普通のはずなのに

 あれからまた少し時間が経って、マロウさんが家にやってきた。

 相変わらず、俺は決闘の日時を知らない。


「お久しぶりです、マロウさん」


「は、はい。久しぶりです、ユーリ様」


「……? えっと、何か?」


 マロウさんが何も言わずにジロジロと見てくるものだから、思わず、俺はそう聞いてしまっていた。

 早く使えるようになった炎魔法を見せてくれって視線か? とも思ったけど、仮にそうなのなら、口で言えばいいだけだし、違うんだと思う。


「あっ、も、申し訳ありません」


「いえ、大丈夫ですよ。ただ、なにか用があったのでは?」


「は、はい。その……ユーリ様は決闘をするん、ですよね?」


 マロウさんの耳にもその話が入ってるのかよ。

 ……いや、待てよ? よく考えてみれば、フェリシアンの手紙には宮廷魔法使いの一人が見届け人として来てくれる、みたいなことが書いてあったはずだ。

 正直、宮廷魔法使いがたかが学生同士の決闘に興味を示すなんて思えない。

 ただ、目の前にいる宮廷魔法使いなら別だ。この人はかなりの変わり者だからな。


「……そうですけど、それがどうかしたんですか?」


 仮にマロウさんが見届け人なんだとしても、何が言いたいのかが全く分からなかったから、俺はそう聞いた。


「私がその決闘の見届け人なんです」


 あ、やっぱりそうなのか。

 

「それで、その、決闘があるから、私に魔法を教えて欲しかったんですか? あっ、仮にそうだったとしても、全然大丈夫なんですけどね」


「全然違いますね。決闘もいきなり決まったことでしたし」


 決闘の為にマロウさんに魔法を教わろうとしていたんだとしたら、得意魔法と真逆の炎魔法なんて教わろうとしてないしな。

 俺、フェリシアンの得意な魔法とか知らないし。

 一応同じクラスで一緒に授業を受けている中ではあるけど、俺嫌われてるし、あんまり視線を向けないようにしてたんだよ。だから全く知らない。


「そ、そうなんですか?」


「そうですよ」


「そうなのですか。……あっ、私はもちろんユーリ様を応援していますよ! 私の弟子、ですしね」


 突然だな。

 まぁ、それでも、嬉しいことには変わりない。


「ありがとうございます、マロウさん」


「は、はい。それでは、早速使えるようになった炎魔法を見せてもらって大丈夫ですか?」


「もちろんですよ」


 そうして、俺はマロウさんと一緒に外に出た。

 正直言えば、外に出る時になんだかんだいつもみたいにイリーゼと出会うと思っていたんだけど、そんなことはなかった。

 ……別に妹が近くに居ないことくらい普通のはずなのに、このモヤモヤ? はなんだ?


「ユーリ様?」


「えっ? あぁ、今から、使いますね。炎魔法」


 まぁいいか。

 今はそんなことより、使えるようになった炎魔法をマロウさんに見せることの方が重要だ。

 そう思って、言葉通り、俺は使えるようになった炎魔法を使った。


「凄いですね。疑っていた訳では無いのですが、本当に7日で石の補助無しで得意魔法とは反対の炎魔法を使えるようになってるんですか」


 まぁ、今は違うけど、少し前までは命がかかってたからな。

 そりゃ、死ぬ気で頑張ったよ。

 ……炎魔法を使えるようになったの、俺の命を狙ってくるイリーゼと仲直りした後だけど。




 そんなこんなで、マロウさんに色々と炎魔法を教えて貰っていると、もう辺りは真っ暗になっていた。


「それでは、そろそろ帰りますね。今度は決闘の日に」


「あ、はい。今日はありがとうございました」


 マロウさんに礼を言って、見送りをしていると、俺はまた大事なことを聞いていなかったことを思い出した。

 

「お兄様、決闘、とはなんのことですか?」


 今からなら追いかければ間に合うと思って、マロウさんの後を追おうとしたところで、突然空気が変わったかと思うのと同時に、後ろからそんな声が聞こえてきた。

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