イリーゼだったら……

「そういうわけです、父様。ただ薬物をやっている者かもしれませんが、一応と思いまして、報告に来ました」


 イリーゼとのデート? から帰った後、俺は父様にさっき起こったことを報告していた。


「うむ、報告ご苦労だった、ユーリ」


「では、私はそろそろ失礼させていただきますね」


 報告も終わったし、さっさと父様の目の前から立ち去ろうとした俺だが、父様に「待て」と一言言われてしまい、足を止めざる終えなかった。


「なんでしょうか」


「マルシェ家の長男と決闘をすることになったようだな」


「……そうみたいですね」


 やっぱり、父様の耳にも入ってたのか。

 ……父様の耳にも入ってるってことは、マジで逃げられないっぽいな。


「何故そんなことになっているんだ?」


「フェリシアン様の勘違いから、ですかね」


「……勘違い? 勘違いであるのなら、その勘違いを解こうとはしなかったのか?」


「フェリシアン様は思い込みが激しい方ですので」


「ふむ、そうか。ユーリがそう言うのならば、そうなのだろう」


 ……正直、怒られると思ってたんだけど、とことん俺に甘いな。

 ……その甘さを少しでも、イリーゼに向けてくれていたら、この決闘も起きなかったと思うんだけどな。


「話がそれだけでしたら、今度こそ、私は失礼させていただきますね」


 内心でそんなことを思いながらも、一切そのことを表情に出すことなく、俺はそう言った。

 そしてそのまま、部屋を出た。

 今度は呼び止められなかったな。

 と言うか、やっぱり父様には何も気が付かれなかったな。俺が思ってたこと。

 ……これがイリーゼだったら、なんか、絶対に気が付かれていたと思う。

 別に根拠は無いんだけど、謎の信頼があるんだよな。


「……あ」


 そうして、自分の部屋に戻ったところで、俺は思わずといった感じでそんな声を出した。

 そういえば、父様も決闘のことを知っていたんだから、いつ決闘があるのかを聞いておけば良かったな。

 俺、いつ決闘があるのか知らないし。フェリシアンが手紙に日時を書いてなかったせいで。


「はぁ。もういいや」


 わざわざそれだけのためにまた父様のところに行って、そのことだけを聞く気にはならなかったし、俺はそう呟いてマロウさんに貰った赤い石を取り出した。

 そして、それを持ったまま、外に出た。

 もう少しでまたマロウさんが来る日だし、そろそろ完璧に炎魔法を使えるようになっておかないとな。

 よく分からんけど、決闘も多分近いだろうし。


 ……イリーゼは決闘のことを知らない。

 出来ればイリーゼにはこのまま知られたくないな。心配させたくないし。

 俺の……俺たちのせいなんだけど、今だけは、イリーゼに友達がいないことを喜べるな。もしも友達がいたら、絶対決闘のことが話題に出てただろうしな。


 そんなことを考えながらも、ちゃんと集中して石を使って炎の魔法を使っていると、何か、いつもとは違う気がした。

 何が違うのかを明確に言葉にして言える訳では無い。

 それでも、何かが違う気がしたんだ。


「マジか。出来たぞ」


 そう思った俺は、マロウさんに貰った石を手放して、炎魔法を使った。

 すると、びっくりするくらい簡単に……それこそ、俺の得意な水魔法を使う時のように手から炎が出ていた。

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