一か八か

「さっきのを見て、近づかせるわけないだろう!」


 フェリシアンは怒鳴るようにそう言って、自分の身を守るように俺とフェリシアンの目の前を氷の壁で覆ってきた。ご丁寧に俺の方だけ尖った感じにして。

 分かってたことだが、何も無いところから一瞬でこんな氷の壁を作るのか。

 こんなことをされたら、イリーゼとフェリシアン、どっちが強いのかが気になるな。

 才能で言えば確実にイリーゼが上だって断言できるんだけどな。

 フェリシアンは小さい頃から魔法の教育を受けていただろうけど、イリーゼは違うんだから。


「溶けない……?」


 つい余計なことを考えてしまうな、と思い首を横に振りながらも、最初の目的通りフェリシアンに接近するために目の前の氷の壁を溶かそうと炎魔法を使ったんだけど、少し溶けるだけで完全には溶けなかった。

 ……俺の炎魔法の火力が足りないのか? それとも、何か細工がある? ……ダメだ。分からない。

 こんなことなら、イリーゼに色々と聞いておくべきだったな。


 まぁいい。

 溶けないのなら、溶けるまで燃やしてやるだけだ。

 そう思うのと同時に、向こうからもこっちは見えていないはずなのに、まるで俺の位置が完璧に分かっているかのようにピンポイントに俺の足場を凍らせてきやがった。

 これくらいは簡単に溶かせるが、結局、目の前の氷の壁を溶かさない限り、意味が無い。

 それこそフェリシアンがさっき言ってたように魔力が尽きて終わるだけだ。

 ここでジリ貧になるくらいなら、一気に魔力を使ってでも、燃やし尽くしてみるか? 

 いや、危険すぎるし、どうせ対応される。仮にやるとしたら、完全に不意をつける時じゃないと意味が無い。


 ただ、そんなことを言っていたって俺は勝てない。

 あれ? 俺、めちゃくちゃピンチじゃないか?


 いや、落ち着け。氷は確実に溶けていってはいるんだ。

 フェリシアン側の氷が溶けた時、溶けた氷を使って直ぐに俺の水魔法で不意を打てば、ダメージを与えられるはずだ。


 そう思っていると、そんな俺の考えが見透かされたのか、せっかく溶けかけていた氷の壁が更に氷で覆われた。

 ……これ、やっぱりもう一か八かで魔力を全部使う気で炎魔法を使うしかないんじゃないのか?

 対応されるのが見えてたとしても、それ込みで仕掛けるしかない気がする。

 そうしないと、勝てない。


「最大火力」


 そう呟いて、俺は魔力を全て使い切る気で自分の体を中心に結界の中全てを覆うように炎でいっぱいにした。

 ……正直、自分でも驚きだ。

 魔力を全部使う気で魔法を打ったことなんて無かったからな。どうなるかの想像なんてついていなかった。まさか結界の中全てを炎で覆えるなんてな。


 氷が一気に溶けていっている。

 流石に熱くて、氷の壁があったフェリシアンがいるであろう方向には近づけないがフェリシアンはもっと熱いはずだ。

 そう思って、俺は炎魔法を使い続けた。


 

 

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