるのよ? それはわかるでしょ?」
「え、えぇ、まぁ、はい」
どうしよう。母様の話が全く頭に入ってこない。
まさかとは思うけど、イリーゼが頑なにミサンガを付ける位置を左足首でお揃いにしたがっていた理由はこれ、なのか?
少し前の俺なら、何を馬鹿なことを、と首を横に振っていたような考えだ。
ただ、今の俺は違う。
だって、ついさっき、イリーゼに愛していると言われ、俺も好きだと告白してしまっているからだ。
正直、どこか、心のどこかでまだそんなの嘘だと疑っていたのかもしれない。
ただ、今の母様の話を聞いてそんな疑いは晴れてしまった。
イリーゼが本当は俺の事を好きじゃなかったんだとしたら、ここまで手の込んだことなんてしないと思うから。
……どうしよう。そう思うと、もう本当にイリーゼと一緒に家を出たくなってきてしまった。
父様や母様には必ず迷惑をかけるだろう。
そんな親不孝なことをしてでも、イリーゼと幸せになりたいという気持ちが俺の中に現れてしまっていた。
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