前日

 そうして魔法の練習をしながらも、いつも通り過ごしていると、あっという間に決闘の前日の日になってしまった。

 あれからは特にイリーゼに抱きしめられることもなく、平和に過ごせたと思う。

 フェリシアンに絡まれることもなかったしな。


「お兄様、遂に明日、ですね……」


「……そうだな。……イリーゼも来るのか?」


 今更なんだけど、イリーゼも来るんだとしたら、普通に俺が決闘をすることがバレて、あの時嘘をついていたことまでバレるじゃないか。


「はい、もちろん応援をしに行きます」


「……い、いや、別にそんなに無理して応援に行く必要は無いんじゃないか? イリーゼだって忙しいだろうし、誰と誰が決闘をするのかも分からないんだろう?」


 イリーゼにだけは来て欲しくないから、何とか色々と頭を回した結果、俺はそう言った。

 

「お兄様のこと以上に優先すべきことなどあるわけがないので、絶対に行きます」


 ……イリーゼは決闘をするのは俺じゃない他の誰かって思ってるはず……だよな? あれ、もしかして、本当は気がついてるんじゃ……

 ま、まさかそんなわけないか。もしも気がついてるんだとしたら、それを言わない理由が無いからな。


「イリーゼ、まるで俺が決闘に出るみたいな言い方をしてるが、俺が出るわけじゃないからな? 本当にイリーゼが行く意味なんて無いんだぞ?」


「……大丈夫です。絶対に行きます」


「そ、そうか」


 どうしよう。

 どうしたら、イリーゼを決闘の場所に来させないようにできるんだよ。

 この前みたいに明日もデートをしようとか言って、決闘の場所とは違う場所にイリーゼを行かせるか? ……一時的には大丈夫かもだけど、それじゃあドタキャンすることが確定事項すぎてダメだな。そんなことをしたら後々の関係に響く。


「お兄様、気楽に頑張ってくださいね」


 ……これ、やっぱりバレてないか? 

 言われるまでもなく気楽にやるつもりではあったんだけど、普通、俺が決闘をするって知ってないと、そんな言葉出てこないもんな。


「……なんのことかは全く分からないけど、ありがとな、イリーゼ」


「はいっ」


 俺が決闘をするってことがバレてるのがほぼ確定してしまったから、俺はもう開き直ってそう言った。開き直ったと言っても、目を逸らしながら、だけど。

 バレてしまっている以上、下手に誤魔化して印象を悪くする方がやばいと思ったからだ。

 今更ではあるけど、正直に話したことでイリーゼも嬉しそうにしているし、これで良かったのかな。


「お兄様、隣、座ってもいいですか?」


「……あぁ、好きにしたらいいけど、まだ何か用か?」


「用がなかったら、お兄様の隣に座ることもダメなのですか?」


「え、いや、そういう訳じゃないけど……」


「でしたら、お隣、失礼しますね」


 イリーゼはそう言って体をかなり密着させてきながら、隣に座ってきた。

 ……え? 別にいいんだけど、本当に何も喋らないのか?


「い、イリーゼ?」


「はい、どうか致しましたか? お兄様」


「……い、いや、なんでもないよ」


 ま、まぁ、イリーゼがいいのなら、別にいい、のか。

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