意図してたわけじゃないけど

「二人とも、準備はよろしいですか?」


 マロウさんが俺とフェリシアンにそう聞いてきたから、俺は無言で頷いた。

 すると、フェリシアンは対抗するようにして、俺と同じように無言で頷いてきた。


「それでは、始め!」


 それと同時に、マロウさんはそう言って、観客たちに被害が出ないように俺たちの周りに結界を張ってくれた。


 いきなり始まったな。

 ……いや、準備はいいかってちゃんと聞かれてたし、そんなこともないのか? 

 

「……」


 そんな割とどうでもいいことを考えていると、フェリシアンはいきなり俺の足を含めて、足場を凍りつかせてきた。

 ……フェリシアンも氷魔法が得意なのかよ。

 意図してた訳じゃないけど、炎魔法を覚えておいて良かったな。


「これで終わ──」


 フェリシアンが何かを言い切る前に、俺は自分の体を中心として真っ赤な炎を出した。

 少し前、イリーゼに部屋を凍らされたことがあった。

 その時、もしも自分事凍らされていたらと考えると、ゾッとした。

 だからこそ、そういう場面に出くわした時にどうにかできるように、色々と考えた結果、単純に自分事燃やしてしまえばいいと思ったからこそ出来上がった技だ。

 別に痛くは無い。炎魔法を身につけることによって、炎魔法に対する耐性も習得してるからな。


「……お前、いつの間に炎魔法なんて覚えたんだ」


 フェリシアンは驚いたようにそう言ってきた。

 あれ、もしかしてだけど、俺とは違ってフェリシアンは決闘相手の……俺の得意魔法をちゃんと把握してたのか?


 そう思いながらも、また不意打ちを食らう訳にはいかないから、俺は氷が溶けたことによって出来上がった水を得意な水魔法で結界の外に出した。

 あれを攻撃に使ったところで、また凍らされるだけだろうからな。


「チッ、まぁいい。お前の魔力が尽きるまで、凍らせてやるだけだ!」


「その前にこっちが終わらせてあげますよ」


 立場が上の相手とはいえ、今は決闘の最中。

 これくらいの煽り、許してくれるだろうと思って、俺はそう言った。

 そしてそのまま、また凍らされないように炎をいつでも出せるように意識しながら、俺はフェリシアンに向かって走り出した。

 フェリシアンは俺の氷魔法からの抜け出し方を見ていたんだ。近づきさえすれば、さっきみたいに凍らせてくることはないだろう。自分事燃やされることを危惧するはずだからな。

 俺も殺してしまうのはヤバいけど、フェリシアンだって殺される可能性があるようなことはしてこないはず。

 そして近づいて氷魔法を使わせないようにさえすれば、俺の得意な水魔法が使える。

 そうなれば、俺の勝ちだ。

 そこまで勝ちにこだわってる訳じゃないけど、応援してくれている人が少しでもいる以上、頑張らないとだからな。

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