手紙……?

 少し喋ったりもしていたからか、イリーゼが弁当を食べ終わる頃にはもうちょうどいい時間になっていた。


「イリーゼ、教室まで送っていくぞ」


「はい、ありがとうございます、お兄様。大好きです」


「あぁ、俺も大……え?」


 待て、今、イリーゼはなんて言った? 俺がよく聞いていなかっただけか?


「お兄様?」


「あ、あぁ、いや、なんでもない」


「そうですか? では、行きましょうか、お兄様」


 やっぱり気のせい、かな。俺の聞き間違いだったとしても、兄妹としてって意味ではあるんだろうけど、今あんなことを言う意味が分からないし。


「それじゃあ、また後でな、イリーゼ」


「はい、お兄様」


 イリーゼを教室に送り終わった俺は、またフェリシアンに絡まれないように時間ギリギリに調整して、教室に帰った。

 そのおかげなのか、結局、その日はもうフェリシアンに絡まれることは無かった。




 それから三日が経った。

 

「ユーリ様」


 部屋でのんびりと過ごしていると、突然扉がノックされて、扉越しにメイドが俺の名前を呼んできた。

 ……俺が呼んでもないのにメイドの方から話しかけてくるなんて、何かあったのか? まさか父様か母様からの呼び出しか?


「入っていいぞ。何か用か?」


 そんなことを内心で思って、嫌だなぁと思いつつも、表には一切出すことはせず、俺はそう言った。


「はい、こちらをどうぞ。マルシェ公爵家様のフェリシアン様より、ユーリ様宛のお手紙です」


 その言葉を聞いた瞬間、手紙を受け取ろうと出していた右腕を一気に引いた。

 なにそれ。めっちゃ読みたくないんだけど。


「……確かに、受け取った。もう出て行っていいぞ」


「はい、失礼します」


 正直、まだ内容は見てないけど、絶対顔をしかめることになるだろうから、手紙を受け取った俺はさっさとメイドに退出してもらった。


「はぁ。読みたくないけど、読むか」


 そうして、俺は本当に嫌々ながらもペーパーナイフで封を破り、手紙を開いた。

 

【ユーリ、お前に決闘を申し込む】


 よし、見なかったことにしようか。

 俺はメイドに手紙を渡されたんだ。果たし状を渡された覚えは無い。

 

【俺が勝った時には、お前の罪を告白してもらう】


 そんなことを思いつつも、続きがあったから、つい、目を向けてしまった。

 ……はぁ。実際、マジでどうしようかな。

 俺より賢いイリーゼにでも相談するか? イリーゼなら、なにかいい案を出してくれるかもだし。


「……ダメか」


 今考えたことを俺はすぐに否定した。

 イリーゼを頼るのは無しだ。

 結局、元を辿れば、俺がイリーゼをいじめていた事が問題なんだからな。仲直りをしたとはいえ、イリーゼを頼るなんて、できるはずがない。


【お前が逃げられないように、この手紙が届く頃にはもう既に決闘の件は広がっている。宮廷魔法使いの一人にも、決闘を見届けてもらう話をつけてある。逃げられると思うなよ】


 それに、この手紙を読むに、逃げられないみたいだしな。

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