……は?

「……どう、なった?」 


 一応、満身創痍であってもフェリシアンが立っていた場合に備えて魔力を少し残し、俺も動けるようにはしてある。

 だから、立っていたとしても平気だ。……ただ、上手く守られていたのなら、もう魔力をほぼ使い切った魔法を使えない俺ではどう頑張っても勝てない。


 そんな思考をしているうちに、視界が晴れてきた。

 

「……動くな、もう限界だろう。大人しく降伏しろ」


 痛々しく火傷した皮膚を露出させながら、フェリシアンは何とか立ったままそう言ってきた。

 よく見ると、顔も火傷を負っているようだ。

 回復魔法で後で治せるとはいえ、あんな怪我を置いながら全く動揺を見せないのは流石に凄いな。


「……」


 そう思いながらも、俺が動き出そうとしたところで、足が凍らされた。

 ……これは、無理だな。もう魔法を使えるような魔力は残ってないし、この氷を溶かすことが出来ない。つまり、終わりだ。


「参った」


 内心でそう考えた俺は、一言、そう言った。

 俺はほぼ無傷でフェリシアンは火傷だらけ。普通に考えれば、どう考えても俺が勝っているであろう場面だというのに、魔法を使える魔力が無い以上、俺の負けだ。

 ……気楽に戦ったことは間違いないんだが、本気で戦った以上、普通に悔しい。


 フェリシアンが勝ったことにより湧き上がる歓声を後ろに、そんなことを思っていると、俺の足を凍らせていた氷が割れるのと同時に、フェリシアンがその場に倒れた。

 それを見て、もう少しギブアップをするのが遅かったら俺が勝っていたのか? とも思ったけど、降伏を促してきていた時の雰囲気を考えるに、そんなことは無いだろうと考えて、俺はこの場から離れることにした。


 フェリシアンのことはマロウさんが何とかしてくれるだろうから、当然無視して。

 フェリシアンも嫌っている俺に気を使われるのは嫌だろうしな。

 ……と言うか、今更だけど、不思議な構図だよな。

 勝ったフェリシアンが倒れて、負けた俺が普通に歩いているなんて。


「……ま、て」


 そうして、フェリシアンに背を向けて歩き出したところで、後ろからそんな声が聞こえてきた。

 フェリシアンの声だ。

 気絶、してなかったのか。


「ちゃんと、やくそくを、守ってもらうぞ」


「……分かってますよ」


 後でちゃんと約束は守ろうと思っていたんだが、フェリシアンに念を押されてしまった。

 これは、今約束を守れと言っているのか? 俺は別に今でもいいけど。


「お兄様! 大丈夫ですか!? 怪我は無いですか!?」


 イリーゼは俺の体が大丈夫なのかを確認するようにペタペタと触ってきた。

 いや、どう考えても俺より先に心配するべき人間がいるだろう。パッと見でそれくらい分かるはずだ。


「俺は大丈夫だから、フェリシアン様の方を心配してやってくれ」


 フェリシアンはイリーゼの為に戦ったようなものなんだからな。


「? あっ、そんなことよりお兄様、体が大丈夫なのでしたら、先程それが言っていた約束とはなんのことでしょうか」


 ……もう俺は何も言わない方がいいのかな? フェリシアンも倒れてるし、多分聞こえてないもんな。うん。そういうことにしておこう。


「えっと、約束、だったか? ……あー、それはな──」


「そいつが、罪を告白するという約束だ」


 俺がイリーゼに説明しようとすると、フェリシアンが俺の言葉に被せるようにしてそう言ってきた。

 

「……罪? お兄様、何かしたんですか?」


 イリーゼは小首を傾げながら、そう聞いてきた。

 ……なんでイリーゼが分からないんだよ。


「そいつが! イリーゼをいじめていたという罪の話だよ!」


 ここぞとばかりに火傷で体が痛むだろうに、声を荒らげてフェリシアンはそう言ってきた。


「???」


「お兄様、これは何を言っているんですか?」


「え、な、何って……そのまんま、だと思うぞ?」


 さっきも思ったけど、なんでイリーゼが分からないんだよ。


「そ、そうですよ、フェリシアン様、一体何を仰られているのですか?」


 そう思っていると、今度はマロウさんがフェリシアンに回復魔法をかけながら、心底不思議そうな顔でそう聞いてきた。

 いや、なんで?


「ユーリ様とイリーゼ様は愛し合っているんですよ? そんなわけないじゃないですか」


「「……は?」」


 そんな訳の分からないマロウさんの答えに、俺とフェリシアンの声が重なった。

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