妥協のつもりは無いんだけど
「美味しかったよ、イリーゼ」
イリーゼが作ってくれた弁当を食べ終わった俺は、目の前でまだ食べているイリーゼに向かってそう言った。
そう、目の前、対面だ。
最初は隣に座ろうとしてきてたんだけど、流石に断った。
学食ってかなり人が多いし、仲がいいところを見せつけるのはいい事なんだけど、仲が良すぎるのを見せるのも問題だと思うからな。
正直、何故かイリーゼはかなり不満そうだったけど、家では隣同士でくっついて食べる、ということを条件に納得してくれた。
……うん。絶対おかしいと思うけど、まぁ、兄妹だし、別にいいんだよな。
「お兄様のお口に合ったようで良かったです」
「あぁ、今更だけど、いつもありがとな、イリーゼ」
本当にいつ作っているのかは分からないけど、イリーゼが作ってくれている、っていうのは事実っぽいし、俺はそんな感じに礼を言った。
「お兄様のためなんですから、当然です」
「……ありがたいのは事実だが、あれだぞ? 別に無理しなくてもいいんだからな?」
「お気遣いありがとうございます、お兄様。でも、大丈夫ですよ。お兄様のために私が好きでしていることなんですから」
「……そ、そうか」
この弁当をイリーゼが作ったってことは、俺よりかなり早く起きていたことになる。
だからこそ、毎日は大変だろうと思ってそう言ったんだが、必要なかったみたいだな。
……俺だったら絶対無理だと思う。そんなに朝早く起きて、弁当を作るなんて。
一体、何がイリーゼを動かしてるんだろうな。
仲直りしたんだから、兄妹仲がいいだけって見方もあるかもだけど、仲直りする前も何も言ってないのに作ってきてくれてたりしたからな。
……まぁ、いいか。わざわざもうそれを考える必要なんてないと思うしな。
「それより、お兄様。もう、妥協なんてしようとしたら、ダメですよ?」
「え? あ、あぁ、分かった」
別に妥協して学食を食べようとしてた訳じゃないんだけど、俺は頷いた。
下手に否定して、こんな人気のあるところでイリーゼの魔力が溢れだしたら大変だからな。
そう思っていると、イリーゼは止まっていた手を動かして、昼食を食べるのを再開していた。
……俺だけ教室に帰る訳にもいかないし、待つか。
そもそも、教室に帰ったら帰ったでフェリシアンに絡まれるかもだし、俺にはここに残るって以外に選択肢なんて無いんだよ。
「……お兄様、そんなに見られたら、恥ずかしいです」
そうして、することも無いから、ボケーッとイリーゼの食べている姿を見ていると、イリーゼは恥ずかしそうにそう言ってきた。
……いくら兄妹とはいえ、普通に考えたら、異性の食べている姿を見つめるのはダメだよな。
なんか、一緒に寝たりしたし、勝手にいいものだと思ってたわ。
「悪い、イリーゼ」
「い、いえ、恥ずかしいだけで、嫌なわけではありませんから」
「まぁ、それでも、もう控えるよ」
「は、はい」
嫌……ではなかったみたいだけど、人の恥ずかしがるようなことを進んでするのも違うと思うからな。
と言うか、今考えると……いや、今考えなくても、俺、こんな可愛い子と一緒に眠ったりしたのか。……よく何も起きなかったな。
妹相手なんだし、我慢するに決まってるけど。
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